中小企業とBRICs (その2)

チャイニーズドリームに魅せられるサラリーマン起業家

引き続き、日経ベンチャーの中で財部誠一氏が連載している「中小企業とBRICs 熱狂と混沌の市場の中で、日本企業は・・・・・・・」の記事をご紹介しながら、内容を考えていきたいと思います。

(以下記事の要旨)
1970年代に日本企業の対中投資が始まって以来、幾多の中堅・中小企業が中国に投資してきたが、現実は厳しく、死屍累々である。だから日本の経営者たちからは中国の悪口が絶えない。

一方で今、中国で一旗上げようという日本人サラリーマンも増えている。

BRICsの中でも中国経済の充実ぶりは群を抜いている。米ゴールドマン・サックスのリポートによると、2041年には、中国がGDPで米国を追い越し、世界一になると予測している。

中国沿岸部に多数の世界の一流メーカーが生産拠点を構え、その周りを中堅・中小企業が取り囲み、巨大なピラミッド構造を構築している。

「世界の工場」としての中国の地位は当分、揺るぎそうにない。それだけに中国国内での外資系企業の競争は激しくなってきている。

中国国内の日本企業をターゲットに起業した日本人ビジネスマンが多数でてきている。一度中国経済の“熱さ”を肌で感じてしまった人々は、もう中国からは離れられない。今や日本にはない、サクセスストーリーを夢見ることができるからだ。

以上で記事の要旨は終わりです。

さて、1~2年ほど前の話になりますが、私は、中国国内に工場を構えるある日本人経営者の話を聞いたことがあります。その人の話によると、過去10年間、上海などの大都市の人件費、特に知識人の給料はすごい勢いで上がっているが、工場労働者の賃金はほとんど上がっていない、とのことでした。

なぜかと言うと、地方に住む農民の生活レベルはきわめて低く、都市住民との賃金格差は桁違いに激しい。したがって都市部に移住して工場に勤務したいと願っている人々が無数にいる。そのような人々が5億人位いるのではないか、という説さえある。

その人の会社では、各作業を流れ作業で分担させ、一つ一つのグループを5人くらいに分けている。なぜ、流れ作業かというと、流れ作業であれば仕事の全体がつかめず、社員が辞めてもノウハウが流出しない。またなぜ、5人なのかと言うと、数年毎に5人のうち2人くらいを首にしているが、3人が残れば仕事の引継ぎに影響は出ない。なにせ5億人もの「工場で働きたい人々」の待機者がいるので、首にしてもすぐに補充ができる。だから、インフレ社会の中で給料を据え置いても、それこそ異論を唱える者など誰もいない、したがって中国の工場の価格競争力は当分の間ゆるぎそうにない、とのことでした。

この安い労働力が「世界の工場」中国の経済を根本から支えているわけですが、中国政府による「住居移転の制限」により、地方の貧しい農民は、「一路都会へ!」とは簡単にはいかないようです。したがって、地方住民の不満はもはや限界に近づきつつある、とはよく日本でも聞く話です。また、地方農民の暴動を中国政府が必死になって抑え込んでいる、という噂も絶えません。

さて、それでは、経済産業省の最新の統計資料、我が国企業の海外展開の動向、を見てみましょう。

2005年度新規設立・資本参加現地法人数

北 米     76社
中 国    185社
ヨーロッパ  76社

2005年度撤退現地法人数及び撤退比率

北 米 135社 4.6%
中 国 109社 2.6%
ヨーロッパ 122社 4.9%

注.撤退比率=05年度撤退現地法人数/(05年度対象現地法人数+05年度撤退現地法人数)×100

つまり、2005年度には、北米やヨーロッパへの進出企業数の倍以上が中国へ進出し、中国から撤退した企業数も、撤退比率も、欧米進出に比べて少ない、と言うことがわかります。数字だけを見れば、日ごろ喧伝されているような、「理解しがたい国、中国」というイメージはなく、むしろ欧米人よりも、われわれ東アジア人に近い国「中国」、ではないでしょうか。

また、過去十年間の撤退比率を見ても、欧米進出に比べて、中国だけが「理解しがたい、ひどい市場」だとは言えないことがわかります。日本企業の海外進出の失敗は、中国の特殊性ではなく、グローバル化できない、日本企業そのものに問題があるのかもしれません。

(この項、続く)