移動通信システム 5Gと6G

5Gで選択を迫られる世界の国々

アメリカのトランプ大統領は、世界各国に対し「5Gネットワークでアメリカをとるか?中国をとるか?」と選択を迫っています。

5Gの時代が来れば、自動車や医療機器のみならず、社会インフラ全体が5Gネットワークに組み込まれていきます。

そのためネットワークが乗っ取られてしまうと国のインフラ全体を止められるという最悪の事態も考えられます。つまり5Gネットワークの安全性確保は国土防衛やテロ防止のためにも非常に重要な施策となります。

2019年10月31日、米国上院国土安全保障・政府活動委員会は、次のように発表しています。「5Gを支配する国はイノベーションを支配し、世界の他の諸国・地域の基準を定めるだろう。現時点でその国は米国ではない可能性が高い」

現在、中国のファーウェイ(華為)、スウェーデンのエリクソン(Ericsson)、フィンランドのノキア(Nokia)の3社が、移動通信システムの設備メーカーで世界の3強と言われています。

そしてファーウェイが通信設備のシェアで世界第1位、端末のシェアで世界第2位であるのに対し、エリクソンやノキアは、基地局等の通信設備は作るものの、端末にいたってはとうの昔に撤退しています。

そのためファーウェイは、現在のところ通信設備の設計施工、通信ネットワーク全体の構築、端末の製造販売という5Gネットワークに必要とされるすべてを一括して売り込むことができる世界で唯一の会社ということになります。このようにファーウェイは5Gでの展開を優位に進めながら、なおかつ新興国に対しては、融資までをもセットにして売り込もうとしています。

移動通信システムの国際標準を巡る争い

かつて3Gの時代、移動通信システムの標準化で米国と欧州が激しいシェア争いを繰り広げ、結局、欧州系の通信機器メーカーが米国メーカーを打ち負かしてしまいました。

その昔、ビデオテープの規格争いで、ベータマックスを打ち負かしたVHSがあっという間に国際標準になったように、移動通信システムの国際標準は、欧州が作ったW-CDMAで一本化されるかと思われました。

しかし、欧州と米国が規格争いをしている間に中国は独自の規格を作り、中国国内で普及させ始めたのです。そしてあっという間に中国の巨大市場を席巻し、数年後にはそのTD-SCDMAという中国規格も国際標準として認められるようになりました。その結果、移動通信システムの国際標準は、欧州系と中国系の2つが混在することになったのです。

その後、4Gの時代に入ると中国は中国市場での規模の利益を最大限に活用し、安価な4G端末を大量生産して、アフリカや東南アジア諸国へ売りまくります。

華為(ファーウェイ)という名前は、「“華”の“為”」、つまり「中華のため」と書きます。そのためファーウェイは、中国と言う国家をバックに大量の資金をつぎ込み、盛んに設備投資や研究開発を行いました。そして欧州市場にも進出し、ついにはエリクソンやノキアという欧州が誇る通信機器メーカーをも凌駕するようになったのです。

動き始めた6G開発

日本は次の次の世代へ向けての動きを開始しました。

「ポスト5G技術による半導体・通信システムは、自動運転などでわが国の競争力の核となる技術だ。自動車・産業機械メーカーとも連携して、最先端半導体技術の国内確保を目指し、わが国の技術力を結集した国家プロジェクトを検討していく」(安倍首相の発言 2019年10月29日の未来投資会議にて:ロイター)

「日本は5Gでは一歩出遅れたが、通信の基地局やネットワーク構築や携帯端末に関しては、優秀な会社をたくさん持っている。日本政府が主導する形でそのような会社をまとめ上げ、川上から川下までを一貫して国家戦略で進めるよう総理大臣が指示を出した」ということのようです。

現在日本で通信のネットワークそのものを作っているのはキャリアと呼ばれる通信会社となります。この通信会社が世界的なアライアンスを組んで通信会社主導で新しいネットワーク施設を作るというプロジェクトが始まりつつあります。

「NTTとソニー、米インテルは31日、2030年ころの実用化が見込まれる次々世代の通信規格で連携すると発表した。光で動作する新しい原理の半導体開発などで協力するほか、1回の充電で1年持つスマートフォンなどの実用化を目指す。2020年春に日本で発表する5Gでは後塵を拝した日本勢だが、次々世代の6Gでは米企業と連携して巻き返しを狙う」(日経新聞:2019年10月31日)

アメリカは5Gのネットワークから中国を完全に排除したいと考えているようですが、現状ではなかなか簡単にはいかないようです。4Gにおける既存のシェアもあり、バリューチェーンがグローバル化している中で、その鎖を今から本当に断ち切れるのかということのようです。新興国はもちろんのこと欧州にとっても日本にとっても完全に排除するのは、そう簡単なことではないでしょう。

そのためアメリカを中心とする旧西側諸国は、ポスト5G、つまり6Gにおいていち早く新しい仕組みを作り、そこから中国を排除して、世界的に発展させていきたいと考えているようです。

6Gの端末は5Gに接続できるが、5Gは6Gに接続できない。つまり旧西側諸国のシステムは中国側のシステムに接続できるが、その逆はできないようにしたいということです。

今後アメリカはいわゆる新COCOMを強化して、中国への技術移転をより厳しく規制するようになります。なかでも「みなし再輸出規制」が発動されれば、今後日本企業の立ち位置はより難しいものになっていくでしょう。