日本人が好んで使う表現の中に「日本人は農耕民族だから」・・・・・・・・・・という言葉があります。
そこには「日本人は農耕民族だが、西洋人や中国人は狩猟民族である。あるいは遊牧民である」という意味が潜んでいます。
本当でしょうか?
いろいろ調べてみると、日本人が中国から輸入された農耕を開始したのは今から3,000年ほど前のことのようです。かなり拡大解釈してもせいぜい5,000年ほど前です。
一方、ごく最近の調査によってわかってきたことは、のちにヨーロッパ全土へと広がっていく中東での農耕の開始は今から15,000年ほど前です。
また、中国での農耕の開始も奇しくも同じ時期で、やはり15,000年ほど前であったということが最近の調査でわかってきました。
つまり、西洋や中国と比べた場合、日本の農耕の歴史は圧倒的に短いということがわかります。
次に「歴史的に見て、日本では農民の割合が非常に高かった。だから日本人は農耕民族だ。」という説があります。
これは確かに正しくて、江戸時代や戦国時代の資料を調べると、(これも諸説がありますし、時期によっても違うのでしょうが)、全国民の84%から97%が百姓であったようです。
しかし、これは西洋や中国においてもまったく同様で、かつて国民の圧倒的大多数は農民だったのです。少なく見積もっても国民の8割~9割はまちがいなく百姓でした。
「いや、いや、西洋の農民はほとんどが遊牧民(放牧民)だから。」・・・・・・と主張する人がいます。
遊牧民(放牧民)とは一箇所に定住することなく、居住する場所を一年間を通じて何度か移動しながら、主に牧畜を行って生活する人たちのことです。
本当でしょうか?
「ギリシャ神話の羊飼い」や「アルプスの少女ハイジ」や「アメリカ西部劇のカウボーイ」の印象が強すぎて、西洋人はみな遊牧民だったようなイメージを持っている日本人が多いようですが、現実には羊飼いやカウボーイのような遊牧民(放牧民)は人数から言えば、圧倒的少数派です。
日本人がみな相撲取りとゲイシャでないように西洋人はみな羊飼いとカウボーイではありません(笑)。
なぜならば「穀物」は非常に栄養価の高い食物で、この穀物の定期的な確保、つまり「農耕」を確立させたことにより、人類は地球上の生態系の頂点に立ち、文明を発展させることができるようになったのです。
この辺のことに関しては、ジャレッド・ダイアモンド博士の「銃・病原菌・鉄(DVD)」に詳しく説明されていますので、興味のある方はぜひご覧になってください。
ところで、世界最大の漁業大国はどの国だかご存知でしょうか?
ご存知の通り、歴史的に見ても世界最大、最強にして圧倒的な漁業大国は日本です。
もし、「国民のほんの一部に放牧民がいるから西洋人は農耕民族ではない」とするならば、「日本人は世界最強の狩猟民族」となってしまいます(笑)。
つまり何を言いたいのかというと「農耕民族」「狩猟民族」「遊牧民」という区分け自体がナンセンスであり、実はなんの根拠もないということです。