TPP亡国論のウソ

日経ビジネス 2011年11月7日号が「TPP亡国論のウソ」と題して、大特集を組んでいます。

あまりにも量が多いので、ここでは一番の話題となっている「農業」に絞って、考えていきたいと思います。

以下、日経ビジネスの記事を抜粋して私がまとめたものです。

「日本国内のコメ消費量700万トンのうち400万トンが米国から輸入されるようになる」との農水省の試算に対して、東京大学の本間正義教授は下記のように指摘している。

● 米国産米のうち日本人が食べるジャポニカ米は30万程度。日本に向けて増産しても70万トン~100万トン程度だろう。400万トンのコメを輸入することは極めて困難で、700万トンのジャポニカ米など世界のどこにもない。

● 1993年、コメが大不作になった「平成の米騒動」の時には政府がタイ米を260万トンも緊急輸入したが、日本人はほとんど消費しなかった。

● 世界のコメ貿易は2500万トン程度で、700万トンもの需要が新たに加われば価格が急騰するであろうことも無視している。

また、キャノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁氏は、下記のように強調する。

● 「日中両国のコメの価格差は、1998年の6.5倍から、2010年には1.3倍に縮小した。減反政策を廃止すれば、国産米は9000円台に下落し、日中米価は逆転する」

2011.11.10 コメの輸出

「農家の失業が続出する」という議論に対しては、

● コメ農家の所得のうち、農業収入は8%にすぎず、92%は勤務所得と年金だ。年34万6000円の農業所得がなくなることよりも、勤務先の工場が海外移転してなくなってしまうことのほうが問題だ。

「日本の農業が壊滅する」という議論に対しては、

● 1990年代前半、日本が関税貿易一般協定(GATT)ウルグアイ・ラウンド交渉でコメ市場開放を迫られた時も、「日本の農業が壊滅してしまうと騒いだが、結果はそうはならなかった」(福井俊彦前日銀総裁)。

● そればかりか、ウルグアイ・ラウンド対策費として計上した6兆円もの財政資金は大半がハコモノなどに浪費され、農業の生産性向上にはつながらなかった。「壊滅」は自由化に瀕したときの常套句なのだ。

2011.11.10 コメだけで農家は

一部の農産物を異常なほどの高関税で保護し続けてきたが、

● 野菜はたった3%の関税でも、外国産との競争で生き残ってきた。

● 1977年、米国に輸入解禁を迫られたサクランボは、関税を8.5%にまで引き下げられたものの、外国産との棲み分けが行なわれていると農水省も認めている。

2011.11.10 関税その1

2011.11.10 関税その2

(以上で日経ビジネスの記事の抜粋は終わり)

1991年に牛肉の輸入自由化が行なわれた当時「日本の畜産業は壊滅する」と言われましたが、和牛は常に安定して生産され続けています。

2011.11.10 牛肉輸入量

「TPPに絶対反対!」とハチマキを巻いてシュプレヒコールを挙げる面々をテレビの画面で眺めていると、農業団体、日本医師会、郵政族議員などなど、ほとんどが昭和の時代に代表される既得権益に固執する面々ばかりです。

これだけ世界中がグローバル化により、大きく揺れ動いている最中に、日本だけが内向き思考で殻を閉じ、「開国」をせずに生き残っていけると本気で考えているのでしょうか。

日本は「安全でおいしく、しかも安いコメ」を中国へどんどん輸出して外貨を稼ぎ、コメが不作の年には、輸出分を国内消費に振り向ければいいのです。先進国ならどこもが考えるそのような普通の考え方が、食料安保なのではないでしょうか。

明治維新以降、「開国」や「自由化」重視の判断は、常に「鎖国」や「規制」重視の判断に勝ってきたと私は考えています。

「失われた20年」を「失われた30年」にしないためにも、日本の政治リーダーには賢明な判断と決断を望みます。