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ロケット・ボーイズと宇宙ビジネス

遠い空の向こうに

「遠い空の向こうに」は1999年公開のアメリカ映画です。
この映画を初めて見たのは、日本で公開される前の国際線の飛行機の中でした。

たまたま何気なく見た映画でしたが、その内容に感動し、思わず涙が出てきました。その後DVDを購入してからも何度も見たのですが、そのたびに感動して涙を流しています(笑)。

映画の原題は、”October Sky” ですが、原作となった小説の題名はロケット・ボーイズ(”Rocket Boys”) と言います。なぜならば原作者の Homer H. Hickam, Jr. は、NASA(アメリカ航空宇宙局)の元エンジニアで、彼の高校時代の思い出を綴った自伝がこの映画のベースとなっているからです。

1957年10月、ソビエト連邦は世界初の人工衛星スプートニクの打ち上げに成功します。それを見たアメリカ、ウエスト・ヴァージニア州の炭鉱町コールウッドに住む高校生のホーマー少年は感動し、自分でロケットを打ち上げようと夢を抱きます。

さっそく彼は悪友3人を誘い「ロケット・ボーイズ」を結成します。そしてそれを機になにをやってもダメだった劣等生ホーマー少年は、数学をはじめ理科系の科目を猛烈に勉強し、ロケットの構造を独学で研究し始めます。

廃れ行く炭鉱の町に生まれ育ったホーマー少年には、地元の皆から尊敬を集める、いわば「炭鉱の町の英雄」とも言える父がいました。「炭鉱夫の息子は炭鉱夫があたりまえ」だった時代、「自らの手でロケットを打ち上げたい」という夢を抱く少年と古くて頑固だが心から息子を愛す親父との葛藤がこの映画の主要テーマとなっています。

ついには科学コンテストで全米チャンピオンとなるホーマー少年と実は陰で息子を支えていた頑固親父との感動の物語です。

さて、この「ロケット・ボーイズ」を久々に思い出したのには訳があります。なぜなら昨今話題となっている「宇宙ビジネス」に関連して、日本版「ロケット・ボーイズ」を発見したからです。

「宇宙へロケット」は夢か?

「ロケット・ボーイズ」などと言ったら叱られてしまうかもしれませんが、以前このブログでも紹介した(→宇宙ビジネスは拡大が続くインターステラテクノロジズの創業メンバーはきっとそれに近かったのではないか、と勝手に想像しています。

インターステラテクノロジズのサイトによると「1997年、全国の宇宙好きが集まって、民間による低価格の衛星打ち上げが可能な最小ロケットの検討がスタートしました。(中略)当初は実験設備などなく、メンバーが住むアパートの風呂場で最初のロケットエンジンの燃焼実験を繰り返し、その後、拠点を北海道赤平市へ。」とあります。

「宇宙へロケットを飛ばす」という荒唐無稽な夢を実現させるべく実際に動き出した若者たちが、この日本にいたという事実がとてもうれしいことです。しかもそれが今から23年も前の話なのでさらに驚きます。

しかし、彼らの夢は本当に「荒唐無稽な夢」だったのか?

実は、この件に関しホリエモンこと堀江貴文氏が複数のネット上の番組で話をしているのでそれらをまとめて下記に紹介させていただきます。言うまでもありませんが、堀江貴文氏は、インターステラテクノロジズの創業者であり、出資者でもある人です。

彼の説明によると「宇宙ビジネスは間違いなく勝算のあるビジネス」とのことです。

日本にとって最も有望な成長産業は「宇宙ビジネス」

(以下は堀江貴文氏の複数のYouTube番組での発言を私なりにまとめたものです)

現在日本の主力産業である自動車産業は、EV (Electric Vehicle) と自動運転の普及により今後間違いなく衰退していく。

それにとって代わる日本の有望産業は宇宙開発ビジネスだ。なぜならば日本には他国にない4つの大きなアドバンテージがあるからだ。

日本の優位性①「立地」
地球は東に自転している。なので、ロケットを打ち上げる際に自転のスピードを利用できれば有利になる。そのため静止軌道のようなメジャーな軌道に打ち上げる衛星は、すべて東に打ち上げられている。たとえば国際宇宙ステーションに代表されるものがそうだ。日本の立地が良いというのは太平洋が日本の東にあるから。そのため射場の隣に工場があるみたいな感じになる。

中国は東側が日本なので、ロケット打ち上げに関しては国内にそんなに良い場所がない。中国奥地にあるロケット打ち上げセンターから1段目が村に落下して村が壊滅したなんて話もあった。太平洋だったらそのようなリスクはほぼない。中国は初めて海南(ハイナン)島に宇宙基地を作ったが、国土が広いうえに島だからモノを運ぶだけでもかなり大変。

北朝鮮は日本列島を超えて打ち上げる場合も津軽海峡の上を超えて東に打ち上げている。日本国内に落ちたら大変なことになるからだ。

フランスなんかは東に海がないので南米のフランス領ギニアで打ち上げている。唯一西に打ち上げている国がある。それはイスラエルだ。イスラエルは東に海がないので西打ちをしている。だからすごいハンデがある。

日本は東と南が太平洋で完全に空いている。こんな国は多くない。たとえばオーストラリア、ニュージーランド、アメリカと日本ぐらい。地政学的にみても日本はとても有利だ。

日本の優位性②「サプライチェーン、人材、ロジスティクス」
宇宙開発は産業の10種競技みたいなもの。その国の産業の総合力が求められる。電子機器、工作機械、素材などのサプライチェーンやその人材、ロジスティックスまでを含めると日本は非常に有利な国。

たとえばジャイロセンサーの類もそうだし、CFRP(ガラス繊維複合材料)というカーボンファイバーの板は東レが世界のトップシェアでこれも国内調達できる。良質のアルミ合金やそれを接合するための工作機械なんかも全て国内調達できる。

これらの多くは軍事転用できるので輸出規制がかかっている。そのためなかなか海外から調達するのは簡単ではない。しかも日本は狭い上にロジスティックスもきちんと整備されているので容易に手に入る。このような国は実は日本とアメリカくらいしかない。

良いロケットを作ってもすぐに東南アジアなどの新興国に追い上げられるかと言うとそんなことはない。まず東南アジアでは50年経っても作れない。なぜかというと鉄を作れない国にロケットは作れないからだ。

ただの鉄ではなくタングステンやモリブデンが入っている特殊鋼と呼ばれる固い鉄だ。これはすごいテクノロジーで、ロケットの部品に使われる。また、工作機械の治具なんかは特殊鋼がなければ作れない。

「鉄は国家なり」と言うが、まさに「特殊鋼は国家なり」だ。だからそれをインドネシアやフィリピンで作ろとしても特殊鋼の技術がないし、その前にまず製鉄所がない。日本は頑張って1901年に八幡製鉄所を作ってよかった。その時代からの積み重ねがあって現在に至っている。

日本の優位性③「資金調達能力」
日本は資金調達もできる国だができない国もある。たとえばニュージーランドにもロケットのライバル企業はあるがニュージーランドでは資金調達ができないし、部品調達もできない。そのため射場だけを残してアメリカへ移転してしまった。

日本の優位性④「国際武器取引規制」
アメリカの武器輸出管理法の中にITAR(アイター、International Traffic in Arms Regulations)と呼ばれる国際武器取引規則がある。

ロケットに必要な部品のほとんどは軍事転用できる部品であり、宇宙開発に投資すると言うことはロケット、つまりミサイルに投資するということなので規制が非常に厳しい。

部品の輸出入だけでも非常に規制が厳しいわけだから、すぐれた部品の技術をすでに持っている日本はそれだけで優位に立てる。また、ロケットの完成品の輸出はできないため「ロケットの打ち上げ」というサービスを外国に売るしかない。だから日本国内に継続的にお金が落ちる。

小型ロケットで衛星を飛ばせたら、それを大型化するのは難しいことではない。ここにはすごいチャンスがある。国際間競争を考えると宇宙開発ビジネスは確実に日本の大きな主力産業になりうる。日本政府は宇宙産業分野の振興にもっとお金を使うべきだ。

(以上は堀江貴文氏の複数のYouTube番組での発言を私なりにまとめたものです)

宇宙ビジネスは拡大が続く

宇宙に刻む「新たな一歩」

アメリカのアポロ11号が月面に着陸し、人類が初めて月に降り立ったのが、今からちょうど50年前の1969年7月のことでした。

私が小学校6年生の時にテレビで見た「人類月に立つ」瞬間の興奮が今でも忘れられません。

そして2017年12月、アメリカのトランプ大統領は、有人月面探査や火星などをターゲットにした宇宙探査ミッションの大統領令に署名しました。宇宙開発においてもロシアや中国に決して遅れをとってはならない、というこれもある意味ではアメリカファーストのひとつなのかもしれません。

さて、それを受け2019年5月には、米国航空宇宙局(NASA)が、2024年までに男女2人の宇宙飛行士を月へ送るアルテミス計画を発表しました。これが実現すれば、初めて女性が月に降り立つことになります。

今後はアメリカを中心に民間企業を含めた宇宙関連ビジネスが活発化することは必至でしょう。

ところで私の書棚に1969年に発行されたLIFE誌の “SPECIAL EDITION” があります。父の遺品ですが、B4より若干大きなサイズなので、見開きでB3サイズという迫力ある写真満載の雑誌です。

料金が、”$1.00″ と書いてあります。当時は1ドルが360円だったので、今の物価水準になおせば3,600円くらいでしょうか。あくまでも米国内での料金なので、日本に輸入したときの値段は当然もっと高くなっていたことでしょう。

全部で92ページもあるそこそこ分厚い雑誌ですが、雑誌内に広告がひとつもありません。 “SPECIAL EDITION” だからかどうかはわかりませんが、広告だらけの現在の雑誌と比べれば、その違いに驚きます。「人類が初めて月に立つ」という偉大な瞬間を記した書物なので、永久保存版としてその内容に敬意を表して一切の広告を排除したのでしょうか?もしそうだとしたらその雑誌社の姿勢に私の方から敬意を表します。

さて、一昨日の日本経済新聞の記事で宇宙ビジネスに関するとても興味深い記事が出ていたので、下記にご紹介させていただきます。

2019年7月9日 日経新聞朝刊より

「5月に観測ロケットの宇宙までの打ち上げに成功したインターステラテクノロジズ(IST、北海道大樹町)が、13日にも再びロケットを打ち上げる。同社はわずか23人の技術者集団。ネット通販も使いながらコスト削減を徹底し、打ち上げ費用を従来の6分の1程度にするめどをつけた。価格破壊でロケットの世界に風穴を開けつつある。(中略)

世界では民間が主導し宇宙ビジネスは拡大が続く。宇宙関連NPOの米スペースファンデーションによれば、17年の市場規模は3835億ドル(約41兆円)と12年比で4割増えた。40年に1兆ドルを超えるとの予測もある。(中略)

ロケットの価格競争で宇宙輸送のハードルが下がれば、衛星データの販売や宇宙資源の開発などの可能性は広がり、日本勢の参入への期待も大きい。(後略)」

(記事の引用はここまで)

ホリエモンの会社

インターステラテクノロジズと言えば、ホリエモンこと堀江貴文氏が出資するロケット開発で有名な宇宙ビジネスベンチャーです。その堀江氏が、かつてある番組のインタビューで以下のような話をしていました。

ロケットは工業製品なので量産すれば安くなる。だからたくさん打ち上げれば安くなるという非常に簡単な話。ロシアのソユーズなんて1960年代の技術を使って、一人70億円の料金をとって宇宙旅行ビジネスをしている。しかし、その時代から相当な技術革新がされているので、ロケットに必要な部品も今ではかなり安くなっている。

一番わかりやすいのはコンピューターやセンサーの類でものすごく安くなっている。実はスマートフォンの中に入っているコンピューターやセンサーで問題なくロケットを制御できる。アビオニクス(航空機等に搭載される電子機器)系の部品もどんどん安くなっていて、素材技術もどんどん向上している。

国がロケット開発をやるとなにがまずいって、国は無駄に高い技術を使おうとする。なぜなら最先端の技術じゃないと予算がおりないからだ。かつて『2番じゃだめなんですか?』って言った人がいたが、あれはまさに核心をついている。国がやる科学技術って1番じゃないと予算がつかない。僕たちはジェネリック薬品的な、もう特許が切れた、枯れた、安い技術を使って性能の低いロケットを作っている。

国が作っているのがF1マシンのスーパーカーだとしたら、僕らが作っているのは(原付バイクの)スーパーカブだ。人が乗って走れればそれでいい。安くてしょぼくてもそれで十分使える。」

さすがホリエモン、目のつけどころが違いますね。これからの展開が本当に楽しみです。ぜひこのビジネスを成功させ、近い将来、日本中が宇宙関連ビジネスで湧きかえるようになってほしいものです。