中小企業とBRICs」カテゴリーアーカイブ

中小企業とBRICs (その6)

メディアが作ったインド投資ブームを疑う理由――その3

引き続き、日経ベンチャーの中で財部誠一氏が連載している「中小企業とBRICs 熱狂と混沌の市場の中で、日本企業は・・・・・・・」の記事をご紹介しながら、内容を考えていきたいと思います。

(以下、記事の要旨)
ヒンドゥー教を背景に3000年もの歴史を持つカースト制度は、日本人には想像もつかぬ複雑さと重さを持ってインド社会に沈殿している。

・ バラモン(僧侶・司祭階層)
・ クシャトリア(王侯・武士階層)
・ ヴァイシャ(平民・商人階層)
・ シュードラ(上位3カーストの被征服民)
この4つのカーストが広く知られているが、実はこの下にアウトカーストと呼ばれる階層があり、そのアウトカーストもまた、上下二つの階層に分かれている。

さらに身分制度だけでなく、「ごみ拾い」は孫の代まで「ごみ拾い」という徹底ぶりである。インドではよく見合いを募集する新聞広告が出るが、プロフィールには必ずカーストの階層が明記されている。

インドに工場を持つある日系企業を取材すると、管理職は例外なしにバラモン・クシャトリアという上位2階層の出身者だけ、工場労働者はヴァイシャ・シュードラという下位2階層の出身者だけであった。

しかし、例外もある。インド最大の自動車メーカーであり、かつインドで最も成功している日系企業、スズキの鈴木修会長によると、スズキのインドの工場では、同じ食堂で、インド人の工場労働者も管理職も一緒に食事をとっているという。鈴木会長がまず率先垂範して、自らが工場労働者たちと一緒に食事をとり始め、その姿を見たインド人管理職たちも徐々に仲間に加わり、今ではそれが当たり前になっているという。

いずれにせよ、強く、明確な意思を持った経営者でなければインド社会では到底やっていけそうにないだろう。

以上で記事の要旨は終わりです。

この記事を読んで、有名な「たとえ話」を思い出しました。アフリカへ靴を売りに行った2人の日本の商社マンの話です。

商社マンAはこう会社へ報告しました。
「アフリカで靴を売ろうなんて、絶対に無理です。だってみんな裸足ですから」

商社マンBはこう会社へ報告しました。
「最高のビジネスチャンスです!だってアフリカの人は誰も靴を履いていないから」

インドにおけるカースト制度は、きっと日本人の想像をはるかに超える過酷な現実なんでしょう。しかし、日本でも欧州でもかつては厳しい身分社会を経験して現在に至っています。

カースト制度は2,500年続いたという説もあれば、5,000年続いたという説もあるようですが、いずれにせよ300年も5,000年も同じことです。五十歩百歩です。人間の寿命は長くてもぜいぜい50~60年なのですから。

実際、第10代インド共和国大統領、コチェリル・ラーマン・ナラヤナン氏(1921-2005)は、最下層のカーストとして生まれ、最後は大統領にまで昇りつめました。

日本の「士農工商」のように、カースト制度は、職業により身分を区別する制度のようですが、カーストが成立した時期には存在しなかった職業などはカーストの影響を受けにくいそうです。そのため、インドでIT関連事業が急速に成長しているのは、カーストによる差別を嫌った人たちが集まってきているからだそうです。

スズキ自動車の鈴木会長の言う「身分制度なんか関係ない!みんな一緒だ」という考えに、必ず多くのインド人たちが賛同するはずです。成功している日系企業が少ないだけに、逆に大きなビジネスチャンスなのかもしれません。

(この項、終わり)

中小企業とBRICs (その5)

メディアが作ったインド投資ブームを疑う理由――その2

引き続き、日経ベンチャーの中で財部誠一氏が連載している「中小企業とBRICs 熱狂と混沌の市場の中で、日本企業は・・・・・・・」の記事をご紹介しながら、内容を考えていきたいと思います。

(以下、記事の要旨)
インドは3年連続して8%台の高成長を遂げ、2007年度も7.3%の成長率になると、国際通貨基金(IMF)は予想している。しかもインドは人口10億人の大国だ。

にもかかわらず、2004年11月時点で、中国に進出している日系企業数が約5,000社なのに対して、インドは約300社に過ぎない。

海外からの直接投資が多いアジアの国々
1位  中 国  724億ドル
2位  香 港  359億ドル
3位  シンガポール 201億ドル
4位  韓 国  72億ドル
5位  インド  66億ドル
<国連貿易開発会議(UNCTAD)の2006年の資料より>
つまり、中国とインドを横並びで語ることがいかに無意味であるかがわかる。

なぜ、インドに対する海外からの直接投資がそんなに少ないのか?

インドで成果を上げている建設機械メーカー、コマツの関係者に尋ねると
・ 関税率が高くて部品を輸入するとコストが大幅に高くなってしまう。
・ インド人の平均的ワーカーの給料は高く平均4万円ほど(上海の労働者の平均賃金は3万円前後)
・ 製造コストだけを考えたらインドに進出する理由は見出せない。

また、インド人は理屈っぽく、自己主張が強烈で、インドは労働争議の激しい国として知られている。

このような理由から、日本の大手企業の間では、ポスト中国の投資先として、ベトナムブームが起きている。

以上で記事の要旨は終わりです。

私は2005年9月に「JETROのベトナムITミッション」に参加しました。その時の話をジェスコーポレーションのホームページにも載せているのですが、改めてここでも紹介させていただきます。

「2005年9月に1週間かけてホーチミン市とハノイ市を訪問し、多数のIT関連企業の人たちと話をする機会を持ちました。ベトナムは国民の半数が25歳以下という若い国なので、国全体に活気と熱気を感じました。ちなみに World Fact Book 2005によると、ベトナムの中間年齢は25.51歳で、 中国は32.26歳、日本は42.64歳とのことです。

国民性は真面目、勤勉、正直、シャイで手先が器用で目が良く(確かにメガネをしている人は少なかったでした)、性格的に日本人に近いので扱いやすいとの声(在ベトナム邦人)もありました。

国際数学オリンピックではこの数年間ベトナムは4位(アメリカ、ロシア、中国が1~3位、日本は10位)の座を占めているそうです。基本的に頭がよく理数系の仕事に向いていると思うとのことです(JETROハノイ所長の話)。

IT技術者はほとんど英語をしゃべれると聞いていたのですが、実際にはそう多くないという感じでした。ちなみにTOEICの点数は日本より下で、世界最低とのことです(JETROホーチミン所長の話)。

人口8,300万人の国でITソフトウエア技術者の数が12,000人から20,000人と言われているため、技術者の絶対数があまりにも足りません。そのうえ日本語を理解できる技術者はほんの少数のため、あっという間にキャパシティが満杯になってしまいます。日本メーカーがベトナムに工場を持つと、習熟に時間のかかるIT技術者よりも、手っ取り早く稼げる工場労働者のほうへ日本語の話せる人材が流れて行ってしまう、という心配もあります。

ベトナム政府も今後日本語のできるIT術者の養成に力を入れていく方針ですが、民間企業(ホーチミンにある日本とベトナムの合弁企業)で日本語のわかるIT技術者を独自に育てている会社もあります。日本語のわかるIT技術者を年間50人から100人輩出していく予定で、2005年の時点で、既に第1期生がスタートしています。

日本企業にとっては、工場移転やソフトウェアのオフショア開発の案件のみならず、今後急速に発展していくベトナム経済そのものから目が離せません。」

(この項、続く)

中小企業とBRICs (その4)

メディアが作ったインド投資ブームを疑う理由――その1

引き続き、日経ベンチャーの中で財部誠一氏が連載している「中小企業とBRICs 熱狂と混沌の市場の中で、日本企業は・・・・・・・」の記事をご紹介しながら、内容を考えていきたいと思います。

(以下、記事の要旨)
2003年秋、ゴールドマン・サックスは、インドのGDPは2016年にイタリアを追い越し、2032年には、日本に追いつくと予想を発表した。さらに、日本のマスメディアもインドへの投資ブームを後押しした。

その結果、日本からインド株への投資信託の残高は、2004年秋の20億円から、2005年9月の5,000億円へと、250倍に急増した。

しかし、過去10年間、日本のマスコミが取り上げる注目企業の顔ぶれは、変わっていない。いつもインドのIT企業“インフォシス・テクノロジーズ”と日本の自動車メーカー“スズキ”の2社だけだ。

インドに進出している日本企業を見つけて、取材を申し込んでも「うまくいっていない」ことを理由に断る企業が後を絶たない。唯一の例外が建設機械メーカーの“コマツ”だけだった。

日本と交戦経験のないインドには、中国や韓国のような半日感情もないし、政治体制も民主主義。日本との親和性は一見良さそうである。だが、実は日本とインドの距離は地球と月ほどにも遠い。

以上で記事の要旨は終わりです。

“コマツ”は、土木・建設機械に関する特殊な技術を持っているため、世界的な資源需要逼迫の折、いまやBRICsのみならず、世界各国から引っ張りだこの企業です。

一方の“スズキ”ですが、2005年にインド国内で生産された95万台の乗用車のうち、実に55%が“スズキ”製だったそうです。いまや“スズキ”抜きに、インドのモータリゼーションは語れないほど、圧倒的な存在感を持ってスズキはインド市場に君臨しています。

しかし、2004年11月の時点で、中国に進出している日系企業数が約5,000社なのに対し、インドは約300社に過ぎません。圧倒的大多数の日本企業が、“インド進出”に失敗しているのです。なぜでしょうか?

財部氏は、その理由を2つあげています。一つは「インドの労働市場(人件費と気質)」の問題で、もう一つは「インドのカースト制度」の問題としています。

(この項、続く)

中小企業とBRICs (その3)

脅威の市場 ロシア

引き続き、日経ベンチャーの中で財部誠一氏が連載している「中小企業とBRICs 熱狂と混沌の市場の中で、日本企業は・・・・・・・」の記事をご紹介しながら、内容を考えていきたいと思います。

(以下、記事の要旨)
モスクワでは今、消費が爆発している。「脅威の市場」と化しつつあるモスクワには、欧米資本が殺到している。だが残念なことに、日本企業の存在感は無に等しい。

ペレストロイカ以降、猛スピードで市場経済が進んだ90年代、ロシア経済は大混乱に陥った。マフィアが外国製品を輸入しては、高値で売りさばくブローカー商売であぶく銭を稼いでいた。

そこに98年、金融危機が勃発、ルーブルが4分の1に暴落し、ブローカー商売は成り立たなくなった。

「マフィア経済」が表舞台から去ったことを「チャンス」と見た欧米企業は、ロシア進出を加速した。

一方、金融危機に恐れをなした多くの日本企業は、ロシアから撤退した。

欧米資本の算入で、モノが市場にあふれ出てきた矢先に資源価格が高騰、ロシア経済は劇的な成長期に突入した。

以上で記事の要旨は終わりです。

さて、最近のロシアの天然資源やヨーロッパのエネルギー事情に関し、私なりに色々と調べてみました。多岐に渡る資料の要旨を下記に簡単にまとめてみました。

2006年元日、ロシアのプーチン大統領は、ロシアからウクライナへ送られる天然ガスパイプラインの圧力をいきなり2割下げ、西欧諸国へ大混乱を引き起こしました。ウクライナが天然ガスの単価値上げに応じなかったためです。

そのパイプラインは、ウクライナを通って欧州諸国にも天然ガスを供給していました。世界中から非難を浴びたプーチン大統領は、翌2日にはパイプラインの圧力を元に戻し、結局、ロシアとウクライナの望む中間の金額で単価交渉は決着しました。

この一件で欧州諸国のロシアに対する不信感は一挙に高まりました。しかし、地理的にもロシアに近い西欧諸国が、エネルギー大国ロシアに頼らない方向に動くことは難しいでしょう。

ドイツではむしろ、ロシアからのエネルギー供給を増やす方向へ動いています。ドイツとロシアは、合弁でバルト海の海底にパイプラインを通し、ロシアと仲の悪いポーランドやバルト三国を迂回してロシアの天然ガスをドイツに運ぶ巨大プロジェクトをスタートさせました。このパイプラインは、2010年から稼働することになっています。将来は英国その他の欧州諸国へも伸ばす予定です。

また、EU諸国は、カスピ海沿岸諸国からロシアを経由せずに、トルコ、ブルガリア、ルーマニア、ハンガリーを経由してオーストリアのウィーンに至る全長3,300キロメートルの長大なパイプラインを建設することに合意しました。2011年の完成を目指しています。これら数々の超巨大プロジェクトでは、日本の商社、伊藤忠や丸紅や、日本のメーカーが、一役買うことになります。

天然ガスは石油に比べて二酸化炭素の排出を制限できるので、地球温暖化防止策に協力している西欧諸国は、発電所などで使うエネルギー源を、石油から天然ガスに切り替える傾向を強めています。そのため、すでに天然ガスは世界中で奪い合いに近い状態です。

加えて、中国やインドといった人口大国が高度経済成長を始めた結果、世界的に石油の需要が増え、かなり逼迫してきています。

ロシアは、世界最大の天然ガス産出国、かつ、世界第2位の石油産出国ですから、国際舞台において、ロシアの発言力がこれからますます強まっていくことはほぼ間違いないでしょう。

中小企業とBRICs (その2)

チャイニーズドリームに魅せられるサラリーマン起業家

引き続き、日経ベンチャーの中で財部誠一氏が連載している「中小企業とBRICs 熱狂と混沌の市場の中で、日本企業は・・・・・・・」の記事をご紹介しながら、内容を考えていきたいと思います。

(以下記事の要旨)
1970年代に日本企業の対中投資が始まって以来、幾多の中堅・中小企業が中国に投資してきたが、現実は厳しく、死屍累々である。だから日本の経営者たちからは中国の悪口が絶えない。

一方で今、中国で一旗上げようという日本人サラリーマンも増えている。

BRICsの中でも中国経済の充実ぶりは群を抜いている。米ゴールドマン・サックスのリポートによると、2041年には、中国がGDPで米国を追い越し、世界一になると予測している。

中国沿岸部に多数の世界の一流メーカーが生産拠点を構え、その周りを中堅・中小企業が取り囲み、巨大なピラミッド構造を構築している。

「世界の工場」としての中国の地位は当分、揺るぎそうにない。それだけに中国国内での外資系企業の競争は激しくなってきている。

中国国内の日本企業をターゲットに起業した日本人ビジネスマンが多数でてきている。一度中国経済の“熱さ”を肌で感じてしまった人々は、もう中国からは離れられない。今や日本にはない、サクセスストーリーを夢見ることができるからだ。

以上で記事の要旨は終わりです。

さて、1~2年ほど前の話になりますが、私は、中国国内に工場を構えるある日本人経営者の話を聞いたことがあります。その人の話によると、過去10年間、上海などの大都市の人件費、特に知識人の給料はすごい勢いで上がっているが、工場労働者の賃金はほとんど上がっていない、とのことでした。

なぜかと言うと、地方に住む農民の生活レベルはきわめて低く、都市住民との賃金格差は桁違いに激しい。したがって都市部に移住して工場に勤務したいと願っている人々が無数にいる。そのような人々が5億人位いるのではないか、という説さえある。

その人の会社では、各作業を流れ作業で分担させ、一つ一つのグループを5人くらいに分けている。なぜ、流れ作業かというと、流れ作業であれば仕事の全体がつかめず、社員が辞めてもノウハウが流出しない。またなぜ、5人なのかと言うと、数年毎に5人のうち2人くらいを首にしているが、3人が残れば仕事の引継ぎに影響は出ない。なにせ5億人もの「工場で働きたい人々」の待機者がいるので、首にしてもすぐに補充ができる。だから、インフレ社会の中で給料を据え置いても、それこそ異論を唱える者など誰もいない、したがって中国の工場の価格競争力は当分の間ゆるぎそうにない、とのことでした。

この安い労働力が「世界の工場」中国の経済を根本から支えているわけですが、中国政府による「住居移転の制限」により、地方の貧しい農民は、「一路都会へ!」とは簡単にはいかないようです。したがって、地方住民の不満はもはや限界に近づきつつある、とはよく日本でも聞く話です。また、地方農民の暴動を中国政府が必死になって抑え込んでいる、という噂も絶えません。

さて、それでは、経済産業省の最新の統計資料、我が国企業の海外展開の動向、を見てみましょう。

2005年度新規設立・資本参加現地法人数

北 米     76社
中 国    185社
ヨーロッパ  76社

2005年度撤退現地法人数及び撤退比率

北 米 135社 4.6%
中 国 109社 2.6%
ヨーロッパ 122社 4.9%

注.撤退比率=05年度撤退現地法人数/(05年度対象現地法人数+05年度撤退現地法人数)×100

つまり、2005年度には、北米やヨーロッパへの進出企業数の倍以上が中国へ進出し、中国から撤退した企業数も、撤退比率も、欧米進出に比べて少ない、と言うことがわかります。数字だけを見れば、日ごろ喧伝されているような、「理解しがたい国、中国」というイメージはなく、むしろ欧米人よりも、われわれ東アジア人に近い国「中国」、ではないでしょうか。

また、過去十年間の撤退比率を見ても、欧米進出に比べて、中国だけが「理解しがたい、ひどい市場」だとは言えないことがわかります。日本企業の海外進出の失敗は、中国の特殊性ではなく、グローバル化できない、日本企業そのものに問題があるのかもしれません。

(この項、続く)

中小企業とBRICs (その1)

業績絶好調の日本の大企業は、海外で大儲けしている!

日経ベンチャー(日経BP社発行)という月刊誌に、フリーのジャーナリスト、財部誠一(たからべせいいち)氏が連載している記事があります。「中小企業とBRICs 熱狂と混沌の市場の中で、日本企業は・・・・・・・」という題名なのですが、なかなか興味深い内容です。また、われわれ翻訳業界にも大いに関係があるので、これから何回かにわたってその内容をご紹介しながら考えていきたいと思います。

まず、第1回は「中小企業が好景気に乗れない理由」という題ですが、その内容を下記にまとめてみます。

日本の景気拡大は、「いざなぎ景気」を抜いて戦後最長。
上場企業は4年連続増益。直近の3年は、毎年史上最高益を更新
大手企業のボーナスは去年(2006年)史上最高額に達した。

ところが、多くの中小企業経営者は好景気を実感していない。
そこから生まれた発想が「格差」、
景気がいいのは「東京だけ」、
調子がいいのは「大企業だけ」

しかし、「景気がいいのは東京だけ」はまったくのウソ。
トヨタのお膝元である愛知県、
大規模な自動車工場の集積地となった福岡県、
液晶テレビでリードするシャープの工場誘致に成功した三重県など、
好調な地方は少なくない。今起こっているのは東京と地方の格差ではなく、地方間格差であり、その差は業績好調な大企業誘致の成否の差である。

要するに今の景気拡大のエンジンは大企業の劇的な業績回復に尽きる。
しかし、大企業ならどこもみな好調というわけではない。
業績好調組の共通点は、海外でとてつもない利益を上げている、ということだ。
海外で巨大な営業利益を上げている日本企業の例は、
トヨタ  8,023億円
日産   5,117億円
ホンダ  5,024億円
松下電器 1,000億円以上
キヤノン 1,000億円以上

実は今、世界景気はかつて人類が経験したことがない、火をふくような好景気に見舞われている。IMF(国際通貨基金)によると、過去3年間、世界の経済成長率は4%を上回り、06年、07年もこの驚くべき高成長が続くと予測されている。

要するに今、素晴らしい業績を上げている大企業は、絶好調の世界経済を、自社の収益拡大に直結させた企業ばかりだ。そこには劇的なビジネスモデルの転換が見られる。

単純な「輸出」という発想を捨て、世界のどこで生産し、いかなるブランドを立ち上げ、どのような販売ネットワークを構築するか、を考えることが重要。

人口減少時代に突入した日本の国内市場の成長にはおのずと限界がある。だが、「フラット化する世界」は今、かつてない高度経済成長を迎えている。その象徴がBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)である。この歴史的チャンスに目をつむっているようでは経営者とは言えない。中小企業も本気で世界を視野に入れるべき時代がやってきたのである。

さて、以上で記事は終わりですが、この中の「単純な輸出という発想を捨て」という記述が気になります。確かに日本の大手電機メーカー各社は、海外での生産高や販売高を急激に伸ばしてきています。海外での販売高がこんなに急激に伸びているのだから、当然翻訳の発注量もうなぎ登り、と思いきや、ほとんど増えていなかったり、逆に減っていたりもします。

なぜだろうと不思議に思い、調べてみたことがありますが、わかったことは「国内で生産して輸出する」という従来型ケースと「海外で生産して海外で販売する」という21世紀型ケースの違いにある、という私なりの結論に達しました。

部品をアジア諸国に点在する現地法人で生産し、北米や欧州へ輸送して、そこで組み立て、そこで販売する。そして、現地で組み立てを担当した企業のマニュアルライターが、簡単に作られたスペックだけを頼りに、現地の言葉でマニュアルを書き起こす。したがってそこには「翻訳」という工程が発生しない。

20世紀の翻訳会社は、国内のオフィスで翻訳の仕事が発生するのを待っていればよかったのですが、21世紀の翻訳会社は、BRICsのような成長著しい新興国へ自ら乗り出し、「翻訳関連ジョブ」を開拓していくセンスが求められる、ということなのでしょうか?

(この項、続く)