2009年7月25日(土)、日経新聞朝刊に「世界のIT景気 回復探る ネットサービス堅調」というタイトルの記事が出ていました。下記はその中で使われていた表とグラフです。
「足元の業績にはばらつきはあるものの、(IT)業界内には『需要低迷の最悪期は脱した』との見方が広がりつつある」とあります。
以下、日経の記事の中から一部抜粋して、わかりやすく編集してみました。
<好調 アップル>
高性能携帯iPhone(アイフォーン)で新たな市場を開拓したアップルは快走が続く。iPhone販売は7.3倍の521万台に増え、売上高が8%減ったパソコン事業の穴を埋めた。iPhone向けソフトは65,000種類に達し、ソフト開発業者と共存共栄する事業モデルも確立されつつある。
<好調 アマゾン・ドット・コム>
ネット小売最大手のアマゾン・ドット・コムも売上高14%増と2けた増収。既存の小売各社が苦戦するなか、割安な価格や品ぞろえの豊富さが評価された。
<好調 グーグル>
ネット広告分野ではグーグルの一人勝ちの様相だ。パソコン用基本ソフト(OS)への参入も表明、ネット広告を軸にした勢力の拡大を急ぐ。
<低調 ヤフー>
3四半期連続の減収。
<好調 インテル>
MPUの販売が伸びず売上高が前年同期比で15%減。ただ、「ネットブック」向けのMPU「アトム」関連売上高に限れば前期比65%増と大きく伸びた。
<低調 マイクロソフト>
「ネットブック」の普及など市場環境の変化に対応が遅れ、パソコンやサーバー販売が振るわず、打撃を受けた。主力のパソコン用OS「ウィンドウズ」部門は売上高、営業利益とも3割減った。
<好調 サムスン電子>
業績回復で先行するのが韓国勢。サムスン電子の営業利益は前年同期比5%増の2兆5,200億ウォンと世界景気後退前の水準まで戻した。販売価格上昇で液晶パネル部門と半導体部門の営業損益が黒字転換を果たした。
IT業界では、需要低迷の底は打ったとの認識が広がり始めているが、回復の主役は個人。
米調査会社アイサプライは09年のパソコン出荷台数を前年同期比4%減と見込むが、個人利用が多いノートブック型は12%増を予想。
一方で企業のIT投資は回復が遅れている。IBMの4~6月期も情報システムに使う高性能コンピュータなどハード部門は売上高が前年同期比26%減。顧客別売上高でも製造業や金融業向けは前年割れだった。
<以上、日経新聞の記事終わり>
さて、翻訳業界に対する影響ですが、IT関連企業が翻訳業界の重要なクライアントの一つであることはまちがいないので、その直接的な影響も徐々に現れてくるでしょう。
しかし、「回復の主役は個人」であって、「企業のIT投資は回復が遅れいる」という点が問題です。特に製造業と金融業のIT投資額が増えないと、翻訳業界への波及効果も限定的とならざるを得ません。
現在でも中国を中心とする途上国向けの輸出は、欧米向けに比べればまだ堅調なわけですが、重厚長大産業から発生するドキュメントの翻訳量はそう多くを期待できません。
つまり、同じ金額の輸出であっても、IT関連分野と重厚長大産業とでは、そこから派生する翻訳の需要が圧倒的に違うからです。
各国政府が積極的な減税と公共投資を行う
→ 世界各地で個人の財布のヒモが緩む
→ お金が企業へ流れ、業績が好転する
→ 企業が設備投資を積極的に行う
→ 大量生産の効果が生まれ、価格が安くなる
→ 安くなった物品をさらに個人が購入する
→ ますます企業業績が好転する・・・
経済学の単純な理屈はこうなります。しかし、全てのメカニズムが複雑化した現代社会では、なかなか理屈どおりには動きません。
「翻訳業界サバイバルゲーム」の時間はまだちょと続きそうですが、おそらくあと1年くらいが勝負の分かれ目となるでしょう。「山高ければ谷深し、谷深ければ山高し」です。21世紀初めに現れた、「世界的超バブル経済」の谷は深く、長くなりますが、上昇した時の景色はまた今世紀最高の「絶景」となるのは間違いありません。