世界一の中小企業」カテゴリーアーカイブ

世界一の中小企業(その7)

高級作業工具を世界へ輸出する最強職人集団、マルト長谷川工作所

ペンチ、ニッパー専業メーカーとしては国内最大手で、欧米や東南アジアを含め世界20数ヶ国に製品を輸出し、アメリカではプラスチック用ニッパーでトップシェアを誇る会社があります。新潟県三条市に本社をおく ”マルト長谷川工作所” です。

keiba
<世界が認める「KEIBA印」の作業工具>

ペンチと言えば、今では100円ショップでも売られていますが、同社の最高級品は、一個6万円(オーダーメード品)もするそうです。しかも驚いたことに、同社のベストセラー、プラスチック用ニッパーの最大の輸出国は中国なのです。

中国人が安い自国製品を使わず、わざわざ飛びぬけて値段の高い同社製品を使う理由は何なのでしょうか?

その理由は、同社の製品を使えば、工場の作業員が手を痛めない、長時間使い続けても腱鞘炎になりにくい、長持ちする、という点で費用対効果が高いからなのだそうです。それだけ同社製品は、圧倒的な人気と信頼感を誇っているわけです。

penchi
<ハイグレードシリーズ ザ・ペンチ 標準価格3,140(税別)~5,460(税別) 同社ホームページより>

とはいえ、中国・台湾・韓国の低価格攻勢、大量生産から多品種少量、変種変量への転換という趨勢は、作業工具の分野も例外ではありませんでした。

同社の生産量はピーク時の450万丁から240万丁へと半減し、逆に製品の種類は、主要12品目から1,200仕様へと100倍に増加しました。

こうした状況に対応するために、1996年から取り組み、大きな成果をあげているのが、「ジャスト・イン・タイム」を究極の目標に、トヨタ生産方式を応用した独自の生産管理システム、MPS(マルト・プロダクション・システム)です。

MPSにより、1995年には在庫が約97万丁あったのが、現在は20万丁にまで縮小(80%減)し、金額ベースでも3分の1にまで減少したのです。また工数削減によって、劇的な経済効果をあげています。

ムダ、ムリ、ムラをなくすために行う標準作業の実践に用いる作業書も非常に細かく、作業者の一挙手一投足を標準化し、一目盛り0.5秒のマス目に合わせてグラフ化します。素材を手に取り、1秒歩いて次の工程に移り、1.5秒でセットして、機械が3秒動いて・・・・・トータル何秒で出来上がる、という具合です。

pinset
<ニューセラミックチップ付ピンセット S形標準価格8,360(税別) 同社ホームページより>

全社員がライン単位でチームをつくり、半年単位で徹底的にカイゼンに取り組みます。作業者の体形や歩幅に合わせたレイアウトづくりなど、数十項目におよぶ「泥臭いカイゼン」を繰り返すことで、チリのような秒単位の削減が積もりに積もって、数万時間の作業時間短縮につながっているのです。

しかし、品質・性能については妥協を許さず、中国メーカーなら10分以内で済ませる、焼入れ後の焼き戻しを、同社では4時間もの時間をかけています。

また、同社は検査工程を独立させず、各工程ごとに全員が全数検査をする「全員検査員」という考え方で品質管理を行っているため、工程内不良率は0.01%レベルとのことです。

(以上、洋泉社の「中小企業ですがモノづくりでは世界トップです」木村元紀著を参照)

一見ハイテクとは無縁に見える作業工具なので、途上国からの安値攻勢でさぞや大変だろうと思いきや、逆に中国をはじめとするアジア各国へ輸出していると言うのですから驚きです。

徹底した効率経営ときめ細かな原価計算、ユーザーのかゆいところに手が届くように豊富な種類をそろえた多品種少量生産、そして超高品質にこだわり続ける飽くなき職人魂・・・・まさに「なりは小さくとも百獣の王」と呼ぶにふさわしい企業でしょう。

さらに加えて現在では、作業工具とは別の”超高級品を求める市場”を開拓しています。1本30万円もする”カリスマ美容師”の「はさみ」や数千円もする「耳かき」や「つまようじ」、”ネイルアート”専用の高級「爪切り」などニッチな市場でその卓越した技術を活かそうとしています。

「マルト長谷川工作所」は今年で創業から満83年、現在従業員数124名、売上高12億7千万円(2006年12月実績)で、現在3代目の長谷川社長の次に4代目も控えているようです。まだまだこれからも発展し続けるでしょう。

私たち翻訳業界にも大変参考になる、模範となる企業なのかもしれません。

世界一の中小企業(その6)

船舶用プロペラで世界シェア30%弱、ナカシマプロペラ

岡山市に本社を持つナカシマプロペラ株式会社は、国内でほぼ70%、世界で30%弱のシェアを持つ世界最大の船舶用プロペラメーカーです。

まず、この会社の過去のおいたちがなかなか興味深いので、今の話をする前に、少しその歴史に触れてみます(以下「世界を制した中小企業」黒崎誠著、講談社現代新書より要旨を抜粋)。

ナカシマプロペラの前身は、現社長の祖父である中島善一氏が1926(大正15)年に設立した「中島鋳造所」でした。

その後、苦労をして漁船用プロペラの会社として成長し、やがて軍需工場としても発展します。しかし、1945年の大空襲により、岡山市は火の海となり、同社の工場も全焼。終戦後には、軍からの需要もゼロとなります。

またゼロからのスタートとなったわけですが、同氏は再建を決意し、旧海軍のプロペラ設計者を雇い入れて技術の向上を図ります。

その後、先端機器を積極的に取り入れるなどの積極経営で、国内第2位のシェアを確保するまでに成長します。

11_pai[1]
<PAIプロペラ(同社のホームページより)、人間と比べてその巨大さがよくわかります>

しかし、1970年代後半に入ると、今度は韓国などの追い上げにより、日本の造船業界は厳しい構造不況に直面します。同社も、人員削減などの合理化を行うと共に、旧海軍出身者をはじめとする技術者を積極的に採用してきたことが花を開き、高い技術力でこの苦境を乗り切ります。

こうした努力の結果、ナカシマの国内シェアは35%程度まで伸びるのですが、どうしてもシェア40%を誇るトップメーカー、神戸製鋼所には追いつきません。

ところがこともあろうに、この神戸製鋼所が、鉄鋼不況の合理化の一環としてプロペラ部門から突如、撤退してしまいます。

その結果、ナカシマは一挙に国内シェア70%というトップメーカーに躍り出ることなります。

(以上で要旨抜粋を終了)

さて、ここでプロペラ部門から撤退を決意した神戸製鋼所の決断が問題となります。当時の神戸製鋼所の経営陣は「どんな方法をとっても途上国との競争に勝つのは不可能」と判断したそうです。

21世紀の現在、日本を含む世界の造船業界はかつてない大好況を謳歌しています。もっとも製鉄業界を含む重厚長大産業そのものが、かつてないほどの大好景気に見舞われているわけですから、先を見通す経営判断というものは、実に難しいものです。

ところで、素人から見ると、たかが船のプロペラ(一般にはスクリューと言われていますが)に、そんな高度な技術が必要とは思えないのですが、どこにそんな先進技術が潜んでいるのでしょうか?

船舶用プロペラに求められる要件とは、以下の4つだそうです。

1. 強い推進力
2. 1ヶ月以上も海中で回転する苛酷な使用条件でも故障しない耐久性
3. 音や振動が少ない
4. 高いエネルギーの効率性

したがって、ナカシマのプロペラを使えば「製造コストは開発途上国のプロペラより割高でも、節約できるエネルギーを計算すれば1~2年の航海で元が取れる」(前述の同著より)そうです。

そして「10メートル近くある大きなプロペラの翼を100分の1ミリ単位で研削していく作業は、その道数十年の熟練工によって行われている。コンピュータを使った機械では、どうやってもできない」(前述の同著より)そうですから、まさに驚きの世界です。

11_ihi[1]
<二重反転プロペラ、通常のプロペラよりも高い推進効率が得られます(同社のホームページより)>

このプロペラに限らず、いまだに熟練工の腕が、世界の技術を支えている、という話はよく耳にします。

「技術力重視」「先端機器の導入による差別化」、「経営の選択と集中の判断」、「熟練工の腕による差別化」等々、「ものづくり」の世界だけでなく、われわれ翻訳業界にも学ぶ点はたくさんあると感じます。

最後に、蛇足になりますが、私は一応「小型船舶操縦士1級」の免許を持っているのですが、船のプロペラに大量の海草の藻が絡み、エンジンが停止し、あたふたしている間に、船が座礁してしまった、という怖い体験をしたことがあります。あれが大型船だったらと思うとぞっとします。

海の上での一つ一つのパーツの信頼性は、陸上でのそれよりも、はるかに高度なものが求められる、ということだけは、実感としてよくわかります。

世界一の中小企業(その5)

標準歯車で国内シェア60%、小原歯車工業

以前このブログの中で「世界最小の歯車を開発した樹研工業」の事をご紹介しましたが、今度は「標準歯車」で圧倒的な強さを誇る歯車メーカー、小原歯車工業(こはらはぐるまこうぎょう、略称KHK)をご紹介します。

「歯車にはオーダーメイド歯車と標準歯車の2種類がある。オーダーメイド歯車というのは、顧客であるセットメーカーの設計図通りに製造した歯車。自動車メーカーの系列会社に多く、設計図に基づいて作るだけなので下請け的な要素が強い。一方、標準歯車というのは、歯車メーカーが自社の規格に基づいて作る歯車。大量生産が可能なので価格を抑えることはできるが、顧客のニーズに合った商品を出さなければ、系列外ゆえに生き残ることは難しい。この標準歯車でシェア60%を占めている企業が、小原歯車工業(埼玉県川口市)。」(「小さなトップ企業」日経BP社)

main_st_gears[1]
<KHK標準歯車133品目、4,000種類の品揃え(同社のホームページより)>

私はこの「標準歯車」の話を知ったとき、あの「マブチモーター」の創業期の話を思い出しました。マブチモーターは今でこそ売上1,000億円を超える超優良の大企業ですが、やはりかつては小さな下請けメーカーでした。

オーダーメイドによるモーター生産は、完全なる下請けだったため、「作ったけど売れない」というリスクが少ない反面、値段を抑えられ、利益を出しにくい、という体質がありました。

しかも、おもちゃ用の小型モーターには季節要因による「繁忙期」と「閑散期」があり、「繁忙期」には、さばききれないほどの注文があるかわりに、「閑散期」には仕事がなくて頭を抱える、という状況があったそうです。

そこでマブチモーターは、思い切って「オーダーメイドモーター」の注文を捨て、「標準モーター」の生産に踏み切りました。

そして馬渕社長自らが「これからは、様々なサイズのモーターを各種取り揃えますから、今後はうちの会社の仕様に合わせて、御社の製品をお作りください」と顧客巡りをして説得に歩きました。

当然、下請けメーカーの社長にそんなことを言われて、顧客側が納得するわけがありません。「ふざけるな!顧客に向かって何を言う。二度とお前の会社の製品など買ってやるものか!」と多くの顧客が激怒したそうです。

ところが、繁忙期、閑散期に関係なく、計画的に大量生産する製品は、当然コストが低く、なおかつ、ジャストインタイムに納品できるマブチモーターは、しだいに顧客の間の評判となっていきました。

やがて一度逃げていった顧客達も、あちらのほうから戻ってきました。なにはともあれ、その圧倒的な価格競争力の魅力には勝てなかったからです。

さて、小原歯車工業の話にもどります。

「歯車は基本的な技術を持ったところであれば、どこで作っても大差がない。商品自体で差別化できないため容易に他社の追随を許してしまう。この対策として小原歯車工業が選んだ戦略が、『商品の種類』で差別化するというものだった」(前述の本)

同社のホームページによると、現在4,000種類にもおよぶ歯車を取り揃え、自社倉庫に大量の在庫を抱えているそうです。そしてコンピュータを駆使して、在庫リスクの軽減を図っている、とのことです。

オーダーメイドを捨て、標準仕様にすることによりコストを大幅に削減し、かつ圧倒的多品種をそろえることにより、顧客ニーズを確実にとらえて、他社からの侵食を防止する、結果として強力な顧客囲い込み戦略となる、ということでしょうか。

「翻訳」は完全なる「オーダーメイド生産」であり、しかも、量産して「作り置き」できる商品ではありません。だからわれわれの業界とはまったく関係ない、と思うでしょう。

しかし、遠い将来、いや、あるいはそう遠くない将来、「翻訳の作り置き在庫品バーゲンセール」なんて事態がおこるかもしれません。

圧倒的大多数の良質な「翻訳メモリー」が、Web上に出現すれば・・・・・・。

世界一の中小企業(その4)

オイル荷役ポンプで世界シェアの50%以上、シンコー

「シンコーは、タンカーが運んできた原油を陸上の精製施設に汲み上げるのに必要なオイル荷役ポンプで、世界シェアの50%以上を占めるトップメーカー。同社の生産が中止になったり、致命的欠陥商品を送り出すようになったりしたら、グローバルな経済活動に大きな影響が出かねない。中でも世界有数の原油輸入国である日本の経済が、壊滅的な打撃を受けるのは必至だ」(「世界を制した中小企業」黒崎誠著、講談社現代新書)

pump
<カーゴオイルポンプ (同社のホームページより)>

なんだか、先日ご紹介した自動車部品メーカーの話を思い出します。

地震の被害でリケン(自動車部品メーカー)が、ピストンリングの生産をストップしたら、日本の全自動車メーカー(12社)の生産ラインが一時操業停止となり、12万台もの減産が余儀なくされた、という話です。

この「株式会社シンコー」と言う会社の「概要」を同社のホームページから拾ってきました。

【住 所】  広島市南区大州5丁目7-21

【事業内容】  陸舶用各種ポンプ、蒸気タービン、各種省エネ自家発電プラントの設計・製作

【資本金】   2億円

【従業員】   合計 604名 (男性549名、平均年齢43歳 女性55名 平均年齢33歳)

【売上高】
2000年10月期 130億円
2001年10月期 143億円
2002年10月期 208億円
2003年10月期 192億円
2004年10月期 202億円
2005年10月期 228億円
2006年10月期 246億円

【関連会社】   シンコーマシナリーズヨーロッパ、東洋機械、マスヤ工業

【主要取引先】   国内外の海運、造船、電力、ガス会社 etc

また、同社はつい最近(2007年9月)、経済産業省の「第2回ものづくり日本大賞」で優秀賞を受賞しています。

世界中の原油供給に多大な影響を与えかねない、この「小さな巨人」の力はいったいどこにあるのでしょうか?

1. 徹底的な顧客第一主義

海外展開を始めた当初、南アフリカ近海を航海中の顧客タンカーのポンプに故障が発生した。すぐさまシンコーの修理要員は飛行機を乗り継ぎ、南アフリカへ飛び、そこからヘリコプターをチャーターして、数百キロ離れた洋上のタンカーへ向かい、タンカーが港に入る前に、全てのポンプの修理を終えてしまった。

今では故障の報せがあれば、遅くとも翌日には、地球上のどこにでも技術者を派遣できる体制になっている。(前述の同著より)

2. 技術第一主義

鋳造製品の生産拠点を人件費の安い海外に移転させている企業は多いが、シンコーがライバル各社と逆の経営方針をとっているのは、自社で作ることによって、比較にならないほど高いクオリティの部品が製造できるからだ。

この高品質の部品が、高品質のオイルポンプをつくり出し、強い国際競争力を生み出している。工作機械の使用などの無人化によってコストを引き下げる一方、「手作りでなければできない分野は国内で」とこだわっているのである。(前述の同著より)

世界一の中小企業各社に共通して言えることは、特定の分野で圧倒的な技術力を持ち、その技術力を自前の社員が支えている、ということです。

「技術力」と「他社との差別化」にこだわるのであれば、多くの翻訳会社も、これを見習わなければならなりません。

世界一の中小企業(その3)

世界最小の歯車と先着順採用、樹研工業

2002年、世界初となる100万分の1グラムの超小型歯車を開発した、工業用プラスチック製品製造メーカーの「樹研工業」は、微細加工の分野で世界中から一気に注目を集めました。

しかし、注目を集めたのはよいのですが、開発した超小型歯車は、そのあまりの小ささに用途がなく、未だにまったく売れていません。

今のところ需要があるのは、1,000分の1グラムの歯車まで、ということですから、100万分の1グラムの歯車がいかにケタ違いに小さいかがわかります。

haguruma
<米粒に乗った100万分の1グラム、10万分の1グラム、1万分の1グラムのギア。米粒が巨大に見える。>

それでは、なぜこのような途方もない製品開発に数億円もの資金を投入したのでしょうか?

株式会社樹研工業は、本社を愛知県豊橋市に置く、従業員約70人、売上高約28億円の典型的な地方の中小製造業です。

社長の松浦元男氏によれば、

「樹研工業はいろいろな優れた技術を持っているんです。でも結局、我々のような小企業ではそれを必要とするところに届けることができない。だとしたら、打ち上げ花火を上げて気付かせるしかない。こちらの注目を集め、名前を売り、技術力を見せつけ、向こうから会いたくなるように仕向けなければならないんです」

予想どおり、樹研工業の名前は全国区となり、日本中のマスメディアはもとより、海外のメディアまでもが取材に来るまでになりました。現在では社長の松浦氏は講演会や大学講師としても引く手あまたです。

当然、国内外の大メーカーも黙ってはいません。「それだけの技術があるならこんなものがつくれないだろうか」と、たちまちデンソーのような、売上高3兆円を超える世界企業から仕事が舞い込んできました。また、スイスの有名時計ブランドのスウォッチ社など、欧米の企業からも引き合いが来たのです。

現在同社はヨーロッパ、アジアを中心に世界100社ほどと取引を行うまでになり、まさにオンリーワン企業となったわけです。

juken
<樹研工業の工場内(同社のホームページより)>

しかし、樹研工業の名前を高めたのは、超小型歯車の技術力だけではありません。実は、この会社はきわめてユニークな人事制度を採用しているのです。

社員を採用するときは、

・先着順 (つまり、早い者勝ち)
・無試験
・学歴、国籍、年齢、性別は一切問わない

ほかにも

・出勤簿やタイムカードは全くない
・徒弟制度による人材育成
・定年はない (本人が希望すれば何歳までも働ける)
・年功序列制

実際、社員の中には、

・数カ国語をこなす茶髪にピアスの高卒の女性
・視察に来た大学教授や博士に技術指導を行う元暴走族

という、この会社に入ってその才能を開花させた、変り種の社員がいるそうです。

matsuura

<株式会社樹研工業 代表取締役 松浦元男氏
まつうら もとお。1935年、愛知県名古屋市生まれ。愛知大学法経学部経済学科卒業後、5年間の会社員生活を経て、1965年に樹研工業を設立。学生時代には、トロンボーン奏者としてジャズバンドで活躍していた経歴も持つ。>

「大体、面接をやったって、人間の本質を10分程度で見抜けるわけがないんだよ。実際、うちで若手のホープと言われている人材が入社したばかりのころ、『今回ばかりは失敗したか』と僕は採用を後悔しました。いま、社内では『天才』とまで言われ、誰からも頼りにされています。でも、そのときは全くわからなかった。だから、当社を志望する気持ちがあれば、もうそれで十分だと思っています。 」(松浦社長)

スゴイですね。こんなことできる「翻訳会社」あるでしょうか?

ないでしょうね。

世界一の中小企業(その2)

日用金属製品の研磨材で国内95%のシェア、宇治電化工業

高級洋食器や特殊金属など、鏡面のような仕上げが求められる高品質な研磨材で国内トップシェアを持つのが、高知県高知市に本社を置く宇治電化工業です。まさにニッチ市場に特化して成功した企業と言えるでしょう。

『同社は1951(昭和26)年に開発した人造研磨材「トサエメリー」を世に送り出して以来、常に最大シェアを維持してきた。日用金属製品の研磨材では現在、国内で95%からほぼ100%のシェアを占める。その主要製品である研磨・研削材は、業界の人間ならば海外でも「トサ(土佐)」のニックネームでどこでも通じるという、超ロングセラーのヒット商品だ。(小さなトップ企業 日経BP社)』

トサエメリーエキストラ
<研削力が高く、優れた耐久性を誇るトサエメリーエキストラは、当社のロングセラーです。(宇治電化工業のホームページより)>

また、宇治電化工業は現在、得意の電気炉を使った溶融技術で環境問題への取り組みに力を入れています。

そのひとつに「リサイクルストーン」があります。

年々増加する都市ゴミを焼却することにより排出される「焼却灰」を再資源化し、石と同じ程度の硬さを持つ物質にする技術を確立しました。

その技術を使って商品化されたものが、「舗装用コンクリート平板リサイクストーン」です。

リサイクルストーン
<焼却灰溶融資源処理「リサイクストーン」(宇治電化工業のホームページより)>

これ以外にも、養殖用水の水質改善、水槽・池の水質改善、染色用水の活水、水耕栽培用の水の活水、研削油の活性化、芝の育成促進に使う、「セラパワーストン&セラミックボール」を開発しています。

セラパワーストーン
<セラパワーストン&セラミックボール (同社のホームページより)>

また、変わったところでは、再生紙として使えない低品質の古紙を使って、「ヤケ鉢・すて鉢」という名前のリサイクル商品も開発しています。

やけ鉢
<高知工科大学坂輪教授など11機関で構成する研究チームで開発し、淡路花博にて、特殊栽培技術部門で銅賞を獲得した。(同社のホームページより)>

「特殊技術」と「環境対応」という21世紀のキーワードを兼ねそろえた宇治電化工業。

世界へ羽ばたく日もそう遠くないかもしれません。

世界一の中小企業(その1)

冷凍船の冷凍庫で世界のトップシェア、前川製作所

2007年7月、新潟県中越沖地震により日本の全自動車メーカー(12社)の生産ラインが一時操業停止となり、12万台もの減産が余儀なくされました。

新潟県に起きた地震により、日本全国の自動車工場がストップした理由は、新潟県柏崎市にメインの工場を持つリケン株式会社という中堅自動車部品メーカーがその部品を供給できなくなったからでした。

この”リケン”という会社は、同社のホームページによると、連結売上高、912億円、従業員数1,545人という立派な上場大企業です。しかし、売上規模で比べれば、トヨタ(24兆円)のわずか0.4%にも満たない小さな小さな存在です。

その小さな企業が、マンモス企業、トヨタの全28工場の操業を停止させてしまった訳は、ピストンリングのシェアで国内50%以上、全世界でも20%を占めているからでした。

ピストンリング
<ピストンリング (リケンのホームページより)>

このように技術立国日本を陰から支える、「世界一の中小企業」は日本にはまだまだ沢山あります。それらの「小さな巨大企業」や「小さな超優良企業」をこれからこのブログで順次取り上げていきたいと思います。

まず初めに、東京都江東区に本社を持つ、前川製作所を取り上げます。

前川製作所は、「産業用冷凍庫の国内シェアが60~70%、冷凍船の冷凍庫では世界で80%のシェアを有しており、この分野のまぎれもない世界トップシェア企業である」(「世界を制した中小企業」黒崎誠著 講談社現代新書)

さらに「前川製作所が開発したスクリュー型小型コンプレッサーによって、漁船に冷凍設備を設置できるようになった。マグロやカツオを遠洋で捕り、その場で血抜きして瞬間冷凍すれば、鮮度をそのまま保つことができる」(同著)とあります。

海水氷
<鮮魚介類に合った塩分濃度・マイナス温度保持・浸透圧
で鮮度保持効果が期待出来ます (前川製作所のホームページより)>

そういえば昔は、サンマやサバの刺身など食べることができませんでした。漁獲後、時間が経つと人間の身体に有害な物質が発生するためだと聞いたことがあります。それが今では、どこの寿司屋へ行っても当たり前のようにサンマやサバの刺身をおいしく食べることができるようになりました。

「どこかの会社が新しい冷凍技術を開発したおかげで、昔食べられなかったものが今では簡単に、安く、安全に、食べられるようになった」と以前板前さんから聞いたことがあります。

その「どこかの会社」が「前川製作所」だったのですね。

その後同社は鮮魚だけでなく、食肉用の冷凍船にも進出し、現在では鮮魚と食肉を運搬する冷凍船に搭載されている冷凍庫の世界シェアのほぼ80%を前川製作所1社で占めている。

「当然、大手企業を含めた数多くのライバル企業が、虎視眈々と巻き返しをはかっているわけだが、なかなか思うようにいかない。その一番の理由はやはり同社のもつ抜群の技術力。ライバル企業も『大量の肉や魚を冷凍する大型冷凍船では、全体を均等に冷やすとか、年間を通じて温度の狂いがゼロに近い状態を保つといった高度な技術を求められるが、前川以外にこれができる企業はきわめて少ない』と言う」(前述の同著)

なるほど、海の上で冷凍庫が故障しても、すぐにメンテナンスに駆けつけることは難しいし、その間に冷凍の肉や魚が腐ってしまったら、その被害は甚大なものになるわけですから、やはり品質には非常に神経質になるのでしょうね。

「前川製作所のつくる冷凍庫の多くは注文生産。当然ながら、ユーザーによって、使用目的、容量、温度など、条件はすべて異なる。この要望を、同社の技術者たちがひとつひとつ聞いて、製品をつくりあげていく。このようにきめ細かい要望に応えられるのは、下請けに任せず、自分のところで作っているからだ。中にはこれまでの常識では無理なものもあり、他社が断ったものもある。前川製作所は、そんな注文にも、問題点を解決しながら応えてきた」

(中 略)

「もうひとつ、前川製作所のユニークな点は、優れた技術を持っている者ならば年齢にかかわらず登用するところにある。なにしろ同社には90歳を過ぎた現役研究者がいるのだ」(前述の同著)

なんだか翻訳会社の経営にも通じるところがありそうですね。
これからこのようにユニークな経営をする「小さな巨大企業」、「小さな超優良企業」をこのブログで毎回取り上げていきます。

(この項、次回へ続く)