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RCEPとTPP

RCEP(Regional Comprehensive Economic Partnershipの略、アールセップ)は、日中韓印豪NZの6カ国がASEANと持つ5つのFTAを束ねる広域的な包括的経済連携構想であり、2011年11月にASEANが提唱しました。その後、16カ国による議論を経て、2012年11月のASEAN関連首脳会合において正式に交渉が立上げられました。

RCEPが実現すれば、人口約34億人(世界の約半分)、GDP約20兆ドル(世界全体の約3割)、貿易総額10兆ドル(世界全体の約3割)を占める広域経済圏が出現します。

(以上、経済産業省のサイト「東アジア経済統合に向けて」より)

RCEP対象メンバーのGDPシェア
2013年5月7日RCEP1

RCEPとTPPの概況
2013年5月7日RCEP2

(以上、富士通総研のサイト「RCEP vs TPP」より)

2013年5月7日RCEP3

(以上、日本経済新聞のサイト「TPPの恩恵、日本が最大(経済教室) ピーター・ペトリ教授 マイケル・プラマ教授 GDP、2%押し上げ 影響力行使へ早期決断を」より)

 

近頃、下記のような貿易に関する協定の話題がマスコミを騒がしています。

・ RCEP (地域包括経済連携:Regional Comprehensive Economic Partnership)

・ TPP (環太平洋連携協定: Trans-Pacific Partnership)

・ FTA (自由貿易協定: Free Trade Agreement)

このうちFTAについては、2国間における貿易協定のことなので、当事者通しの交渉力がキーを握ると言えるでしょうが、RCEPとTPPに関しては、各国における様々な思わくが複雑に絡み合うことが予想されます。

上記「RCEPとTPPの概況」によれば、現状ではRCEPのGDPシェアが28.4%に対し、TPPのほうは、38.2%となっています。

しかし、2011年~2015年のGDP伸び率は、TPPの4.2%に対し、RCEPのほうは7.1%となっています。

もしこの予想が正しく、かつ同じペースで両陣営が伸びていくとしたら、早晩RCEPのGDPがTPPを追い越すことになります。

また、上記の表で主導国は、TPPは米国、RCEPはASEANとなっていますが、RCEPの主導国がASEANから中国へと移っていくことは間違いありません。

つまり、TPPは米国主導、RCEPは中国主導で、その両方に加入する“経済大国”日本が“キャスティング・ボート”を握ることになるのです。

このグローバル化の進む世界で、もはや日本だけが“鎖国”状態で生き残っていけるはずはありません。

RCEPもTPPも必ず実行に移され、否が応にも清も濁も併せ呑みながら急速に発展していくことは間違いないでしょう。

そして、日本の翻訳業界の出番が増えていくことになります。

かつての米ソ冷戦の陰で“漁夫の利”を得ながら、しっかりと経済成長を遂げた“したたかな国”日本の再来を静かに待ち望んでいます。

日本は復活できるか

2013年2月19日 日本経済新聞朝刊

日本製家電をハンマーで壊す人々の姿をご記憶だろうか。中国の話ではない。1980年代後半の米国での出来事だ。背景には台頭する日本への脅威論があった。

当時の米国は輸出攻勢をかける日本を円高で封じ込める戦略に出た。プラザ合意のあった85年と比べて円は一時対ドルで3倍に上昇。海外と比較した賃金(ドル換算)も3倍になり、日本企業は一気に競争力を失った。

聖域なきコスト削減を迫られ、開発案件の中止などイノベーションの種を諦める事例も相次いだ。円高は次世代製品を生む余力や文化まで奪い去り、コスト競争力の低下より深刻な事態を引き起こした。たかが為替、されど為替である。

だが日本を締めつけてきた円高の桎梏(しっこく)がはずれようとしている。アベノミクスのアナウンス効果だ。徹底した金融緩和を宣言して市場の期待に働きかけ、マネーの流れを変える政策は的を射ている。ヒト、モノ、カネ、情報が世界を駆け巡るグローバル資本主義では市場とマネー、企業を味方にできるかどうかがカギを握る。

もう一つ、今回の円高修正に米国が異議を唱えないことがポイントだ。背景に日本の地政学的位置づけの変化があろう。

冷戦時代、旧ソ連の脅威に対抗する上で日本の安定と繁栄は米国にとって不可欠だった。ところがソ連崩壊で日本の重要性は低下し、むしろ経済的脅威に変わった。

91年のソ連崩壊後、日本のバブル崩壊が加速したのも偶然ではあるまい。失われた20年はそうした国際力学の狭間で生まれたともいえる。

だが中国という新たな脅威が登場した今、米国は日本と手を携えようとしている。事実上の円安容認はその表れだ。環太平洋経済連携協定(TPP)の大切さはそうした脈絡からも説明できる。国内総生産の1%にとどまる農業保護のためにTPP不参加を唱えるのは大局観を欠いている。

日本は3つの過剰、需給ギャップなど複合要因でデフレに陥ったが、賃下げ、設備償却、不良債権処理に耐えて多くを解決した。残った円高が是正されれば経済全体がうまく回り出すはずだ。

我々はこの20年を無駄に過ごしたのではない。復活の条件を辛抱強く整えてきたのだ。地政学上の順風も加わり日本は歴史的な大転換点に立った可能性がある。

(以上で記事終わり)

私が今までにこのブログや他のブログの中で再三とりあげてきた「円高」の問題と、日本の「地政学上」の問題がこの記事でとりあげられています。

冷戦時代、ソビエトとアメリカの間に立って“漁夫の利”を得た日本ですが、今回は皮肉なことに隣国である「中国という新たな脅威」が日本に有利に働くというわけです。

この記事にあるように日本経済を不振に陥らせた原因の調整は改善され、最後に残されていた「円高」というファクターも改善されつつあり、さらにそこに「地政学上の順風が加わり、日本は歴史的大転換点に立った可能性がある」のでしょうか。

私はこの記事の内容にさらにもう2つ加えたく思います。

アメリカの“シェールガス革命”が化石燃料高騰に頭を悩ましている日本経済に追い風をもたらし、それに加えて、“メタンハイドレート”の実用化に目途がたてば、21世紀は日本の世紀と言えるほどの“黄金の時代”を迎えることになるでしょう。

そんな夢のような話が実現する可能性も決して小さくはないと信じています。

円安は経済再生への必須条件

2012.12.13 日本経済新聞朝刊 「大機小機」より

格付け会社フィッチ・レーティングスがソニーとパナソニックの格付けを投資不適格水準に引き下げた。我が国株式市場のブルーチップ(優良銘柄)を代表する企業であった両社がここまで追い詰められていたことは衝撃的である。

この2社に限らず製造業の競争力は大きく落ち込んでいる。超円高、エネルギーコストの上昇、高い法人税、環太平洋経済連携協定(TPP)参加交渉の遅れなど製造業への逆風が続いた。政府の対策が遅れた面も否めない。

中国リスクも抱える製造業が苦境から抜け出す鍵は東南アジア諸国連合(ASEAN)市場であろう。中でも、ベトナム、インドネシア、フィリピンの3カ国を合わせた総人口は4億人を超えており、1人当たり名目GDP(国内総生産)も急速に伸びている。近い将来に中間所得層の爆発的増加で、この地域に巨大な消費市場が生まれることが予想される。人々の親日感情と日本製品への信頼が高いとされることも魅力である。

しかし、現状は韓国製品がASEAN市場全体を席巻している。韓国製品の強さを支える要因のひとつが通貨安だ。足元ではやや修正されているが、通貨安政策もありウォンは昨年の最安値時には対円で4年前の半値近くまで下落した。長期に及ぶ円高は日本製造業の努力の限界を超えており、このままではASEAN市場での機会も失われるであろう。

世界市場でも日本製品の劣勢が続いており、輸出の減少で今年度上半期(4~9月)の貿易収支の赤字は、半期ベースでは過去最大となった。経常収支も9月に31年ぶりの赤字を記録しており、日本経済の南欧化リスクを指摘する声もある。

1980年代に貿易収支と財政収支の「双子の赤字」に苦しんだ米国は85年9月、先進5カ国が協調してドル安を進める「プラザ合意」の締結で、対円ではドルの価値を半減させて米国経済の再生に道筋をつけた。世界にとっても悪夢であろう日本の南欧化を防ぐため、政府は欧米に円安政策への理解を求め、金融市場には円安への強い意志を示すべきである。

金融緩和のほか、シンガポールのように通貨の誘導目標を定めることなども有効手段となろう。円安はデフレ解消や日本経済再生の必須条件だろう。

(記事の引用はここで終わり)

下記に「円の対ドル・対ユーロ為替レートの長期推移」のグラフを掲載します。

バブル崩壊後の日本経済の低迷とアメリカ経済の伸長を考えたとき、いまだ日本の円が1ドル80円近辺にあるのはなせなのか理解に苦しみます。

理由の一つに日米の貿易収支の違いがあげられるようです。

貿易赤字が慢性化しているアメリカは、ドルを売り、外貨を買うため「ドル安」の圧力が常にかかります。

それに対し日本は戦後の長きにわたり、貿易で巨額の黒字を稼いできました。

しかしその構造が今、急激に変わろうとしてきています。

アメリカの「シェールガス革命」により、アメリカのエネルギー輸出が2035年までに輸入を上回り、純輸出国になる、との観測が出されているからです。

アメリカの貿易赤字の半分を占めるエネルギー資源が輸入国から輸出国へ変わるというのですから大変なことです。

現在、国際競争力を急激に失いつつある日本の製造業は、円高によりさらに打撃を受け、日本は第2次オイル・ショック以来という31年ぶりの貿易赤字に転落しました。

上記の日経の記事に

「1980年代に貿易収支と財政収支の『双子の赤字』に苦しんだ米国は85年9月、先進5カ国が協調してドル安を進める『プラザ合意』の締結で、対円ではドルの価値を半減させて米国経済の再生に道筋をつけた。」

とあります。

アメリカの「シェールガス革命」に加え、日本政府の「円安政策」により、日本の製造業が再び世界市場で大活躍する日を楽しみにしています。

円の対ドル為替レートの長期推移

世界貿易にブレーキ / 中国貿易 移る軸足

世界貿易にブレーキ

欧州危機がアジア直撃 7~9月伸び1ケタ

欧州債務危機などを背景に、世界貿易量の伸びが鈍化し始めた。輸出と輸入の数量を合算した貿易取引量は7~9月が前年同期比5.2%増にとどまり、最近の10%前後の伸びから落ち込んだ。

欧州危機に伴う信用不安が実態経済に悪影響を与えつつあり、けん引役であるアジア新興国向け輸出も減速しつつある。国際通貨基金(IMF)は2012年にかけて貿易取引が低迷するとみており、世界経済の停滞につながる恐れもある。

2011.12.13 日経

(以上、2011.12.13の日経新聞朝刊より抜粋)

中国貿易 移る軸足

多国間から二国間・地域に
WTO加盟10年輸出額6倍

中国が世界貿易機関(WTO)に加盟してから今月で10年を迎えた。自らの存在感の高まりで多国間の交渉が難しくなるなか、二国間やアジア地域での経済協力へと交渉の軸足は移ってきた。貿易摩擦を抱えながらも順調に翼を広げてきた中国の通商政策に、米国が主導する環太平洋経済連携協定(TPP)がゆさぶりをかけている。

2011.12.13 朝日

米主導のTPPを注視

中国社会科学院国際研究学部長
チャン・ユンリン氏

中国はTPPに非常に注目している。中国抜きで始まったことに加えて、中国が参加するかどうかの態度を決めていない段階で、日本が入ろうとしているからだ。ただ、TPP参加へとアジアの大勢が動けば、中国政府もいずれ対応を考えねばならない。

TPPは日本の参加で規模も質も歴然と変わる。米国との関係を重視した政治的な選択だと思うが、中国や韓国、東南アジア諸国連合との協力を軽視しないでほしい。

アジア太平洋の地域全体を束ねる経済連携に向けては、2本の道がある。一本が米国主導のTPP。もう一本は(米国抜きで)中国も参加する東南アジアと日中韓を軸にしたものだ。どちらの交渉も時間がかかるが、いずれ、この二つを統合しようという動きが出る可能性がある。そのときは米中間の本格的な通商交渉になるだろう。

(以上、2011.12.13の朝日新聞朝刊より抜粋)

私はかねてより、TPPの背後に潜む日米共通の「仮想敵国」は「中国」であると考えてきましたが、この中国のチャン・ユンリン氏が、ここまであからさまに「日本の選択肢には2本の道がある」と言ってのけるとはちょっと驚きです。

この発言からも中国の「あせり」や「いらだち」が垣間見えますが、いずれにせよ独自の軍事力を「持たない」日本は、世界第2位の経済大国・軍事大国である中国と世界第1位の経済大国・軍事大国である米国の間に挟まって、「究極の選択」をせざるをえません。

中国に対する米国のゆさぶりのかっこうの「材料」が日本というわけですが、地政学的にも、米中間に挟まる日本は、米ソ間に挟まっていた冷戦時代同様、「漁夫の利」を得る格好のポジションにあります。

世界各国が、「自国の利益のみを追求」し、“しのぎ”を削る「武器を使わない戦争」のことを「外交」と呼ぶわけですから、その外交で日本は大いに日本の国益を高めていってほしいものです。

「第三の開国」 日本はTPPに参加すべきか否か?

2011年1月18日の朝日新聞朝刊で、「日本はTPPに参加すべきか否か」で二人の論客の意見を紹介しています。私たちの翻訳業界にも深いかかわりをもつ話題なのでここにその要旨をご紹介させていただきます。

ちなみに「第三の開国」とは、幕末、戦後に続く「3回目の日本の開国」を意味しています。
(以下、朝日新聞の記事)

(*注) TPP(環太平洋パートナーシップ協定)
太平洋を囲む国々が国境を越えて、人、モノ、カネの移動を自由にしようという約束。2006年にシンガポールやニュージーランドなど4カ国で始まった。現在は米国や豪州などが参加交渉に入っており、今年11月にも9カ国に拡大する見通しだ。

2011.1.18 朝日1
中野剛志氏
京都大助教・元経済産業省課長補佐

デフレがますます進むだけだ

・TPPへの参加など論外。今でも日本の平均関税率は欧米よりも韓国よりも低い。日本はすでに十分開国している。

・「安ければいい」という途上国市場でいくら製品を売っても、開発力はつかない。

・日本人という「うるさい消費者」を相手にしてきたから、日本企業は強くなった。ところがデフレが進み、安さばかりが求められるようになって、国内の「目利きの消費者」が減ってしまった。だからこそ一刻も早くデフレから脱却すべき。

・グローバル化した世界で輸出を増やそうとするとデフレを促進する。

・日本の輸出がGDPに占める割合は2割にも満たない。ドイツなどよりはるかに低い。日本は実は輸出立国ではなく、内需大国。

・ 内需拡大に即効性があるのは、政府が公共投資をすることだが、開放された経済の中で公共投資をしても、海外企業が受注しては景気刺激につながらない。

・そのため「一時的な関税引き上げ」や「保護主義政策」が必要。それが無理というならば、せめてこれ以上の貿易自由化はやめてほしい。

・公共投資で需給ギャップが埋まれば、デフレは収まる。貿易自由化が自動的に経済を成長させるのではなく、国内経済が成長してはじめて、貿易が拡大する。

2011.1.18 朝日2
戸堂康之氏
東京大教授

中進国に落ちぶれてもいいのか

・日本経済は長い停滞が続いている。このままだと近い将来、先進国から脱落し、落ちぶれた国になってしまう。2020年には韓国より下、マレーシアとほぼ同じという予測もある。

・TPPへの参加は、日本の閉鎖性を打ち破る契機になり、日本人全体の意識改革につながる。

・経済成長の源泉は技術進歩。ここでいう「技術」とはモノづくりでいう技術だけではなく、効率的な生産手法やマネジメント、ビジネスモデルなども含めた広い概念。

・一国の中だけの技術革新には限界がある。鎖国時代を考えれば明らか。

・もしグローバル化がデフレの原因なら、グローバル化が進んでいる他の先進国では日本よりデフレが進行しているはず。実際そうではない以上、デフレの主因がグローバル化でないことは明らか。

・50年代から70年代にかけて、ラテン諸国が積極的な保護主義政策で内需を高めようとしたが結局うまくいかず、積極開国派のアジア諸国に追い越されてしまった。

・日本の農業を見ればわかるように、国が政策的に保護することで産業は成長できない。

・十分な国際競争力があると思えるのにグローバル化していない日本企業が各地にたくさんある。適切な情報を得て海外市場でのリスクを低減できれば、世界でかなりやっていけるはず。こうした企業群がグローバル化することが、日本経済再生の起爆剤になる。

(以上で記事終わり)

結論から言うと私は戸堂氏の意見に賛成です。公共投資の増加や国内産業の保護により、この20年間続いた日本経済の低迷を脱却できるとはとても思えないからです。

中野氏の言うとおり、日本はGDPに占める輸出比率が低い「内需大国」ではありますが、リーマン・ショック後日本よりもはるかに高い輸出比率を持つ多くの国々が、日本よりもずっと早く景気回復した姿を見て、改めてグローバル化の重要性を認識しています。

競争のない国鉄時代と競争を始めたJRを比べてみれば全てが一目瞭然です。保護主義から発展は生まれません。

一部に「発展する社会など必要ない」という考え方も確かにあります。

私が大学生のころ、エアコンのない満員電車に乗って、エレベーターのないビルの階段を昇り降りしていました。あの当時はそれがあたりまえでしたし、それでも幸せに暮らしていました。

しかし一度エアコンとエレベーターの味を知ってしまった私たちが、またあの時代へ後戻りできるでしょうか?

最低限の生活を維持するためには最低限の「経済発展」が必要です。そして天然資源や豊かな農地を持たない日本が経済発展するためには「輸出」で外貨を稼ぐ必要があり、輸出で勝ち抜くためにはなんとしても「グローバル化」が必要なのです。

国内市場に雌伏する数多くの優秀な日本企業群が、世界へ飛び立つために、私たち日本の翻訳業界が力になれればこんなにうれしいことはありません。

自由貿易圏「2020年」を前倒し 非関税障壁という魔物

2010年11月11日 日本経済新聞

10日に横浜市で開幕したアジア太平洋経済協力会議(APEC)閣僚会議の共同声明案が明らかになった。域内の経済連携を加速する「アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)」を巡っては2020年目標を前倒しする方向で、目標年次の明記は見送った。世界で経済連携の動きが加速するなか、APEC域内の貿易自由化も数年単位で大幅に前倒しされる可能性が出てきた。
(以上で日経の記事終わり)

2010.11.12 日経(1)

<日本経済新聞朝刊より>

2010.11.12 日経(2)
<日本経済新聞朝刊より>

日本がTPPに加入すれば、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、ベトナム、ペルー、チリ、マレーシア、ブルネイの9カ国との間の貿易は全て関税が撤廃されることになります。2015年を目処に現在協議が行われているそうです。

また、TPPよりもさらに規模の大きいAPEC(TPP+カナダ、中国、香港、インドネシア、メキシコ、タイ、パプアニューギニア、フィリピン、韓国、ロシア、台湾の合計21カ国)において、自由貿易圏を築くことになれば、巨大な経済圏がアジア太平洋地域に誕生することになります。

その世界最大の自由貿易圏を2020年に実現しようという構想が、さらに時期的に早まる可能性ができたようです。現在横浜のMM21地区で開催されているAPEC閣僚会議の共同声明案で明らかにされました。

一方、現在日本とEUとの貿易協定を見てみると、日本からEUへの輸出は3分の2の物品に対し関税がかけられているのに対し、その逆のEUから日本への輸出に対しては、3分の1の物品にしか関税がかけられていません。

日本はEUとの交渉に負け、だまされているのか?と思いきや現実はその逆のようです。

その正体は「非関税障壁」という代物です。この「非関税障壁」の意味については日経新聞に下記のような記載があります。

「政府が関税以外の方法で国産品と外国産品を区別して輸入を制限する措置。輸入数量制限や輸入課徴金のほか、製品企画の基準・認証制度や輸出入時の検査手続きの厳しさなどがある。日本の「系列取引」など各国特有の社会制度に基づく商慣習や流通構造もその一種だ」

「日本の基準・認証制度は煩雑で非関税障壁となっている」との諸外国からの批判が未だに根強いそうです。

日本政府が意図的に嫌がらせをして国内産業を守っているという側面もあるでしょうが、日本人特有の商慣習や日本人の特異な消費行動などもきっと影響していることでしょう。

そう考えると近い将来APECで21カ国全てが自由貿易圏になっても、日本はなんだかんだと駄々をこねて「非関税障壁」を貫けば国内産業は安泰なのでしょうか?

諸外国にとっては日本特有の商慣習や特異な消費行動のみならず、日本語そのものが非関税障壁なのです。いずれにせよこの自由貿易協定の実現は、わたしたち翻訳業界の人間にとって大変な朗報になることに間違いはありません。

また、これが日本全体にとっての朗報にすべく、今後の政策、国策、国家戦略を間違えないよう政治家や官僚の皆さんには期待したいものです。

あふれるドル バブルの予感

2010年11月8日 日経新聞朝刊より

米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和の第2弾に踏み切ったことで、世界的なカネ余りに拍車がかかるとの見方が出ている。米国のデフレ回避には避けられない措置と言えるが、強力なだけに副作用を生むリスクもある。あふれる投資マネーが新興国や商品市場に流れ込み、新たなバブルの芽を生むとの指摘もある。

2010.11.8 日経1

2010.11.8 日経2

2010.11.8 日経3
(以上で記事終り)

なんとも不気味な記事です。
現在世界は「カネ余り活況」なのだそうです。世界中の株価、特に新興国の株価が上昇し、金や資源の相場も上昇しているようです。

そういった中で、日本の株価だけは諸外国に比べ大きく出遅れ、かつ多くの日本企業は円高に苦しめられているというのが実情です。

残念ながら今回のリーマン・ショックにより、日本という国は「製造業の輸出でしか生き残っていけない国」ということがすっかりばれてしまいました。

以下独立行政法人経済産業研究所のホームページからの引用です。

製造業の付加価値額の対GDP比は20.8%、製造業の事業活動に伴う他産業の付加価値額の増加分を加えたものの対GDP比は32.4%、でGDPに占める割合は大きく、付加価値額の増減による波及効果は1.95でサービス業(1.35)よりも大きいです。

また経済成長という観点では、製造業の労働生産性の伸びは全産業の労働生産性の伸びを大きく上回り、経済成長に貢献しています。また外貨獲得という観点では、輸出の9割以上は工業製品が占めていて、貿易収支はかつてよりだいぶ減って11.6兆円(2001年)。一方サービス業の輸出入収支はほとんどの分野で赤字で、米国と対照的です(図1-13)。雇用機会という観点では、製造業の就業者数全体に占める割合は、日本20.0%、米国14.0%、英国16.5%、ドイツ24.1%で、米国、英国を上回ります。研究開発という観点では、製造業は我が国の民間研究開発投資の中心で、日本89.6%、米国64.2%、英国79.6%、フランス85.7%、ドイツ90.9%です。

この4つを見ると、製造業が引き続き日本経済の牽引力になると思います。サービス業の生産性向上にも努めないといけないわけですが、すぐに製造業と取って代わることはないと思います。

(以上、引用終わり)

日本の農業のみならず漁業や林業も非常に大切であり、食料自給率はなんとしても高めていかなければなりません。しかしそのためにもまずは輸出で稼いだお金で農業や漁業に重点的に研究開発投資を行い、競争力をつけさせていくべきでしょう。

日本は一刻も早く、環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定(TPP)を決断し貿易立国として生き残る最後のチャンスを実現させねばなりません。これは日本の翻訳業界のみならず、日本全体の将来のために必要不可欠の戦略だと確信しているからです。