上記2つの棒グラフをご覧ください。
上のグラフは、2009年7月25日の日経新聞朝刊の記事で使われていた「世界のパソコン出荷台数」のグラフです。下のグラフは、日経のグラフと同じ数字を使って私がエクセルで作り直したものです。
どうでしょうか?同じ数字を使ったグラフにも関らず、随分とイメージが違いますね。上のグラフは、グラフ下部に白線を入れた「中抜き」を行っているため、09/1~3の出荷台数が2008/7~9に比べ、まるで3分の1に減ったかのように見えます。
これは新聞社各社が多用する手法ですが、私は子供の頃からこの手のやり方にいつも違和感を持っていました。「なぜグラフに中抜きを行うのだろう?」と。
新聞社としては、数字の羅列よりもグラフのほうが、ビジュアル的に訴える力が強く、より分かりやすくなるので、あえてグラフを使うのでしょう。それはそれで構わないのですが、なぜそこで「中抜き」をしなければならないのでしょうか?
「中抜き」を行うことにより、全体像が見えにくくなります。上記の例で言えば、09/1~3の出荷台数は2008/7~9に比べ、せいぜい20数%の下落にもかかわらず、「中抜き」を行うことによりまるで70%ほども激減したかのように、イメージ的には捉えられます。
読者は感覚的に「こんなに激減しているんだ」というイメージを頭に強く焼き付けます。そこがマスコミの狙いなのです。テレビの映像でもそうですが、ビジュアル的に入ってくる情報は、理屈ぬきのイメージとして記憶の片隅に残り続けます。
マスコミは常にセンセーショナルな話題を追い求めています。そのために毎日躍起になって働いていると言っても過言ではないでしょう。そこでこのようなトリックを使って、少しでも情報に「お化粧」を施すのです。
このようなグラフのトリック以外にも、もっと多用され影響力の大きいのが「見出しのトリック」です。「モノは言いよう」ですから、裏から見るか、表から見るかで印象は大きく違ってきます。
たとえば、健康診断の結果で、「健康者50%超」という見出しを持ってきた新聞と、「成人病疑い35%も」という見出しをもってきた新聞とでは、同じ健康診断の結果にもかかわらず、読者のイメージは大きく異なります。
「モノは言いよう」と言う意味では、翻訳業はまさに「モノは言いよう」な業種ですから、このような子供じみたマスコミのトリックには惑わされないようにしたいものです。