20世紀に発達した通信・航空・運送技術の進歩は、企業のグローバル化を加速させ、巨大な「多国籍企業」も多数生み出しました。
当時は、東西冷戦による微妙なバランスのもとに、軍事的、政治的、経済的「安定」が続き、米国とソ連がにらみ合いを続けていたため、人々も企業も、ある意味暴れようにも暴れられなかったとも言えます。
しかし、1989年11月に起きた「ベルリンの壁崩壊」は、旧東欧諸国を一挙に自由主義経済へと参入させました。西側諸国は、失業者に苦しむ旧東欧圏に目をつけ、こぞって東側諸国に工場を建て、安い人件費で作った製品をどんどん西側諸国で売りさばき始めたのです。
アジアでも中国が自国に市場経済を導入し、NIES、ASENに負けじと急成長を続けています。同様に人口・資源大国であるインドやブラジルも後に続き、その結果、世界の工業用資源が逼迫し、中近東やアフリカ諸国のような資源大国も経済発展をとげるという、地球的規模での大規模な経済発展が21世紀の初めに実現したのです。
一方20世紀後半から始まった「IT革命」は、大量の情報を迅速かつ安価に伝達させることに成功しました。
情報を一方的に流すテレビ、ラジオ、新聞、映画とは違い、インターネットは非常に安価なコストで情報が縦横無尽に世界各地を駆け巡ります。また、PCを持てない地方の人々には、携帯電話が決定的な影響を与えました。
たとえばかつて中国奥地の人々は、「人民日報」を読むか、政府の流すテレビのニュース番組を見るしか情報を得る手段がありませんでした。それが今では携帯電話を手にすることにより、クチからクチへ「真実の声」が縦横無尽に流れ始めたのです。
人々は「良い暮らし」を得るためにはどうしたらよいのか、携帯電話を使って自由に情報交換を行っています。もう今や政府による情報統制は効きめがありません。
世界中の企業が、生き残りをかけ必死になって少しでも「安い人件費」の地域に工場を建て、製品を製造しようと競い合います。また貧しい地方の人々は、少しでも「良い暮らし」を求めて、命を懸けて移動を試みます。
その結果、世界的規模で「貧富の格差」が拡大してきていると言われています。確かにそうかもしれません。かつての世界は、東西冷戦による「東西の壁」と、先進諸国と発展途上国による「南北問題」により、バランスがとれていました。「バランスがとれていた」というのは、「東」と「西」はまったく別世界、別経済であり、「先進国」と「途上国」はまったく別世界、別経済だったからです。
つまり貧しい者は常に貧しく、「豊かな人」の存在すら知らなかったわけですから、羨ましがることもなく、また怒る必要もなかったからです。
「IT革命」は、世界中の眠れる民衆の目を覚まさせてしまいました。同時に世界的バブルに酔い、マネーゲームに狂奔した先進諸国の「富裕層」は行き過ぎた資本主義、つまり極端な弱肉強食が生み出す貧富の拡大という問題点に今気づき始めたのかもしれません。
今はリーマンブラザースに始まった、金融危機という目の前の「火事」を消すのに躍起でしょうが、少し落ち着いたら「資本主義反省会」がマスコミの間で賑わうに違いありません。