「よろしかったでしょうか?」
(前回からの続き)
「最近の若者の言葉使いはなっとらん」とか「わけのわからん言葉を使っているので、言葉が乱れている」などと言い出したら、間違いなくその人はお年寄りの仲間入りをしたと言えるでしょう。前回お話したとおり、本来「言葉が乱れる」などということは「あり得ない」のです。
私自身、新しい言葉やおもしろい表現に出会うことが大好きなので、いつも出会うたびに楽しんでいます。ところがです・・・・・そう自分で言っておきながら、実は最近、私自身どうしても許せない「若者言葉」があります。残念ながら、私も年をとったのでしょうか?
今から3~4年ほど前、ある大手銀行のファームバンキングの新ソフトを導入した際、ユーザーサポートへ電話をしたことがあります。そのとき電話口から聞こえてきたのは、明るくかわいい若い女性の声でした。
女性:「画面右上に見える赤いボタンをクリックしていただいてよろしかったでしょうか?」
私:「はあ?・・・・赤いボタンをクリックしても大丈夫だったか、ということですか?」
女性:「いえ、お客様、クリックしていただいてもよろしかったでしょうか?」
私:「はあ?・・・・私が赤いボタンをクリックしておかなければならなかったのですか?」
女性:「いえ、クリックしていただいてよろしかったでしょうか?」
私:「私はこれからこの赤いボタンをクリックするのですね?」
女性:「はい、さようでございます」
このような奇妙な会話が何回か続いているうちに、電話口の向こうから聞こえてくる日本人の日本語が少しずつ理解できるようになりました。彼女は奇妙な過去形の日本語を連発してきたのですが、どうやら彼女自身、過去形を使うことが敬語であると勘違いしているようでした。
私:「将来この件でまた電話しましたが、よろしかったのでしょうか?」
女性:「?????」
私:「ユーザーサポートだったあなたの説明が理解できたことはありがたかったのでした」
女性:「?????」
最後になって私も少々彼女のことをからかってみたのですが、なぜ私がこんなことを言うのか、彼女にはぜんぜんわかっていなかったでしょう。
それからしばらく経ち、ちまたにはこの「奇妙な過去形言葉」が氾濫するようになりました。特に最近コンビニではよく聞きます。
「お客様、ドレッシングは別売りとなっておりますが、よろしかったでしょうか?」
「おつりは細かくなりますが、よろしかったでしょうか?」
ついでにもう一つ、最近よく聞く奇妙な若者言葉「~なくない?」
「これっておいしくなくない?」
「おいしいのか?おいしくないのか?はっきりせい!」と言いたいのですが、やっぱり私も年をとったのでしょうか?
(この項、終わり)