2008年12月5日、中小企業庁は「緊急保証制度」の対象業種の中に「翻訳業」を加えました。以下は中小企業庁のサイト内の記述です。
【10月31日から開始しました「緊急保証制度」については、11月14日に73業種を追加し、現在、618業種を対象に実施しているところでありますが、最近の景況悪化や中小・小規模企業の年末資金繰り対応等を踏まえ、電子部品製造業、理美容業、ビルメンテナンス業など80業種を追加指定することとなりました。
この結果、対象業種は全体で698業種となります。
追加指定業種は12月10日から本保証制度の対象となります。
対象業種の中小・小規模事業は、金融機関から融資を受ける際に一般保証とは別枠で、無担保保証で最大8,000万円、普通保証で最大2億円まで信用保証協会の100%保証を受けることが出来ます。】
とあります。正直言って、私はこの「緊急保証制度の対象業種拡大」の中に「翻訳業」を加えることには反対です。
会社経営に「資金の確保」が重要であることは今更言うまでもありません。たとえば、小売業・卸売業などはその典型例で、粗利益額に対し、動かすお金(仕入と売上)が巨額になるため、不測の事態に備え、常に余裕を持って資金の確保をしておく必要があります。
また、装置産業とも言える製造業であれば、最初に多額の設備投資をしてから、長期間にわたって投資額を回収していく必要があります。そのため、常に多めに運転資金を確保しておかねばなりません。
しかし、「翻訳業」はどうでしょうか?
翻訳業に巨額の仕入や設備投資が必要でしょうか?
なぜ、今回のような8,000万円だ、2億円だ、というようなお金が必要になるのでしょう。しかも、一般保証とは別枠ということですから、通常の設備投資資金や運転資金とは別に特別融資を受けると言うわけです。
創業間もない「翻訳会社」であれば、途中で資金が枯渇してしまうケースも出てくるでしょう。また、たとえ歴史のある会社であったとしても、経済の激変により一時的に資金ショートする場合もあり得るかもしれません。
しかし、その会社が本当に「翻訳会社」なのであれば、一般の保証枠の中で十分に資金を確保できるはずです。
もしそれがカバーできないのだとすると、それは現在の経営の「何かが間違っている」からだと思います。
「借金」とは「もらったお金」ではなく、金利や保証料を上乗せして「必ず返さなければならないお金」のことです。すこし厳しい言い方をすると翻訳会社にとって「借金」は「麻薬」であるとも言えます。
今回のこの「緊急保証制度」の業種の中に「翻訳業」を入れるか入れないかについては、経済産業省から社団法人日本翻訳連盟(JTF)に問い合わせが来ました。
私もJTFの理事として、理事会では「翻訳業」を対象に入れることには反対の立場を表明しようと考えていたのですが、一部の会員企業から事務局宛に、実施に向けての強い要望が出ている、ということもあり、私としては黙認することにいたしました。
人それぞれ価値観が違いますが、もし今回の「緊急保証制度」を使って、新たな融資を受けようとしている「翻訳会社」の経営者の方がいるとしたら、私はこう申し上げたいと思っています。
「“麻薬患者”に“麻薬”を打てば、今はよくても数年先は地獄です。会社を健全に回復させるために、“今何をすべきか”をもう一度冷静に考え、信念に基づき果敢に実行してください」・・・と。
しつこいようですが最後にもう一言、結論です。
「“翻訳会社”が“翻訳会社”であるかぎり、決して借金をしてはいけません」。