世界各国の特許等使用料の収支

財団法人 国際貿易投資研究所 国際比較統計のデータを編集して下記の表を作成してみました。

日本の特許収支の黒字が2006年暦年で過去最大の約46億ドル(当時の為替相場で約5,358億円)となり、アメリカに次ぐ世界2位の黒字国に浮上しました。

大変喜ぶべきニュースなのですが、「これはただ日本企業が海外子会社から受け取る特許料が増えただけ」と指摘する声もあり、手放しで喜ぶわけにはいかないようです。

また、黒字額を対GDP比で比べてみると、スウェーデンの0.6%に比べて、日本の0.11%は明らかに見劣りします。

さて、これらの統計を編集してみて、気がついたことを下記に列挙してみます。

1. 特許等使用料の世界収支が、2006年で161億ドル以上という巨額の赤字となっています。世界収支が赤字というのも奇妙な話なので、(財)国際貿易投資研究所へメールにて問い合わせをしたところ、下記のような返事をもらいました。

(返事始まり)
統計の精度やタイムラグ等、さまざまな要因から、実際に計算した結果は一致しないのが現実となっています。特許等使用料の場合を例にとると、受取り額を公表している国。支払い額を公表している国収支のみを公表している国など、発表している国数が異なります。

世界中の国地域が200前後の数が在るのに対し、特許等使用料の公表国は110を前後ですので、集計可能な国で計算するとどのような金額になるのかを示しています。

そこで、WORLDには集計可能な国数を表示してあるのは、そのためです。これは、当研究所のホーページ国際比較統計のWORLDに国数を示しているのは、掲載時に集計計算が可能な国のみを対象に作成する方法を採用していることを示しています。
(返事終わり)

つまりどこかの国に巨額の黒字が隠れ、表面に出てきていないということになります。

そんなことが本当にあるのでしょうか?その答えのひとつに下記の問いかけがあると私は推測します。

2. 「黒字国TOP10」の6位にアンゴラ、9位にパラグアイが入っています。このような発展途上国がなぜ黒字国となっているのでしょうか?

調べてみると「特許等使用料の定義」は、「居住者・非居住者間の特許権、商標等の工業所有権、鉱業権、著作権などに関する権利の使用料、~」とあります。

つまり、アンゴラやパラグアイはきっとこの「鉱業権」の対価をもらっているに違いないと私は考えます。

そのため巨額の「鉱業権」を先進国からもらいながら、その統計もよく把握できない発展途上国が数多くあり、「世界の特許等使用料の国際収支」が巨額の赤字になっているのだろうと、私は推測します。

<世界各国の特許等使用料 黒字国 TOP10   単位:100万ドル>

順位

国 名

1980年

1990年

2000年

2005年

2006年

 

 world

 1,794

2,595

▲5,315

▲13,375

▲16,142

 

 (国 数)

(52)

(69)

(122)

(129)

(112)

 1

アメリカ

6,350

13,500

26,765

34,777

35,945

2

日 本

▲980

n.a.

▲780

3,002

4,595

 3

イギリス

210

▲520

1,515

4,336

3,626

 4

 フランス

▲532

▲334

277

3,123

2,932

 5

スウェーデン

▲114

▲180

375

1,969

2,346

 6

 アンゴラ

n.a.

n.a.

10

46

1,338

 7

 ベルギー

n.a.

n.a.

n.a.

311

468

 8

 オランダ

▲225

▲ 666

▲334

175

261

 9

 パラグアイ

n.a.

76

194

217

234

 10

ルクセンブルグ

n.a.

n.a.

12

147

212

「特許黒字」のTOP5(2006年暦年)

 

黒字額

名目GDP

GDP比

アメリカ

359億ドル

131,947億ドル

0.27%

日 本

46億ドル

43,664億ドル

0.11%

イギリス

36億ドル

23,985億ドル

0.15%

フランス

29億ドル

22,480億ドル

0.13%

スウェーデン

23億ドル

3,930億ドル

0.60%

<世界各国の特許等使用料 赤字国 TOP10 + 注目国   単位:100万ドル>

順位

国 名

1980年

1990年

2000年

2005年

2006年

1

アイルランド

n.a.

▲553

▲7,691

▲18,450

▲19,788

2

シンガポール

n.a.

n.a.

▲4,959

▲8,317

▲9,739

3

中 国

n.a.

n.a.

▲1,201

▲5,164

▲6,430

4

カナダ

n.a.

n.a.

▲1,510

▲4,028

▲4,075

5

韓 国

▲99

▲1,327

▲2,533

▲2,652

▲2,477

6

台 湾

n.a.

▲461

▲1,463

▲1,562

▲2,077

7

タ イ

▲30

▲170

▲701

▲1,657

▲1,999

8

ドイツ

▲840

▲1,810

▲2,763

▲438

▲1,956

9

ロシア

n.a.

n.a.

23

▲1,333

▲1,703

10

オーストラリア

▲205

▲664

▲788

▲1,452

▲1,600

           

12

ブラジル

▲26

▲42

▲1,289

▲1,303

▲1,513

           

17

インド

▲12

▲71

▲200

▲636

▲837

           

20

イタリア

▲355

▲919

▲635

▲811

▲725

           

24

フィンランド

▲84

▲266

321

83

▲407


3. 赤字額で言えば、やはりBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の存在感がより強まってきています。

4. 意外なことに、あの先進工業国ドイツや豊富な歴史的遺産や高級ブランド品を多く持つイタリアが、大幅な赤字国となっています。

5. 教育国として最近脚光を浴びているフィンランドも赤字国へと転落しているのは、とても興味深いところです。

いずれにせよ、”感覚”ではなく”数字による客観的データ”をもとに、科学的に考えていかなければ真の姿は見えてこない、ということが改めてよくわかります。