世界最小の歯車と先着順採用、樹研工業
2002年、世界初となる100万分の1グラムの超小型歯車を開発した、工業用プラスチック製品製造メーカーの「樹研工業」は、微細加工の分野で世界中から一気に注目を集めました。
しかし、注目を集めたのはよいのですが、開発した超小型歯車は、そのあまりの小ささに用途がなく、未だにまったく売れていません。
今のところ需要があるのは、1,000分の1グラムの歯車まで、ということですから、100万分の1グラムの歯車がいかにケタ違いに小さいかがわかります。
<米粒に乗った100万分の1グラム、10万分の1グラム、1万分の1グラムのギア。米粒が巨大に見える。>
それでは、なぜこのような途方もない製品開発に数億円もの資金を投入したのでしょうか?
株式会社樹研工業は、本社を愛知県豊橋市に置く、従業員約70人、売上高約28億円の典型的な地方の中小製造業です。
社長の松浦元男氏によれば、
「樹研工業はいろいろな優れた技術を持っているんです。でも結局、我々のような小企業ではそれを必要とするところに届けることができない。だとしたら、打ち上げ花火を上げて気付かせるしかない。こちらの注目を集め、名前を売り、技術力を見せつけ、向こうから会いたくなるように仕向けなければならないんです」
予想どおり、樹研工業の名前は全国区となり、日本中のマスメディアはもとより、海外のメディアまでもが取材に来るまでになりました。現在では社長の松浦氏は講演会や大学講師としても引く手あまたです。
当然、国内外の大メーカーも黙ってはいません。「それだけの技術があるならこんなものがつくれないだろうか」と、たちまちデンソーのような、売上高3兆円を超える世界企業から仕事が舞い込んできました。また、スイスの有名時計ブランドのスウォッチ社など、欧米の企業からも引き合いが来たのです。
現在同社はヨーロッパ、アジアを中心に世界100社ほどと取引を行うまでになり、まさにオンリーワン企業となったわけです。
しかし、樹研工業の名前を高めたのは、超小型歯車の技術力だけではありません。実は、この会社はきわめてユニークな人事制度を採用しているのです。
社員を採用するときは、
・先着順 (つまり、早い者勝ち)
・無試験
・学歴、国籍、年齢、性別は一切問わない
ほかにも
・出勤簿やタイムカードは全くない
・徒弟制度による人材育成
・定年はない (本人が希望すれば何歳までも働ける)
・年功序列制
実際、社員の中には、
・数カ国語をこなす茶髪にピアスの高卒の女性
・視察に来た大学教授や博士に技術指導を行う元暴走族
という、この会社に入ってその才能を開花させた、変り種の社員がいるそうです。
<株式会社樹研工業 代表取締役 松浦元男氏
まつうら もとお。1935年、愛知県名古屋市生まれ。愛知大学法経学部経済学科卒業後、5年間の会社員生活を経て、1965年に樹研工業を設立。学生時代には、トロンボーン奏者としてジャズバンドで活躍していた経歴も持つ。>
「大体、面接をやったって、人間の本質を10分程度で見抜けるわけがないんだよ。実際、うちで若手のホープと言われている人材が入社したばかりのころ、『今回ばかりは失敗したか』と僕は採用を後悔しました。いま、社内では『天才』とまで言われ、誰からも頼りにされています。でも、そのときは全くわからなかった。だから、当社を志望する気持ちがあれば、もうそれで十分だと思っています。 」(松浦社長)
スゴイですね。こんなことできる「翻訳会社」あるでしょうか?
ないでしょうね。