世界一の中小企業(その1)

冷凍船の冷凍庫で世界のトップシェア、前川製作所

2007年7月、新潟県中越沖地震により日本の全自動車メーカー(12社)の生産ラインが一時操業停止となり、12万台もの減産が余儀なくされました。

新潟県に起きた地震により、日本全国の自動車工場がストップした理由は、新潟県柏崎市にメインの工場を持つリケン株式会社という中堅自動車部品メーカーがその部品を供給できなくなったからでした。

この”リケン”という会社は、同社のホームページによると、連結売上高、912億円、従業員数1,545人という立派な上場大企業です。しかし、売上規模で比べれば、トヨタ(24兆円)のわずか0.4%にも満たない小さな小さな存在です。

その小さな企業が、マンモス企業、トヨタの全28工場の操業を停止させてしまった訳は、ピストンリングのシェアで国内50%以上、全世界でも20%を占めているからでした。

ピストンリング
<ピストンリング (リケンのホームページより)>

このように技術立国日本を陰から支える、「世界一の中小企業」は日本にはまだまだ沢山あります。それらの「小さな巨大企業」や「小さな超優良企業」をこれからこのブログで順次取り上げていきたいと思います。

まず初めに、東京都江東区に本社を持つ、前川製作所を取り上げます。

前川製作所は、「産業用冷凍庫の国内シェアが60~70%、冷凍船の冷凍庫では世界で80%のシェアを有しており、この分野のまぎれもない世界トップシェア企業である」(「世界を制した中小企業」黒崎誠著 講談社現代新書)

さらに「前川製作所が開発したスクリュー型小型コンプレッサーによって、漁船に冷凍設備を設置できるようになった。マグロやカツオを遠洋で捕り、その場で血抜きして瞬間冷凍すれば、鮮度をそのまま保つことができる」(同著)とあります。

海水氷
<鮮魚介類に合った塩分濃度・マイナス温度保持・浸透圧
で鮮度保持効果が期待出来ます (前川製作所のホームページより)>

そういえば昔は、サンマやサバの刺身など食べることができませんでした。漁獲後、時間が経つと人間の身体に有害な物質が発生するためだと聞いたことがあります。それが今では、どこの寿司屋へ行っても当たり前のようにサンマやサバの刺身をおいしく食べることができるようになりました。

「どこかの会社が新しい冷凍技術を開発したおかげで、昔食べられなかったものが今では簡単に、安く、安全に、食べられるようになった」と以前板前さんから聞いたことがあります。

その「どこかの会社」が「前川製作所」だったのですね。

その後同社は鮮魚だけでなく、食肉用の冷凍船にも進出し、現在では鮮魚と食肉を運搬する冷凍船に搭載されている冷凍庫の世界シェアのほぼ80%を前川製作所1社で占めている。

「当然、大手企業を含めた数多くのライバル企業が、虎視眈々と巻き返しをはかっているわけだが、なかなか思うようにいかない。その一番の理由はやはり同社のもつ抜群の技術力。ライバル企業も『大量の肉や魚を冷凍する大型冷凍船では、全体を均等に冷やすとか、年間を通じて温度の狂いがゼロに近い状態を保つといった高度な技術を求められるが、前川以外にこれができる企業はきわめて少ない』と言う」(前述の同著)

なるほど、海の上で冷凍庫が故障しても、すぐにメンテナンスに駆けつけることは難しいし、その間に冷凍の肉や魚が腐ってしまったら、その被害は甚大なものになるわけですから、やはり品質には非常に神経質になるのでしょうね。

「前川製作所のつくる冷凍庫の多くは注文生産。当然ながら、ユーザーによって、使用目的、容量、温度など、条件はすべて異なる。この要望を、同社の技術者たちがひとつひとつ聞いて、製品をつくりあげていく。このようにきめ細かい要望に応えられるのは、下請けに任せず、自分のところで作っているからだ。中にはこれまでの常識では無理なものもあり、他社が断ったものもある。前川製作所は、そんな注文にも、問題点を解決しながら応えてきた」

(中 略)

「もうひとつ、前川製作所のユニークな点は、優れた技術を持っている者ならば年齢にかかわらず登用するところにある。なにしろ同社には90歳を過ぎた現役研究者がいるのだ」(前述の同著)

なんだか翻訳会社の経営にも通じるところがありそうですね。
これからこのようにユニークな経営をする「小さな巨大企業」、「小さな超優良企業」をこのブログで毎回取り上げていきます。

(この項、次回へ続く)