2013年2月19日 日本経済新聞朝刊
日本製家電をハンマーで壊す人々の姿をご記憶だろうか。中国の話ではない。1980年代後半の米国での出来事だ。背景には台頭する日本への脅威論があった。
当時の米国は輸出攻勢をかける日本を円高で封じ込める戦略に出た。プラザ合意のあった85年と比べて円は一時対ドルで3倍に上昇。海外と比較した賃金(ドル換算)も3倍になり、日本企業は一気に競争力を失った。
聖域なきコスト削減を迫られ、開発案件の中止などイノベーションの種を諦める事例も相次いだ。円高は次世代製品を生む余力や文化まで奪い去り、コスト競争力の低下より深刻な事態を引き起こした。たかが為替、されど為替である。
だが日本を締めつけてきた円高の桎梏(しっこく)がはずれようとしている。アベノミクスのアナウンス効果だ。徹底した金融緩和を宣言して市場の期待に働きかけ、マネーの流れを変える政策は的を射ている。ヒト、モノ、カネ、情報が世界を駆け巡るグローバル資本主義では市場とマネー、企業を味方にできるかどうかがカギを握る。
もう一つ、今回の円高修正に米国が異議を唱えないことがポイントだ。背景に日本の地政学的位置づけの変化があろう。
冷戦時代、旧ソ連の脅威に対抗する上で日本の安定と繁栄は米国にとって不可欠だった。ところがソ連崩壊で日本の重要性は低下し、むしろ経済的脅威に変わった。
91年のソ連崩壊後、日本のバブル崩壊が加速したのも偶然ではあるまい。失われた20年はそうした国際力学の狭間で生まれたともいえる。
だが中国という新たな脅威が登場した今、米国は日本と手を携えようとしている。事実上の円安容認はその表れだ。環太平洋経済連携協定(TPP)の大切さはそうした脈絡からも説明できる。国内総生産の1%にとどまる農業保護のためにTPP不参加を唱えるのは大局観を欠いている。
日本は3つの過剰、需給ギャップなど複合要因でデフレに陥ったが、賃下げ、設備償却、不良債権処理に耐えて多くを解決した。残った円高が是正されれば経済全体がうまく回り出すはずだ。
我々はこの20年を無駄に過ごしたのではない。復活の条件を辛抱強く整えてきたのだ。地政学上の順風も加わり日本は歴史的な大転換点に立った可能性がある。
(以上で記事終わり)
私が今までにこのブログや他のブログの中で再三とりあげてきた「円高」の問題と、日本の「地政学上」の問題がこの記事でとりあげられています。
冷戦時代、ソビエトとアメリカの間に立って“漁夫の利”を得た日本ですが、今回は皮肉なことに隣国である「中国という新たな脅威」が日本に有利に働くというわけです。
この記事にあるように日本経済を不振に陥らせた原因の調整は改善され、最後に残されていた「円高」というファクターも改善されつつあり、さらにそこに「地政学上の順風が加わり、日本は歴史的大転換点に立った可能性がある」のでしょうか。
私はこの記事の内容にさらにもう2つ加えたく思います。
アメリカの“シェールガス革命”が化石燃料高騰に頭を悩ましている日本経済に追い風をもたらし、それに加えて、“メタンハイドレート”の実用化に目途がたてば、21世紀は日本の世紀と言えるほどの“黄金の時代”を迎えることになるでしょう。
そんな夢のような話が実現する可能性も決して小さくはないと信じています。