円安は経済再生への必須条件

2012.12.13 日本経済新聞朝刊 「大機小機」より

格付け会社フィッチ・レーティングスがソニーとパナソニックの格付けを投資不適格水準に引き下げた。我が国株式市場のブルーチップ(優良銘柄)を代表する企業であった両社がここまで追い詰められていたことは衝撃的である。

この2社に限らず製造業の競争力は大きく落ち込んでいる。超円高、エネルギーコストの上昇、高い法人税、環太平洋経済連携協定(TPP)参加交渉の遅れなど製造業への逆風が続いた。政府の対策が遅れた面も否めない。

中国リスクも抱える製造業が苦境から抜け出す鍵は東南アジア諸国連合(ASEAN)市場であろう。中でも、ベトナム、インドネシア、フィリピンの3カ国を合わせた総人口は4億人を超えており、1人当たり名目GDP(国内総生産)も急速に伸びている。近い将来に中間所得層の爆発的増加で、この地域に巨大な消費市場が生まれることが予想される。人々の親日感情と日本製品への信頼が高いとされることも魅力である。

しかし、現状は韓国製品がASEAN市場全体を席巻している。韓国製品の強さを支える要因のひとつが通貨安だ。足元ではやや修正されているが、通貨安政策もありウォンは昨年の最安値時には対円で4年前の半値近くまで下落した。長期に及ぶ円高は日本製造業の努力の限界を超えており、このままではASEAN市場での機会も失われるであろう。

世界市場でも日本製品の劣勢が続いており、輸出の減少で今年度上半期(4~9月)の貿易収支の赤字は、半期ベースでは過去最大となった。経常収支も9月に31年ぶりの赤字を記録しており、日本経済の南欧化リスクを指摘する声もある。

1980年代に貿易収支と財政収支の「双子の赤字」に苦しんだ米国は85年9月、先進5カ国が協調してドル安を進める「プラザ合意」の締結で、対円ではドルの価値を半減させて米国経済の再生に道筋をつけた。世界にとっても悪夢であろう日本の南欧化を防ぐため、政府は欧米に円安政策への理解を求め、金融市場には円安への強い意志を示すべきである。

金融緩和のほか、シンガポールのように通貨の誘導目標を定めることなども有効手段となろう。円安はデフレ解消や日本経済再生の必須条件だろう。

(記事の引用はここで終わり)

下記に「円の対ドル・対ユーロ為替レートの長期推移」のグラフを掲載します。

バブル崩壊後の日本経済の低迷とアメリカ経済の伸長を考えたとき、いまだ日本の円が1ドル80円近辺にあるのはなせなのか理解に苦しみます。

理由の一つに日米の貿易収支の違いがあげられるようです。

貿易赤字が慢性化しているアメリカは、ドルを売り、外貨を買うため「ドル安」の圧力が常にかかります。

それに対し日本は戦後の長きにわたり、貿易で巨額の黒字を稼いできました。

しかしその構造が今、急激に変わろうとしてきています。

アメリカの「シェールガス革命」により、アメリカのエネルギー輸出が2035年までに輸入を上回り、純輸出国になる、との観測が出されているからです。

アメリカの貿易赤字の半分を占めるエネルギー資源が輸入国から輸出国へ変わるというのですから大変なことです。

現在、国際競争力を急激に失いつつある日本の製造業は、円高によりさらに打撃を受け、日本は第2次オイル・ショック以来という31年ぶりの貿易赤字に転落しました。

上記の日経の記事に

「1980年代に貿易収支と財政収支の『双子の赤字』に苦しんだ米国は85年9月、先進5カ国が協調してドル安を進める『プラザ合意』の締結で、対円ではドルの価値を半減させて米国経済の再生に道筋をつけた。」

とあります。

アメリカの「シェールガス革命」に加え、日本政府の「円安政策」により、日本の製造業が再び世界市場で大活躍する日を楽しみにしています。

円の対ドル為替レートの長期推移