次にロマンス諸語に移りたいと思います。
ご存じのとおり、ロマンス諸語にはフランス語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語などの主要ヨーロッパ言語が含まれていますが、ここではそれらは避けてマイナーな言語に絞って試してみようと思います。
ルーマニアは東ヨーロッパに位置する国ですが、ルーマニア(România)という国名自体が「ローマ人の国」を意味することからもわかるように、ルーマニア語もラテン語から分岐したロマンス諸語に属しています。
とは言うものの、ルーマニア語も長い歴史のなかでとりわけスラヴ語圏からは強い影響を受けてきています。さらにハンガリー語、トルコ語、ギリシャ語からの影響もあり、ロマンス諸語の中でもかなり特異な存在と言えます。
そのへんの事情は、他のロマンス諸語にはない文法構造に表れているようです。一方、文字に関しては19世紀以降キリル文字からラテン文字への移行が進み現在に至っています。
さて、それではそのような特異な存在であるルーマニア語を「Google翻訳」するとどうなるか?さっそくやってみましょう。
ロマンス諸語
<ルーマニア語 原文①>
Au ieșit din casă, au coborât din lift și au urcat în mașină.
(人間訳)
彼らは家を出て、エレベーターから降り、車に乗りました。
(Google訳 日本語)
彼らは、家を出エレベーターを降りて、車の中で得ました。
(Google訳 英語)
They got out of the house, got off the elevator and got into the car.
日本語は「車の中で得ました」が残念です。
英語は話者の意図するところはきちんと伝わるでしょう。
<ルーマニア語 原文②>
Cât este ceasul acum? Este ora paisprezece și patruzeci și cinci de minute.
(人間訳)
今何時ですか? 14時45分です。
(Google訳 日本語)
それは今何時ですか?時間は午前2時45 p.m..です
(Google訳 英語)
What time is it now? It’s fourteen forty-five minutes.
日本語は、「午前」なのか「午後」なのかわからないという大きなミスを犯しています。
英語もおかしいですが、かろうじて意味は通じるかもしれません。
<ルーマニア語 原文③>
Dumneavoastră sunteți professor? Nu. Sunt inginer.
(人間訳)
あなたは先生ですか? いいえ、私はエンジニアです。
(Google訳 日本語)
あなたは先生ですか いいえ。私はエンジニアです。
(Google訳 英語)
Are you Professor? Not. I’m an engineer.
日本語は、句読点の使い方を除けば正しく訳されています。
英語は冠詞の使い方や”No,” が“Not.”になるなどの問題はありますが、話者の意図するところはきちんと伝わるのではないでしょうか。
<ルーマニア語 原文④>
Biserica Neagră este cel mai reprezentativ monument de arhitectură gotică din România.
(人間訳)
「黒の教会」は、ルーマニアで最も代表的なゴシックの建造物です。
(Google訳 日本語)
黒の教会はルーマニアのゴシック建築の最も代表的な建造物です。
(Google訳 英語)
The Black Church is the most representative monument of Gothic architecture in Romania.
日本語も英語もほぼ正確に訳されているのではないでしょうか。
<ルーマニア語 原文⑤>
Nu pot să merg cu tine, deoarece am de învățat pentru măine.
(人間訳)
明日のために勉強しなければならないので、君と一緒には行けません。
(Google訳 日本語)
私は明日のために学んだので、私はあなたと一緒に行くことはできません。
(Google訳 英語)
I can not go with you, because I have to learn for tomorrow.
日本語では「勉強しなければならない」が「学んだので」になっているところが残念ですが、だいたい話者の意図は伝わると思います。
英語は話者の意図するところはきちんと訳されているのではないでしょうか。
<ルーマニア語 原文⑥>
Ea, văzând că la poștă este prea multă lume, a hotărât să vină în altă zi.
(人間訳)
彼女は、郵便局にあまりにも多くの人がいるのを見て、他の日に来ることにしました。
(Google訳 日本語)
彼女はポストは、あまりにも多くの人々であることを見て、彼は別の日に来ることを決めました。
(Google訳 英語)
She, seeing too many people at the post office, decided to come another day.
日本語は途中からいきなり主語が「彼女」から「彼」に変わるという致命的なミスを犯しているため使えない訳と言わざるを得ません。
それに対して、英語のほうは話者の意図するところを伝えていると思います。
わずかな例文だけではありますが、ロマンス諸語の中にあって特異な存在であるルーマニア語の「Google翻訳」の結果はどうだったでしょうか。
英語への翻訳に関して言えば、時間表記の点を除けば、ほぼ問題なく通じる訳ができていたのではないでしょうか。
一方日本語への翻訳はどうかというと、まだまだ不完全と言わざるをえません。
ただし、日本語・ルーマニア語間と英語・ルーマニア語間のコーパスの量を考えればそれも当然の結果なのかもしれませんが。
(この項続く)