最後に他のヨーロッパ諸語から距離を置く言語、つまり言語学的にグループを形成していない独立した状態の言語を試してみます。具体的にはギリシャ語とアルバニア語がそれにあたります。また、リトアニア語はバルト語派に属する言語でお隣の国の言葉、ラトビア語と同じ語派ですが、バルト語派自体が他のヨーロッパ諸語とは少し距離をおく位置にあります。
ギリシャ語派
<ギリシャ語 原文①>
Πού είναι η ιαπωνική πρεσβεία;
(人間訳)
日本大使館はどこですか?
(Google訳 日本語)
日本大使館はどこにありますか?
(Google訳 英語)
Where is the Japanese embassy?
日本語も英語もきちんと訳されています(英語の方は “embassy” が “Embassy” になっていればより良かったという細かい問題はありますが)。
<ギリシャ語 原文②>
Τι μέρα είναι σήμερα;
(人間訳)
今日は何曜日ですか?
(Google訳 日本語)
今日は何の日です
(Google訳 英語)
What day is today;
日本語は「何曜日」が「何の日」になってしまい最後の「か?」も抜けているため使えません。英語は最後につける ”?” が ”;” になってしまったところが残念です。
アルバニア語派
<アルバニア語 原文①>
Ku është nevojtorja?
(人間訳)
トイレはどこですか?
(Google訳 日本語)
トイレはどこですか?
(Google訳 英語)
Where is the needle?
日本語の方はきちんと訳されていますが、なぜか英語のほうは唐突に “needle” (針)が現れてきます。完全に誤訳です。ただ不思議なことにGoogle翻訳に ”nevojtorja? だけを入力するとちゃんと「toilet?」と訳されます。ちなみに日本語の方も「トイレ?」となります。
<アルバニア語 原文②>
Mund të përdorni telefonin tuaj?
(人間訳)
あなたの電話を使ってもよろしいですか?
(Google訳 日本語)
あなたの携帯電話を使用することができますか?
(Google訳 英語)
Can you use your phone?
日本語の方は意図するところは伝わりますが、英語の方は “I” とすべきが “you” となり意味が逆になっています。
<アルバニア語 原文③>
A mund të më ndihmoni ju lutem.
(人間訳)
助けてください。
(Google訳 日本語)
あなたは私を助けてくださいすることができます。
(Google訳 英語)
Can you help me please.
日本語では話者の意図するところは伝わりませんが、英語の方では伝わるでしょう。
<アルバニア語 原文④>
Unë kam nevojë për një doktor.
(人間訳)
医者が必要です。
(Google訳 日本語)
私は医者を必要とします。
(Google訳 英語)
I need a doctor.
日本語も英語もきちんと訳されています。
バルト語派
<リトアニア語 原文①>
Ką jūs studijuojate? Studijuoju lietuvių kalbą.
(人間訳)
あなたは何を学んでいるのですか? リトアニア語を学んでいます。
(Google訳 日本語)
あなたは何を教えていますか? リトアニア語を学びます。
(Google訳 英語)
What are you studying? I study Lithuanian language.
日本語の方は、なぜか「学ぶ」が「教える」と意味が真逆になっています。英語の方は話者の意図するところは伝わっています。
<リトアニア語 原文②>
Man parėjus namo, paskambino draugė.
(人間訳)
私が家へ帰ると、女友達が電話してきました。
(Google訳 日本語)
私は友人を呼び出し、家に帰りました。
(Google訳 英語)
When I got home, a girlfriend called.
日本語の方は完全な誤訳ですが、英語の方は話者の意図するところはちゃんと伝わるでしょう。
<リトアニア語 原文③>
Atsiprašau, gal galite pasakyti, kur yra knygynas?
(人間訳)
すみません、本屋がどこにあるか教えてもらえますか?
(Google訳 日本語)
本屋がどこ申し訳ありませんが、あなたは私を伝えることができますか?
(Google訳 英語)
Sorry, can you tell me where is the bookstore?
日本語の方はまるで意味不明です。英語の方は “is” の位置がおかしいですし、もちろん”Sorry,” は “Excuse me,” にすべきですが、とりあえず相手に意味は通じるでしょう。
さて、ここまで17のヨーロッパ言語をGoogle翻訳で試してきましたが、この辺でこのシリーズを終了したいと思います。
全体を通して感じたことは、文章がシンプルであったり、定形表現であったりすれば、かなりきちんと訳されているということでした。
また、中には驚くほど見事に訳されている文章があるかと思えば、トンチンカンな訳になっていたり、意味が真逆に訳されていたりというケースもありました。
試した言語がどれもヨーロッパ言語の中では比較的マイナーな言語だったので、コーパスの少なさゆえにこのようなギャップが生じたのでしょうか。
また「日本語への翻訳」と「英語への翻訳」はどちらがより正確か、という観点から考えるとやはり「英語への翻訳」の方がずっと正確に訳されているという印象があります。
これは英語がヨーロッパ言語のひとつであるという理由に加えて、世界最大の流通言語である英語への翻訳ほうが、日本語への翻訳よりもより多くのコーパスが存在しているからということなのかもしれません。
Google翻訳は、使えば使うほど進化するディープラーニングという手法を用いたAIなので、今後良質のコーパスがもっと蓄積されていけば完成度はより高まっていくのでしょう。
しかし、現状においては、意味が正反対に訳されたり、まったく意味不明の訳になったりするので、人間によるチェックはまだまだ不可欠と言わざるを得ません。
(この項終わり)