2007.3.22 Sankei Web
米ハードボイルド小説の巨匠、レイモンド・チャンドラー(1888~1959年)の代表作「ロング・グッドバイ」を作家の村上春樹さんが翻訳し、今月、早川書房から出版した。この作品は1958(昭和33)年に同社から出版された故清水俊二さんの名訳「長いお別れ」がよく知られているが、今回の村上版は細部まで丁寧に訳されており、ほぼ半世紀を経て“完訳版”が日本に登場した形だ。
(中略)
清水訳は名訳の誉れ高く、大勢のファンを獲得してきたが、実は省略された部分があり、一部の愛好家は不満があったといわれる。村上訳の初稿は昨春に上がったが、通常は1、2回で終了する推敲(すいこう)作業が、村上さんによって今年1月まで7、8回にわたって行われるなど、正確を期したという。
早川書房の千田宏之編集部長兼ミステリマガジン編集長は「清水さんは映画字幕で有名な方で、エッセンスをうまく抽出してセリフも映画のようにびしっと決まっている。村上さんの翻訳は一字一句を大切にし、しかも翻訳小説であることを意識させないほど読みやすい」と説明する。
(後略)
・・・・(記事の転載ここまで)
この記事を読むと、レイモンド・チャンドラーや村上春樹ファンならずとも、思わずこの新訳を読んでみたくなってしまいます。特に「村上さんの翻訳は一字一句を大切にし、しかも翻訳小説であることを意識させないほど読みやすい」・・・ということですから、とても興味深いところです。
昨年7月に、世界的ベストセラー「ハリー・ポッター」シリーズの日本語訳をした、翻訳家の松岡佑子さんが、同シリーズの翻訳料収入をめぐり、東京国税局から04年分までの3年間で35億円を超える申告漏れを指摘される、という「事件」がありました。
一般的に、文芸翻訳で得られる翻訳者の収入は、本当に少ないと言われています。今回の「ロング・グッドバイ」の翻訳では、「ハリ・ポタ」のような巨額収入は得られないでしょうが、さすがに村上春樹ともなると、そのネームバリューだけで本も売れてしまうのでしょうね。やはり有名人は得です。
実力さえあれば「技術翻訳」では、相当な収入を堅実に得ることも可能ですが、「文芸翻訳」だけでは、生計を立てることさえも困難と言われています。しかし、「文芸翻訳」の魅力は、宝くじのように一発大儲けもあり得る、といったところでしょうか。もっとも一発大儲けを夢見て翻訳している翻訳者はほとんどいないと思いますが・・・・。