Column
第61回 サプリメントについて |
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<質問> 本羅先生、こんにちは。 先日、大手薬品メーカーのサプリメントに毒?が混入して、健康被害が出ているというニュースがありました。 私も食事が不規則になったときにビタミン剤やミネラルの錠剤を飲みますし、ダイエットに良いやら元気が出るなどと勧められると、そうしたサプリメントを口にすることがあります。 どうして、今回のような事件が起きたのか?は、今後の調査で明らかになるとしても、そもそもサプリメントって必要なんでしょうか? ちなみに、本羅先生はサプリメント飲んでますか?(東京都 A.W.)
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<回答> A.W.さん、ご質問ありがとうございます。私もニュースを拝見してビックリしました。なにせ、大手も大手のメーカーが起こした事故でしたし、私もサプリメントを飲むことはありますからね。とはいえ、今回のような事態は、ある意味で、起こるべくして起こった、とも言えます。
健康食品に関する法律の現状 前回のコラムでも軽く触れましたが、日本には健康食品(Functional food)についての法律がありません。と言いますか、「健康食品」という言葉が「健康の維持や増進を目的に、経口摂取される食品全般」を意味するだけで、そもそも「健康」や、その「維持/増進」という言葉に具体的な定義が無いのです。口を悪くすれば「言った者勝ち」であり、扱うもの独自の価値観に委ねられる言葉に過ぎません。 これも前回のコラムで触れましたが、そうした「具体性の無さ」の責任を明確にするべく、国は、医薬品(medication)、医薬部外品(quasi drug)、保健機能食品(food with health claims, FHC)という区分で、安全性や有効性について基準を設けています。
サプリメントの区分と基準 日本では、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」が、医薬品と医薬部外品における「疾病の診断/予防/治療/処置」などに関する医学的な表記を定めています。それ以外の製品には、医学的な表記を一切許しませんが、生理機能について表記を許された区分として、保険機能食品があります。保険機能食品の1つめである「特定保健用食品(トクホ/特保)」については「健康増進法」が、2つめの「栄養機能食品」については「食品衛生法」が定めています。 そして、2015年4月に3つ目の保健機能食品が加わりました。それが、今回、ニュースとなった「機能性表示食品」です。これは「科学的根拠を基にパッケージに機能性を表示する製品」として、事業者が消費者庁に届け出た食品のことで、安全性や有効性について国の定めた基準はありません。 先の2つは審査が厳しく、対象となる食品の範囲が狭過ぎるとのことで始まった、比較的新しい制度です。大切なことなので繰り返しますが、「機能性表示食品」は、「特定保健用食品」や「栄養機能食品」に並んで、我が国3番目の「商品パッケージに生理的な機能性を表示することを法的に許された製品」ではありますが、商品の安全性や有効性の公的な基準はなく、事業者がガイドラインに従って届け出ただけです。もちろんガイドラインは国が制定しているのですが、これは手続きに関することに過ぎません。 健康食品と医薬品の違い ここで消費者たる皆さんに強く意識していただきたいのは、「健康食品は、医薬品の代わりではない」ということです。何を当たり前のことを、と笑う方も多いと思いますが、もしかすると読者の中にも「医薬品は不自然」で「食品だから安心」「天然成分の方が自然で安全」「健康食品なら、なおのこと良い」と考える人がおられるのではないでしょうか。 本コラム第22回で、フードファディズム(food faddism, 食品や栄養に対する非科学的な問題行動)に触れました。科学的根拠を基にしているとはいえ、安全性や有効性についての基準が公的に定められていない以上は、慎重に越したことはないでしょう。 本コラム第24回で説明したように、水ですら「過ぎれば毒」なのです。そもそも、医薬品等のように緻密な研究開発を伴わない「健康食品」に必要以上の期待を寄せることはナンセンスですし、それは「サプリメント(Supplement)」についても同様です。 サプリメントの過剰摂取のリスク 日本で「サプリメント/栄養補助食品」というと、スナック菓子や飲料まで含むこともありますが、一般的には、ある成分の濃縮された通常の食品とは違う形(錠剤やカプセルなど)の製品を意味します。したがって、歴史的かつ社会的に広く受け入れられてきた食品の成分であっても、「濃縮」によって、「毒となる分量」を摂取してしまうこともありえます。 例えば、ビタミンです。ビタミンの欠乏は、ある種の疾病の原因となることが知られています。と言いますか、歴史的には、(偏った食生活などにより)ある物質が体内に不足すると特定の疾病が発症する、という因果関係が研究で解明されたことから、その物質が生理的に必要な栄養素と分かり、「ビタミン」と名付けたわけです。 しかしながら、やはり「過ぎれば毒」には変わりません。意外と知られていないのかもしれませんが、一部のビタミンには過剰症があります。水溶性のビタミンB群やビタミンCは、不必要な量は尿とともにに排泄されるので問題ありませんが、脂溶性のビタミンAやビタミンD、ビタミンKは、体内で使われなかったものが蓄積されるため、過剰摂取により副作用が生じます。特に、女性ですが、妊娠初期のビタミンA過剰摂取で、子供に先天性の奇形が増えることが知られています。
市販のサプリメントの多くは、その主たる成分の他に、副成分としてビタミンが含まれていることがあります。つまり、一日に何種類ものサプリメントを口にすることで加算された総量として、特定のビタミンが過剰摂取となることも十分にあり得るのです。 ありふれたビタミンですら、気を付けて欲しいのですから、新しいサプリメントや栄養食品の成分については、尚更です。成分によっては、アレルギー症状が出たり、常用される医薬品と相互作用を起こしたりすることもあります。健康食品やサプリメントを利用する目的は、性別/年齢/生活環境によって、健康維持や増進、美容にダイエット、体調や疲労の回復、病気の予防、食事で不足している栄養素の補給や強化など、様々だとは思います。 私もサプリメントを常用しますから、全てを否定するわけではありません。ただし、安易に考えず、特に、病人、子ども、妊産婦、高齢者、アレルギー体質のある方などは、注意を怠らないようにしてくださいね。どこのメーカーの製品をいつ、どのくらい飲んだかなどを記録に残し(簡単なメモでも大丈夫です)、体調が悪くなったときは、すぐ使用を中止して、医療機関や保健所に相談してください。 機能性表示食品の制度 冒頭に触れた、今回のニュースを受けて、国も動き出しました。関係閣僚が会合を開いて、機能性表示食品の制度を見直すようです。 しかしながら、製造工程管理における品質確保を徹底するためにGMP(Good Manufacturing Practice, (注1))を遵守事項とし、届出に慎重な姿勢を取るようにするとは言うものの、制度の仕組みが変わるわけではありません。
あくまで、今までが杜撰すぎたのではないか?という緩い制度に、多少なりテコ入れする程度かな、というのが、私の個人的な印象です。 ここまで、少々キツイ物言いになってしまいましたが、それは、私自身が、仕事柄、健康食品やサプリメントに興味を持っていて、成分について調べたりするとともに、気に入ったものは試すこともあるからです。
今のところ、私の常用しているサプリメントはビタミンB6とB12です。実は、ビタミンB12は末梢神経の機能回復に効くとされていて、交通事故や椎間板ヘルニアを患っている私の常備薬なのです。ビタミンB6は、飲酒量が多い私の大腸がんのリスクを下げることを期待して常飲しています。
それ以外に、機能性表示食品では、ちょうど2年前に本コラム第38回で触れた某乳酸菌飲料を試しています。当時はマツコ・デラックスさんの番組で取り上げられたこともあってか、品薄で手に入りませんでしたが、さすがに2年も経つと生産量も安定したのか、いつでも近所のスーパーで購入できるようになりました。 「ストレス緩和」と「睡眠の質向上」が謳われていますが、私の場合、ストレス緩和はともかく、寝つきが良くなりました。特に、どうしても休肝日の夜は眠りにつくのが難しいのですが、大量の乳酸菌が眠りの船をこいでくれています。実際は自己暗示の可能性もありますし、少しお値段が張りますが、他の医薬品や睡眠外来に相談することを考えれば、格安かつ手軽なものかもしれません。
皆さんも、基本は毎日の食事バランスが大切なことですし、ご自身の判断に委ねられることにはなりますが、過剰な期待はせずに、ご自身の生活をサプリメント(supplement, 補助/補完/補充)してくださいね。 |