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生命科学翻訳


生命科学の各分野で経験豊富な翻訳者が多数在籍しています

ジェスコーポレーションの「生命科学翻訳」は、バイオテクノロジー、医薬、医療機器、農学、保健学、栄養学、森林科学、海洋学等、それぞれの分野に経験豊富な翻訳者が担当いたします。
また言語に関しても、英語のみならず、中国語、韓国語、ベトナム語、インドネシア語等、多様な言語の経験があります。
生命科学に関する翻訳は、ジェスコーポレーションの翻訳スペシャリストにおまかせください。

<生命科学翻訳の取扱分野>
農業資材技術(育種、肥料、農薬)、農業関連技術(土木、機械、情報)、栽培、農業バイテク製品、遺伝子組み換え農産物、人口呼吸器、麻酔器、内視鏡、血圧計、ゲノム創薬、抗体医薬、アンチセンス医薬品、分子標的薬、分子生物学、腫瘍学、臨床試験、生物学、畜産学、植物、作物生産管理システム、生化学、生態学、水、加工食品、漢方薬など



生命科学の翻訳実績


 過去の翻訳実績の一部を下記にご紹介させていただきます。
<日本語⇒英語>
精密農業への取り組みとその実際例
接ぎ木の技法と応用例
タンザニア研修資料
解説書 -生物多様性編-
超高速ゲノム解読装置の開発
生命プログラム再現科学技術推進に関して
イネゲノム解析
ジャポニカアレイ設計
ヒトゲノムDNAアレイ
医療用電子機器および医療用電子機器の制御方法
欧米業界手術器具レーザー刻印の概要
大学院医学研究論文
蛍光顕微鏡システム比較表
体外循環症例データベース
無線伝送式pHメーター
MEDICA報告書
健康関連ディスカッション
コホート説明書/コホート同意書
MRI 説明書/MRI 同意書
インフルエンザの流行に備え
歯科と健康管理
公衆衛生リーフ
塩試験方法
安全衛生監査規程
安全衛生管理資料
吸汗速乾
<中国語⇒日本語>
医薬包装規程一覧
禁止されている食品添加物について
化学肥料と農作物に関する報告書
農業関連技術向上へ向けて
農薬と遺伝子組換え技術について
精密農業の実態調査
土壌環境制御技術
遺伝子組み換え農産物、水産物の安全性に関する論文集
果実栽培における農薬の使用に関する各種規則及び通達等
遺伝子組み換えベクターとしての大腸菌及びレトロウイルスの可能性
農薬の製造方法
遺伝子組み換え作物の安全性に関する各種規定及び通達等
動物用医薬品のGMP
各種農薬等に関する国家標準
人獣共通感染症に関する論文
脱毛予防効果試験規定
<日本語⇒韓国語>
医療器具(歯科・医科製品)カタログ
カプセル内視鏡カタログ
工業用内視鏡・X線カタログ
外国人結核患者の看護と外国語対応
結核への外国語対応に関するアンケート
 日本語⇒ベトナム語>
外国人結核患者の看護と外国語対応
結核への外国語対応に関するアンケート
衛生管理マニュアル
<日本語⇒フランス語>
日本の医療保険制度について
保湿した皮膚の摩擦特性評価
<日本語⇒スペイン語>
バイオの研究開発と予算について
精密農業の作業サイクル
可変農作業機等の開発と農作業機械の自動化
農地利用集積の進行と経営規模の拡大
有機農法、自然農法、減農薬農産物
<日本語⇒ポルトガル語>
形態に合わせた農業技術のパッケージ化の必要性について
農業経営規模の拡大と労働時間の短縮
地下水位の設定と農作物
精密農業によるコスト低減効果
稲作復興研修コース資料
生長管理のためのITの活用
<日本語⇒ドイツ語>
バイオテクノロジーフレームワーク
農薬と遺伝子組み換え食品に対する意識調査
<デンマーク語⇒日本語>
医薬品カタログ
食肉の安全管理について
<ウクライナ語⇒日本語>
 ウクライナの穀物生産調査報告書
<日本語⇒ブルガリア語>
健康診断書
<ハンガリー語⇒日本語>
食肉の衛生管理について
ブタペストにおける食の嗜好調査
<英語⇒日本語>
農業用フィルム資料
種子カウンター操作マニュアル
圃場内のばらつきと収穫との相関関係
ハイブリッドコーン
初乳後に最適な子豚用ミルク
給餌システム
農業施設用ヒーター 取扱説明書
ヨーロッパにおける三圃式農法の歴史と日本への影響
米国農務省牛海綿状脳症(BSE)関連文書
遺伝子組み換え作物の普及率詳細
DNA マーカー育種の工程
バイオマス燃料報告書
医療用ソフトウェアのご紹介
食品の国際規格
新型インフルエンザ
ライフサイエンス産業向けソリューション
ライフサイエンス関連Webサイト
<英文校閲>
〝塩”に関連する研究論文・・・多数
<日本語⇒中国語>
15分でわかるセルフケア
PED商品一覧
結核への外国語対応に関するアンケート
ピロリ菌に対する検査結果
プロポリス 最新研究資料
ヘルペスについて
リュウマチに対する効果例
安全衛生規定
遺伝子診断によるゲ ノム創薬
医科大学付属病院文書
医療機器保守マニュアル
外国人結核患者の看護と外国語対応
看護師経験に関するアンケート
間質性肺炎に対する効果例
歯科用機器カタログ
重要遺伝子の特許化
体外循環症例データベース
中国のベビースキンケア市場
中国向け処方表 & 概要
内視鏡カタログ
日本のバイオテクノロジーにおける課題
入浴剤、育毛剤説明書
農業における無人可変作業ロボットの将来性
発酵技術と品種改良
美容関連機器説明書
末期ガン患者の症例
目のしくみと目の病気について
鑑別マーカー遺伝子セット
<英語⇒中国語>
医学的診断書
環境、健康、安全に関する宣言
<韓国語⇒日本語>
健康診断書
<日本語⇒インドネシア語>
外国人結核患者の看護と外国語対応
結核への外国語対応に関するアンケート
メンタルヘルスに関するアンケート
 <インドネシア語⇒日本語>
 メンタルヘルスに関するアンケート
<フランス語⇒日本語>
フランスにおける就農数の推移と今後の課題
フランス農業と穀物市場
ブルキナファソ農業・農村地域開発プロジェクト
<スペイン語⇒日本語>
農作物品質向上のための日々の取り組み
土木技術の改良による干拓事業の推進
バイオテクノロジーの農業への拡大
スペイン農業の競争力と就農者の所得について
植物工場への取り組みとその課題
<ポルトガル語⇒日本語>
マテ茶の効用
アサイーに関する報告書
有機肥料と化学肥料の実態調査
セラード地帯における穀物生産について
農作物の収量予測システム・装置
<オランダ語⇒英語>
産業医向け「ガンと職場復帰のガイドライン」
<スウェーデン語⇒日本語>
医薬品カタログ
<ノルウェー語⇒日本語>
水産物に関する調査報告書
魚介類の取扱いに関する注意事項
<ロシア語⇒日本語>
キルギスタン農協、食の安全
<クロアチア語⇒日本語>
クロマグロの実態調査報告書
<ギリシャ語⇒日本語>
医薬品説明書
果実と野菜に関する報告書


Column




 本コラムでは、皆様からの生命科学に関するあらゆる質問にお答えします。
 webへ掲載可能なお名前(ニックネーム)にて、ご質問お願いします。

作者名:本螺 新一郎(ほんら・しんいちろう)
作者略歴:
大阪大学大学院医学系研究科博士後期過程修了。医学博士(Ph.D.)。
理化学研究所などで研究員を務め、現在は民間の研究開発職。
専門は医学・生物学(生理学、病理学、栄養学、神経科学、医用工学、幹細胞工学など)。

第69回 認知症について(後編)
<質問>
本羅先生、こんにちは。実は、最近、家内に怒られてしまいまして。

「また頼んでたことを忘れたの?!ちょっといい加減にして!認知症じゃないの?」
「勘弁してくれ。うっかりしてただけじゃないか。」
「うっかりは昔からだけど、ここ最近は特に酷いわ。あ、今日のお昼は何食べたか覚えてる?」
「バカにするなよ。えーっと、社員食堂のAランチ……いや、カレーだったかな?」
「もう(笑)。赤いのを羽織る前から止めてちょうだい。」

確かに、私は昔からボーっとしていたのですが、そこまで物覚えが悪いとも思っていませんでした。
とはいえ、家内にからかわれるほどともなると、さすがに心配になってきまして。
若年性の認知症が増えているとか、良い薬ができたとか、ニュースで耳にしたような気もします。
本羅先生、大丈夫とは思うのですが、認知症について教えてくださいませんか。
(東京都 K.M.)
(2025年2月)
<回答>
前回は、患者数の多い四大認知症を中心に説明しました。そして、ざっくり、認知症とは「認知機能を司る神経回路の機能低下」であり、その原因は「神経回路を構成する神経細胞(neuron, ニューロン)が死ぬこと」と説明しました。しかし、厳密なことを言えば、中枢のニューロンに良くない影響を及ぼす疾病では、認知症の生じる可能性があります。つまり「認知機能の障害」は、あくまで「症状」であり、認知症と同じ、あるいは似た症状を伴う疾病には、様々なものがあるのです。

認知症と類似症状を示す疾患
代表的なものを挙げると、偏食やアルコールの多飲に伴う、一部の「ビタミン欠乏症」は、神経活動に影響することが知られています。特にビタミンB1,B12,葉酸,ビタミンDが有名です。また「甲状腺の機能異常」では、細胞活性を促す甲状腺ホルモンが過剰あるいは不足することで全身性に障害を起こしますから、結果的に神経系にも影響します。また「肝臓の機能低下」では解毒作用がままならなくなり、主に血中アンモニア濃度が上昇することで、中枢神経系に影響する肝性脳症(Hepatic encephalopathy)となります。もっと直接的な疾病としては、脳腫瘍も、そうですね。あるいは、正常圧水頭症(注1)という疾病では、直接的に大脳新皮質が圧迫されますから、認知機能が障害されます。


(注1) 正常圧水頭症(Normal Pressure Hydrocephalus, 略称:NPH)
頭蓋の中で外圧に対し一定の圧力を保つ脳圧が、正常範囲内から亢進しない水頭症(Hydrocephalus)のこと。水頭症とは、正常なら循環する脳脊髄液(略称:髄液)が、何らかの異常で頭蓋腔内に貯ることで、脳室が正常より大きくなる疾病である(図1A)。脳圧亢進の有無にかかわらず、脳室の拡大は、脳を内から外に向けて圧迫することになり、大脳皮質(つまり認知機能)に影響を与える。特発性(=原因不明)のNPHは、好発年齢が60歳以上とされ、発症者の8割に認知症が現れる。髄液シャント手術(cerebrospinal fluid shunt)で余分な髄液を頭蓋から逃がすことで、症状の緩和が期待される(図1B)

図1.水頭症と髄液シャント手術
●A左:正常な脳、A右:水頭症
通常、脳脊髄液は脳で産生され、頭蓋内と脊柱管を満たして循環し、吸収されている。
水頭症では、産生/循環/吸収のいずれかに問題が生じて、脳脊髄液の占める空間が増大している。
●B左:脳室-腹腔シャント(ventriculo-peritoneal(VP) shunt)、B右:腰椎-腹腔シャント(lumbo-atrial(LP) shunt)
髄液シャント手術では、皮下に通した専用のシリコンチューブで、腰椎ないし脳室と腹腔をつないで脳脊髄液をバイパスさせる。
腹腔内に排液された脳脊髄液は、腸間膜で吸収される。
チューブ内には流量を調節する弁が設けられ、逆流しない/脳圧が下がりすぎないよう工夫されている。 
参考) 「脳神経外科の病気:水頭症」
https://www.tokushukai.or.jp/treatment/neurosurgery/suitosyo.php
「正常圧水頭症に対するシャント術」
https://ainomiyako.net/e/e-09/x-7/


また、梅毒(注2)やプリオン病(注3)のように、脳に影響を及ぼす感染症でも、認知症になります。


(注2) 梅毒(Syphilis):
梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)を病原菌とし、粘膜の接触を介する性感染症。自然宿主はヒトのみ。起源は定かでないが、15世紀末頃、世界各地で記録されるようになった。大航海時代にクリストファー・コロンブス(Christopher Columbus)が広めたという説が有力。感染初期は皮膚症状に始まり、一時的に消失するも、潜伏/増殖して数年後に全身を侵す。中枢神経に達した場合、麻痺性認知症を生じ、死に至る。かつては多くの人を苦しめたが、抗生物質が誕生して以降は、早期に適切な治療をすれば全快する。ただし、なぜか獲得免疫が得られない。そのため、繰り返して感染する上に、ワクチンが開発できない。何より、培養法も確立しておらず、病原性のメカニズムなども不明。近年、都市部を中心に感染者が増加しており、注意が呼びかけられている。
 
参考) 「梅毒 去年の感染者数1万4663人 過去2番目の多さ 流行収まらず」
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250111/k10014690401000.html

(注3) プリオン病(prion diseases)
伝達性海綿状脳症(Transmissible spongiform encephalopathy)の別名。異常なタンパク質プリオン(注4)が脳内に侵入し、細胞外で増加/凝集することでニューロン(神経細胞)を変性させ、まるでスポンジのように見えるまで脳を破壊することが原因。感染症ではあるが、非炎症性を特徴とする(つまり、免疫が働きにくい)。治療法を含め、詳細は研究途上で未解明だが、異常なプリオンタンパク質が脳内に侵入することが病因と考えられている。これが正しければ、理論上、患者に触れる/近づくだけで感染することはない。

(注4) プリオン(prion)
1997年にノーベル生理学・医学賞を受賞した、米国の生化学者で医師、スタンリー・ベン・プルシナー(Stanley Ben Prusiner)が、自身の実験結果から「タンパク質性で(proteinaceous)感染力を持つ(infectious)ヴィリオン(virion, 細胞外にある状態のウイルス)みたいな存在」という意味で、1982年に造語した概念(プリオン仮説)。その後の研究で、プリオン病を起こさないプリオンタンパク質、つまり正常(?)なプリオンが、健康なヒトや動物の内臓でも発現していると分かった。中枢神経に豊富であることは確かである。ただし、その生理的な機能は未解明。正常プリオンと異常プリオンの違いは立体構造のみで、構成するアミノ酸に違いはない。異常なプリオンが正常なプリオンを構造変化させると考えられている。


もしかすると、プリオン病は聞きなれないかもしれませんが、プリオン病の一種である「狂牛病」なら、ご記憶の方もおられるのではないでしょうか。後述しますが、一時、大きなニュースにもなりました。


感染症による認知症の可能性
2025年現在、ヒトのプリオン病は、「クロイツフェルト・ヤコブ病」「ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群」「クールー病」「致死性家族性不眠症」の4つが知られています。以下、順を追って解説します。

(1)クロイツフェルト・ヤコブ病(Creutzfeldt-Jakob disease, 略称:CJD)
 病名は1920-21年に症例を報告した2人の神経学者ハンス・ゲルハルト・クロイツフェルト(Hans Gerhard Creutzfeldt)とアルフォンス・マリア・ヤコブ(Alfons Maria Jakob)に由来します。ちなみに日本神経学会では「ヤコブ」の表記をドイツ語の発音に近い「ヤコプ(半濁音)」に変更しました。発症の初期から歩行障害や視力障害、認知症が現れ、症状の進行は早く、1~2年で死に至ります。散発性(突然変異的な症例)と家族性(遺伝性疾患)があり、前者の発生率は100万人に1人、多くは50歳以上、主に高齢者です。ところが、1980年以降、急速に患者が増えました。これを問題視したアメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention, CDC)の調査では、特に日本で多く発生したことが、1997年に報告されました。その数、実に、1975~96年に世界中で報告された症例の60%強にも及びます。この件は、後に、ドイツの企業ビー・ブラウン社(B. BRAUN)による薬害であることが判明しています。実は、ビー・ブラウン社の製品である「硬膜(脳や脊髄を包む膜 / 脳外科手術で移植に用いる)」が異常プリオンに汚染されており、感染源となったようです。この硬膜は遺体から製造されていたのですが、提供された遺体がCJDの患者であったことを確認していなかったことが原因でした。このことから、日本において、CJDは「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)」における「五類感染症」に分類され、「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」の対象疾患でもあります。

(2)ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群(Gerstmann-Straussler-Scheinker syndrome)
 病名は1936年に症例を報告した神経科医ヨーゼフ・ゲルストマン(Josef Gerstmann)、神経病理学者エルンスト・シュトロイスラー(Ernst Sträussler)、神経科学者イリヤ・シャインカー(Ilya Scheinker)の3人に由来します。遺伝性疾患で、症状の進行は緩やか。発症初期は、身体のふらつきや発音の不正確さが目立つようになります。続いて、認知症が顕著になり、数年で無言無動となります。発症後の余命は5~10年です。

(3)クールー病(Kuru)
 パプアニューギニア独立国(Independent State of Papua New Guinea)の少数民族フォレ族(Fore)の風土病でした。「クールー」は、現地語での「震え」を意味します。特徴は、運動障害に始まる認知症で、1950年代のオーストラリア行政官による現地の探検記録で知られるようになりました。フォレ族は、亡くなった近親者を葬儀で食する文化を持つことから、医師で医学研究者のダニエル・カールトン・ガジュセック(Daniel Carleton Gajdusek)が、亡くなったクールー病患者の検体標本(脳組織)をチンパンジーに投与して感染させる実験に成功し、同様の脳症が感染性である可能性を示しました。彼は、この成果で1976年度にノーベル生理学・医学賞を受賞しています。ちなみに、現在のフォレ族は、政府からの医療的なケアもあり、食人の文化を無くしています。その結果、クールー病は根絶されました。

(4)致死性家族性不眠症(fatal familial insomnia)
 遺伝性の疾病で、1986年にイタリアの神経科医エリオ・ルガレージ(Elio Lugaresi)から報告されました。通常、睡眠時における外部からの感覚刺激は、特定の脳部位で遮断されます。ところが、本疾病では、その脳部位が特異的に破壊されるため、眠ることができなくなるようです。症状の進行も早く、発症から1年ほどで意識不明となり、衰弱死します。

 この4つの他にも、動物でのプリオン病には、ヒツジやヤギのスクレイピー(scrapie / 前述のプルシナー博士が実験に用いたことでも有名)、ミンクの伝達性ミンク脳症(transmissible mink encephalopathy)シカの慢性消耗性疾患(chronic wasting disease)ネコ海綿状脳症(feline spongiform encephalopathy)ウシ海綿状脳症(bovine spongiform encephalopathy, 略称:BSE)などが知られています。このBSEの俗称が、世界的なニュースになった「狂牛病」です。少し、詳細に触れてみます。


 狂牛病は、プリオン病の中でも特殊でした。それが分かったのは1993年、イギリスでのこと。BSEに感染した牛の肉を、そうとは知らずに食べた15歳の少女が、プリオン病に罹患し、発症したのです。少女に感染した事実から、大きな問題が2つ、明らかになりました。

1)薬害を除けば、主に高齢者での自然発症とみなされていたプリオン病は、若年者にも感染・発症する疾病だった。
2)動物種を超えて感染したことから、プリオン病(の一部)は人獣共通感染症である。

古来、ヒツジやヤギの脳を食する文化もある中で、前述のスクレイピーは18世紀から知られている疾病です。にもかかわらず、ヒトがスクレイピーに感染することはありませんでした。ですから、プリオン病の感染は、基本的には同種間で起きると考えられていました。あるいはクールー病のように、実験的には、ヒトから同じ霊長類のチンパンジーへと感染させることができましたから、比較的、近い種の間での感染は想定されていました。しかしながら、イギリスの一件以降、少なくともBSEが人獣共通感染症であったことが分かり、様々な動物のプリオン病でもヒトに感染する可能性を考慮する必要が出てきました。これに、世界中が衝撃を受けたというわけです。ちなみに、BSEの牛からヒトに感染した症例は、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(variant Creutzfeldt-Jakob disease)と分類されています。

狂牛病の話を聞いて、もしかすると、牛肉を食べるのが怖くなった読者もおられるかもしれませんが、個人的には、お財布へのダメージ以外、私は特に怖くありません。と言うのも、BSEの牛肉を食べれば必ず変異型クロイツフェルト・ヤコブ病を発症するわけではないからです。感染の危険性が高い部位、つまり、プリオンを多く含む組織である「特定危険部位」を避ければ、まずは安心です。

ちなみに日本国内では、特定危険部位として「脊髄や脊柱」と「眼/脳/扁桃など(舌と頬、皮を除く頭部)」、さらに「小腸の一部(盲腸との接続部から2メートル)」が指定されています。実はイギリスでの騒動の後、2001年9月の千葉県を皮切りに、日本でもBSEが発生しており、後に牛肉の食品偽装や輸出入の問題に禍根を残しました(飼料に特定危険部位が混入していたようです)。しかし、2013年に国際獣疫事務局(World Organization for Animal Health, WOAH)から、日本が「BSEのリスクを無視できる清浄国」に認定されて以降は、落ち着きを取り戻しています。

さて、四大認知症に加えて、認知機能の障害を発症する疾病を説明してきました。まだまだ研究途上であるプリオン病など難病が多いのですが、一方で、ビタミン類の欠乏症や水頭症など、治療法の確立している疾病については、治療が功を奏せば、それに伴う認知症も改善する傾向があります。つまり、まずは、症状としての認知症が、どんな疾病/原因に由来するのかを見極めることが大切です。不足したビタミンの摂取で改善される認知症に、アルツハイマー病の薬は必要ありませんし、むしろ副作用の害が健康問題になります。そういう意味でも、認知症は、しっかりと専門医に相談するべき疾病であると、お判りいただけるでしょう。

若年性認知症の特徴と発症要因
続いて、話題を若年性の認知症に移しましょう。認知症における「若年性」とは「64歳以前での発症」を意味します。つまり、65歳で認知症を発症したなら「老年性」、60歳なら「若年性」です。世間の常識として、還暦の60歳を「若年性」と呼ぶのはどうか?と思わなくもありませんが、「通常の(老年性)認知症よりも相対的に若いから」という定義の問題ですので、ご理解くださいませ。

では、若年性認知症は、やや早めの老化現象なのかと言うと、それも少し違います。実際、若年性認知症の原因を分類すると、前回示した図と大きく変わりはしませんが、それぞれの割合が異なりますし、特に「外傷に由来する認知症」が別項目であることからも、単なる老化とは扱いが異なります(図2)

図2.若年性認知症の原因
参考) 「若年性認知症の原因となる病気は?」
https://y-ninchisyotel.net/about/about/

このことは、次の図3からも分かります。老年性認知症の有病率は女性の方が高く、若年性では逆に男性の方が高いのです。おそらく、女性は長生きであり、男性に事故の外傷が多いことの反映かもしれません。前回のコラムで触れた厚労省研究班の作成資料で、2025年における65歳以上の12.9%が認知症であると説明しましたが、より詳しく年齢階級でデータを見ると、老年性認知症は、全体的には、およそ80歳を境に急激に有病率が高まり、90歳を超えると約半数の方が罹患する計算になります。これは日本だけではなく、世界的にも同じ傾向です。つまり、大きく言えば、人種や世代を問わない「ヒトの性質」、つまり老化に伴う脳の状態変化なのでしょう。しかし、若年性認知症の有病率は、老年性認知症より3桁小さいことに注意が必要です。例えば、図3Aの年齢階級「60-64」で「全体」は「274.9人」ですから、老年性と単位を揃えると、0.2749%となります。

図3.認知症の性および年齢階級別有病率
●A:若年性(65歳未満)は、2018年の調査データであり、
有病率は人口10万人当たりの患者数を意味する。
●B:老年性(65歳以上)は、2022年の調査データであり、
有病率は百分率(100人当たりの患者数)で表される。 
参考) 「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」
https://www.mhlw.go.jp/content/001279920.pdf
「若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システム」
https://www.tmghig.jp/research/cms_upload/20170401_20200331.pdf

とは言え、若年性認知症と老年性認知症の間で、それぞれに共通する原因については、病理学的(pathological)に大きな違いはないと考えられています。ただし、一般的には、高齢者が記憶障害をきっかけに気づくことが多いのに対し、就労世代では遂行機能の減退、ざっくり「問題解決能力」の低下によって仕事や学習の作業効率が落ちる、あるいは抑うつや、意欲の低下が先行する例が少なくありません。もしかすると、こうした老年性と若年性での発症における「気づき」の違いに、アルツハイマー型やレビー小体型、前頭側頭型の各認知症における未解明の謎が絡んでいるやもしれません。


ただし、作業効率の減弱/抑うつ/意欲の低下は、様々なストレスによる心因性の症状や鬱病でも生じます。中には、認知症の専門医でも鑑別が困難な事例もあるようです。これは、若年性認知症の発見が遅れる理由の一つともなっています。

若年性認知症で症状が進み、最も問題となるのは、やはり、患者さんが「社会活動の中心を担う現役世代」であるということでしょう。ご本人の就労を含む経済的な問題は、その最たるものかもしれません。介護者を含めた家族(配偶者/高齢の親族/子供)への影響も大きいでしょう。いずれにせよ、患者さんとご家族への社会的なサポートをスムーズに進めるためにも、あるいは治療法の確立している認知症だった場合の治療タイミングを逃さないためにも、早期発見が望ましいです。とは言え、なかなか難しいのですが。

軽度認知障害(MCI)と認知症の進行
そうした中、近年は、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)という概念も使われるようになりました。MCIとは、通常の老化よりも記憶機能などの障害は進んでいるものの、認知症とまでは診断されない状態のことです。自覚される範囲、あるいは周囲からの指摘で、いわゆる「物忘れが酷くなった」という訴えはありつつ、全般的な認知機能は正常範囲で、自立した日常生活を営める人たちです。この人たちは、認知症そのものではなくとも、健常とは言い難い状態で、その状態を「認知症の前段階」と考えるわけです。実際、MCIと診断された患者さんを追跡調査すると、1年で5~15%が認知症に至ることが分かっています。一方で、16~41%は健常に戻ることも知られています(図4A)。そして、厚労省研究班の作成資料によれば、2022年におけるMCIの高齢者、つまり認知症予備軍は559万人(有病率15.5%)もいるのです(図4B)

図4.軽度認知障害と認知症 
A:認知症と健常者の連続性イメージ図
B:2022年度の有病率調査結果 
参考) 「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」
https://www.mhlw.go.jp/content/001279920.pdf

つまり、ある程度までは、認知症も可逆的なのでしょうか。早期発見によって治療や回復ができるのであれば、希望が持てます。ただ、治療に関しては、そう上手くもいかなさそうです。

認知症治療薬の限界
と言うのも、K.M.さんがご覧になった「良い薬ができた」というニュースですが、実際のところ、製薬メーカーと患者さんには申し訳ないのですが、あまり期待しすぎない方が良い結果ばかりなのです。ちなみに、2025年3月現在、アルツハイマー型認知症の患者さんに投与可能な薬剤は、次の3種類です。

1)   コリンエステラーゼ阻害薬:製品名「アリセプト」「レミニール」「アリドネ」「イクセロン/リバスタッチ」
アセチルコリンを分解する酵素のコリンエステラーゼを不活性化する薬品です。認知症における記憶障害では、アセチルコリンを神経伝達物質とする神経系の活性が低いことが分かっています。この薬品はアセチルコリンの分解速度を下げるため、結果としてアセチルコリンの濃度を上げて神経系の活性を高め、認知症における記憶障害にブレーキをかけると考えられます。ただし、あくまでブレーキに過ぎず、病態の進行を止めることはできません。まして改善には至りません。 
2)   MNDA受容体拮抗薬:製品名「メマリー」
興奮性神経伝達物質のグルタミン酸が結合する受容体の一種、MNDA受容体に親和性の高い(結合しやすい)薬物です。ただし神経の興奮を伝達しません。グルタミン酸と競合するため、受容体に結合するグルタミン酸を減らし、結果としてニューロンの過剰な興奮を抑制します。認知症の病状を緩和させることを目的とした薬品で、認知症の病態を改善する薬ではありません。 
3)   抗アミロイド抗体医薬:「レケンビ」
抗体医薬とは、体内の病因を患者さんの免疫系に認識させて、獲得免疫で取り除こうというアイデアの薬品です(獲得免疫は本コラム第29回を参照)。読者の皆さんは、前回、アルツハイマー型認知症の原因ないし治療対象かは未解明ながら、最有力候補の物質として説明したアミロイドβを覚えていますか? このアミロイドβを抗原とする(つまりアミロイドβに結合する)抗体が、抗アミロイド抗体です。もし、ニューロンの周りで凝集するアミロイドβを免疫系が上手く取り除けば、アルツハイマー型認知症の病態の進行を止められるかもしれない。そう期待されて、2023年9月25日に薬事承認された薬品が、これです。おそらく、K.M.さんがご覧になった「良い薬」のニュースは、これでしょう。しかし、前回からお伝えしているように、残念ながら、病状の進行を少し遅らせることはできても、進行の停止はおろか、まして改善には至らないのが現状です。

そもそもの話、認知症の治療における最大の難関は、まだ私たち人類が「壊れた神経回路を再生する方法を知らない」ということです。皮膚や肝臓の細胞ならともかく、死んだ神経細胞(ニューロン)は、再生しません。一部に、神経幹細胞(新しくニューロンになる幹細胞)も存在しますが、認知症のように急速かつ大量に消滅するニューロン、それらとともに失われる膨大かつ緻密なネットワークを回復させるために必要な英知は、まだ人類の手元にはありません。それは、前回にも触れた「意識の謎が解けていないこと」と同じ意味を持ちます。悲しいかな、それが現実です。

私たちは、認知症に打つ手を持たないのでしょうか。しかし、本コラム62回と63回「がんと老化について」で触れたように、医学が敗北の歴史だとしても、先人たちの学びを糧に、病に苦しむ人々を少しでも癒すべく、科学的な根拠(scientific evidence)を武器として、一歩また一歩と病に立ち向かうのが臨床医学と基礎医学です。そんな現代医学が提示できる、現時点での認知症に対する有効な対処法の1つとして、「発症リスクに関わる要因を探す」ことが挙げられます。逆に言うと、それらのリスクを避けることが、現状、認知症の予防に最善と考えられるからです。

認知症のリスク14項目
実は、世界的な医学系の研究誌「ランセット(The Lancet)」の常任委員会が、昨年(2024年7月)、認知症に関する世界中の研究をメタ解析(meta-analysis)し、2017年と2020年に続いて3度目の報告書を発表しました。


参考) “Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission”
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(24)01296-0/fulltext


ランセットの常任委員会は、認知症を「その人の生活歴(Life Cours)が反映された結果」という視点で捉えています。実際、様々な研究が世界中で行われており、それらを総合して、最新の科学的な根拠(scientific evidence)、つまりEBM(evidence-based medicine:根拠に基づく医療)として、エビデンスレベルの高い提言にまとめた訳です。それによると、認知症のリスクとしては、次の14項目が挙げられるそうです。順を追って説明しましょう。ちなみに、項目の後ろの数字(%)は、解消することで発症リスクを減らせる割合を表します。


 1) 教育不足(5%)
 まずは生活歴の最初期に関わる項目です。子供の頃から教育を受けていない人は、将来的な認知症の発症リスクが高くなります。学習過程の年数よりも学歴の高さが大切なようです。誤解の無いようにしていただきたいのは、ここで言う学歴は「履歴書に記載する卒業校」ではなく、より複雑な内容の学習に触れること、つまり脳に与える刺激の難易度が重要なのです。この意味での高学歴者は、高齢になっても新たな学習に励まれる方が多い傾向にあります。一方で、成人以降、継続的な刺激の新規性が欠けている、つまり慣れたことしかしない場合は、発症リスクが高まります。そして、好奇心をもって様々な事柄に興味を持つことは、幾つになってからでも、リスクを下げると考えられます。そうした、継続的な学習は「認知機能の予備力」を脳に蓄えるのでしょう。老化で削り取られる認知機能を補完する、というイメージでしょうか。

 2) 難聴(7%)
 成人してから、耳が聞こえなくなり、それを放置することは、将来的な認知症の発症リスクを高めます。補聴器の使用でリスクが改善されることからも、聴覚刺激で認知機能の活性化されることが裏付けられています。

 3) 高値のLDLコレステロール(low density lipoprotein cholesterol,俗称:悪玉コレステロール)(7%)
 4) 糖尿病(2%)
 5) 高血圧(2%)
 6) 運動不足(2%)
 7) 肥満(1%)
 いわゆる生活習慣病などに関わる項目です。ざっくり言うと、これらは「血管に炎症を起こし、脳梗塞を起こす(つまり血管性認知症の)リスクを高める」とまとめられます。ただし、きちんと対応することで(投薬/食事療法/適度な運動)、認知症の発症リスクは回避できます。

  8) 頭部外傷(3%)
報告によれば、事故に限らず、サッカーやラグビーなど頭部に衝撃を受ける可能性の高いスポーツなどもリスクを高めているようです。

 9) 鬱病(3%)
 成人の鬱病が認知症のリスクを高めるのは、エビデンスが確実なのですが、そのメカニズムに関しては未解明のようです。ただ、認知症の患者さんが鬱病になることもありますし、抑うつは、認知症の周辺症状や若年性認知症の「気づき」にも見られるので、密接な関係にはあるはずです。そして、適切な治療(投薬/心理療法)で、認知症の発症リスクは回避できます。

 10) 喫煙(2%)
 11) 過度の飲酒(1%)
 この2項目も、ざっくり「血管に炎症を起こし、脳梗塞を起こすリスクを高める」とまとめられます(実際は、もっと複雑かつ多岐にわたりますが、本コラムでは省略します)。

 ここからの3項目は、特に高齢者に対する発症リスクを高める項目です。
 12) 社会的孤立(5%)
この項目については、直観的にも分かりやすいのではないでしょうか。孤独感に苛まれることはストレスを深めるでしょうし、健康的ではないですよね。もちろん、中には孤独が好きな人もいるでしょうが、「他人と関わらない」ことは「積極的に社会参加する」ことよりも、脳への刺激、つまり認知機能に影響するだろうことは想像に難くないでしょう。

 13) 大気汚染(3%)
中高年(45歳)以降、屋内外で、継続的に粒子状物質(注5)に晒されることは、呼吸器に与えるストレスが、生理的に多方面から、認知症の発症リスクを高めるようです。
(注5) 粒子状物質(particulate matter, particulates)
直径がマイクロメートル (μm, ミリメートルの1/1000) の固体や液体の微粒子。例えば、黄砂など、風で舞い上がった土壌粒子や、工場/建設現場の粉塵、煤や排出/排気ガス、石油の揮発成分など。

 14) 視力喪失(2%)
例えば、高齢者で白内障になった人の内、手術を受けない人は、受けた人より認知症の発症リスクが高まります。一方で、白内障の手術を受けた人と、そもそも白内障になっていない人の間では、認知症の発症リスクに差はありませんでした。つまり、正常な視覚刺激が、認知機能を活性化することが裏付けられています。


ここまでの14項目で、合計45%のリスクと計算されます。言い換えると、これらの項目に適切な対処をすれば、しないよりも45%認知症になりにくくなります。100%には程遠いですが、これが認知症の予防法としては、最新のエビデンスです。ざっくりとまとめると、「血管を含め、体内の生理的環境を健康に保つ」「感覚刺激の鈍麻を解消し、常に新鮮な気持ちで学習する」「社会との関わりを狭めず、できるだけ広げようとする」こと、何より「無理はしない(ストレスに感じない)」ことが大切と思います。医療でも機械でも行政でも友人でも、何でも頼りにすれば良いと思います。

今後、世界中の先進国で、認知症は社会問題になるでしょう。しかしながら、認知症患者数の増加は、人類の繁栄と現代医学の成果とも言えます。これまでは、老化の影響も含めて、先に身体のどこかが悪くなり、社会的に問題となるほど、認知症の患者さんが目立ちませんでした。そして、科学の発達とともに、様々な病気や怪我を克服し続けた結果、とうとう、まだ人類の手が届かぬ「脳機能」の障害が顕在化したのです。これは、がんと同じく、他の病気で死ぬことが少なくなったことの裏返しです。

認知症の有病率が改善?
一方で、興味深い、明るい事実もあります。それは、図4Bの参考資料に記載されているのですが、実は2012年の調査と比べると、2022年では認知症の有病率が改善しているのです。ただし、軽度認知障害は改善していないことに注目です。これは、つまり、軽度認知障害から認知症に病態の進行する患者が減ったことを意味しています(少なくとも、その可能性が高い)。これは日本だけではなく、先ほど触れたランセットの常任委員会も、調査のたびに同様の改善傾向があると報告しています。これは、社会全体の健康意識が増加して、結果的に予防効果が高まったのかもしれません。しかし、予断は禁物です。同じ報告では、新型コロナ禍によって、認知症が増えた/増える可能性も指摘されています。人類社会が、とんだトラブルに巻き込まれる可能性も、頭の片隅に置いておくべきなのでしょう。

さて、年齢的には五十路を超えた私も、そろそろ認知症の心配を始めた方が良いのかもしれません……が、今のところは、何とか「気のせい」の延長程度。笑い話で済んでいます。皆様も、ご自愛くださいね。