1) 教育不足(5%)
まずは生活歴の最初期に関わる項目です。子供の頃から教育を受けていない人は、将来的な認知症の発症リスクが高くなります。学習過程の年数よりも学歴の高さが大切なようです。誤解の無いようにしていただきたいのは、ここで言う学歴は「履歴書に記載する卒業校」ではなく、より複雑な内容の学習に触れること、つまり脳に与える刺激の難易度が重要なのです。この意味での高学歴者は、高齢になっても新たな学習に励まれる方が多い傾向にあります。一方で、成人以降、継続的な刺激の新規性が欠けている、つまり慣れたことしかしない場合は、発症リスクが高まります。そして、好奇心をもって様々な事柄に興味を持つことは、幾つになってからでも、リスクを下げると考えられます。そうした、継続的な学習は「認知機能の予備力」を脳に蓄えるのでしょう。老化で削り取られる認知機能を補完する、というイメージでしょうか。
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2) 難聴(7%)
成人してから、耳が聞こえなくなり、それを放置することは、将来的な認知症の発症リスクを高めます。補聴器の使用でリスクが改善されることからも、聴覚刺激で認知機能の活性化されることが裏付けられています。
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3) 高値のLDLコレステロール(low density lipoprotein cholesterol,俗称:悪玉コレステロール)(7%) |
4) 糖尿病(2%) |
5) 高血圧(2%) |
6) 運動不足(2%) |
7) 肥満(1%) |
いわゆる生活習慣病などに関わる項目です。ざっくり言うと、これらは「血管に炎症を起こし、脳梗塞を起こす(つまり血管性認知症の)リスクを高める」とまとめられます。ただし、きちんと対応することで(投薬/食事療法/適度な運動)、認知症の発症リスクは回避できます。
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8) 頭部外傷(3%)
報告によれば、事故に限らず、サッカーやラグビーなど頭部に衝撃を受ける可能性の高いスポーツなどもリスクを高めているようです。
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9) 鬱病(3%)
成人の鬱病が認知症のリスクを高めるのは、エビデンスが確実なのですが、そのメカニズムに関しては未解明のようです。ただ、認知症の患者さんが鬱病になることもありますし、抑うつは、認知症の周辺症状や若年性認知症の「気づき」にも見られるので、密接な関係にはあるはずです。そして、適切な治療(投薬/心理療法)で、認知症の発症リスクは回避できます。
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10) 喫煙(2%) |
11) 過度の飲酒(1%) |
この2項目も、ざっくり「血管に炎症を起こし、脳梗塞を起こすリスクを高める」とまとめられます(実際は、もっと複雑かつ多岐にわたりますが、本コラムでは省略します)。
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ここからの3項目は、特に高齢者に対する発症リスクを高める項目です。 |
12) 社会的孤立(5%)
この項目については、直観的にも分かりやすいのではないでしょうか。孤独感に苛まれることはストレスを深めるでしょうし、健康的ではないですよね。もちろん、中には孤独が好きな人もいるでしょうが、「他人と関わらない」ことは「積極的に社会参加する」ことよりも、脳への刺激、つまり認知機能に影響するだろうことは想像に難くないでしょう。
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13) 大気汚染(3%)
中高年(45歳)以降、屋内外で、継続的に粒子状物質(注5)に晒されることは、呼吸器に与えるストレスが、生理的に多方面から、認知症の発症リスクを高めるようです。
(注5) |
粒子状物質(particulate matter, particulates):
直径がマイクロメートル (μm, ミリメートルの1/1000) の固体や液体の微粒子。例えば、黄砂など、風で舞い上がった土壌粒子や、工場/建設現場の粉塵、煤や排出/排気ガス、石油の揮発成分など。 |
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14) 視力喪失(2%)
例えば、高齢者で白内障になった人の内、手術を受けない人は、受けた人より認知症の発症リスクが高まります。一方で、白内障の手術を受けた人と、そもそも白内障になっていない人の間では、認知症の発症リスクに差はありませんでした。つまり、正常な視覚刺激が、認知機能を活性化することが裏付けられています。
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