翻訳会社 ジェスコーポレーション

技術翻訳 特許翻訳 法務・法律翻訳 生命科学翻訳 マンガ翻訳 多言語翻訳   
翻訳会社JES HOME > 生命科学翻訳

生命科学翻訳


生命科学の各分野で経験豊富な翻訳者が多数在籍しています

ジェスコーポレーションの「生命科学翻訳」は、バイオテクノロジー、医薬、医療機器、農学、保健学、栄養学、森林科学、海洋学等、それぞれの分野に経験豊富な翻訳者が担当いたします。
また言語に関しても、英語のみならず、中国語、韓国語、ベトナム語、インドネシア語等、多様な言語の経験があります。
生命科学に関する翻訳は、ジェスコーポレーションの翻訳スペシャリストにおまかせください。

<生命科学翻訳の取扱分野>
農業資材技術(育種、肥料、農薬)、農業関連技術(土木、機械、情報)、栽培、農業バイテク製品、遺伝子組み換え農産物、人口呼吸器、麻酔器、内視鏡、血圧計、ゲノム創薬、抗体医薬、アンチセンス医薬品、分子標的薬、分子生物学、腫瘍学、臨床試験、生物学、畜産学、植物、作物生産管理システム、生化学、生態学、水、加工食品、漢方薬など



生命科学の翻訳実績


 過去の翻訳実績の一部を下記にご紹介させていただきます。
<日本語⇒英語>
精密農業への取り組みとその実際例
接ぎ木の技法と応用例
タンザニア研修資料
解説書 -生物多様性編-
超高速ゲノム解読装置の開発
生命プログラム再現科学技術推進に関して
イネゲノム解析
ジャポニカアレイ設計
ヒトゲノムDNAアレイ
医療用電子機器および医療用電子機器の制御方法
欧米業界手術器具レーザー刻印の概要
大学院医学研究論文
蛍光顕微鏡システム比較表
体外循環症例データベース
無線伝送式pHメーター
MEDICA報告書
健康関連ディスカッション
コホート説明書/コホート同意書
MRI 説明書/MRI 同意書
インフルエンザの流行に備え
歯科と健康管理
公衆衛生リーフ
塩試験方法
安全衛生監査規程
安全衛生管理資料
吸汗速乾
<中国語⇒日本語>
医薬包装規程一覧
禁止されている食品添加物について
化学肥料と農作物に関する報告書
農業関連技術向上へ向けて
農薬と遺伝子組換え技術について
精密農業の実態調査
土壌環境制御技術
遺伝子組み換え農産物、水産物の安全性に関する論文集
果実栽培における農薬の使用に関する各種規則及び通達等
遺伝子組み換えベクターとしての大腸菌及びレトロウイルスの可能性
農薬の製造方法
遺伝子組み換え作物の安全性に関する各種規定及び通達等
動物用医薬品のGMP
各種農薬等に関する国家標準
人獣共通感染症に関する論文
脱毛予防効果試験規定
<日本語⇒韓国語>
医療器具(歯科・医科製品)カタログ
カプセル内視鏡カタログ
工業用内視鏡・X線カタログ
外国人結核患者の看護と外国語対応
結核への外国語対応に関するアンケート
 日本語⇒ベトナム語>
外国人結核患者の看護と外国語対応
結核への外国語対応に関するアンケート
衛生管理マニュアル
<日本語⇒フランス語>
日本の医療保険制度について
保湿した皮膚の摩擦特性評価
<日本語⇒スペイン語>
バイオの研究開発と予算について
精密農業の作業サイクル
可変農作業機等の開発と農作業機械の自動化
農地利用集積の進行と経営規模の拡大
有機農法、自然農法、減農薬農産物
<日本語⇒ポルトガル語>
形態に合わせた農業技術のパッケージ化の必要性について
農業経営規模の拡大と労働時間の短縮
地下水位の設定と農作物
精密農業によるコスト低減効果
稲作復興研修コース資料
生長管理のためのITの活用
<日本語⇒ドイツ語>
バイオテクノロジーフレームワーク
農薬と遺伝子組み換え食品に対する意識調査
<デンマーク語⇒日本語>
医薬品カタログ
食肉の安全管理について
<ウクライナ語⇒日本語>
 ウクライナの穀物生産調査報告書
<日本語⇒ブルガリア語>
健康診断書
<ハンガリー語⇒日本語>
食肉の衛生管理について
ブタペストにおける食の嗜好調査
<英語⇒日本語>
農業用フィルム資料
種子カウンター操作マニュアル
圃場内のばらつきと収穫との相関関係
ハイブリッドコーン
初乳後に最適な子豚用ミルク
給餌システム
農業施設用ヒーター 取扱説明書
ヨーロッパにおける三圃式農法の歴史と日本への影響
米国農務省牛海綿状脳症(BSE)関連文書
遺伝子組み換え作物の普及率詳細
DNA マーカー育種の工程
バイオマス燃料報告書
医療用ソフトウェアのご紹介
食品の国際規格
新型インフルエンザ
ライフサイエンス産業向けソリューション
ライフサイエンス関連Webサイト
<英文校閲>
〝塩”に関連する研究論文・・・多数
<日本語⇒中国語>
15分でわかるセルフケア
PED商品一覧
結核への外国語対応に関するアンケート
ピロリ菌に対する検査結果
プロポリス 最新研究資料
ヘルペスについて
リュウマチに対する効果例
安全衛生規定
遺伝子診断によるゲ ノム創薬
医科大学付属病院文書
医療機器保守マニュアル
外国人結核患者の看護と外国語対応
看護師経験に関するアンケート
間質性肺炎に対する効果例
歯科用機器カタログ
重要遺伝子の特許化
体外循環症例データベース
中国のベビースキンケア市場
中国向け処方表 & 概要
内視鏡カタログ
日本のバイオテクノロジーにおける課題
入浴剤、育毛剤説明書
農業における無人可変作業ロボットの将来性
発酵技術と品種改良
美容関連機器説明書
末期ガン患者の症例
目のしくみと目の病気について
鑑別マーカー遺伝子セット
<英語⇒中国語>
医学的診断書
環境、健康、安全に関する宣言
<韓国語⇒日本語>
健康診断書
<日本語⇒インドネシア語>
外国人結核患者の看護と外国語対応
結核への外国語対応に関するアンケート
メンタルヘルスに関するアンケート
 <インドネシア語⇒日本語>
 メンタルヘルスに関するアンケート
<フランス語⇒日本語>
フランスにおける就農数の推移と今後の課題
フランス農業と穀物市場
ブルキナファソ農業・農村地域開発プロジェクト
<スペイン語⇒日本語>
農作物品質向上のための日々の取り組み
土木技術の改良による干拓事業の推進
バイオテクノロジーの農業への拡大
スペイン農業の競争力と就農者の所得について
植物工場への取り組みとその課題
<ポルトガル語⇒日本語>
マテ茶の効用
アサイーに関する報告書
有機肥料と化学肥料の実態調査
セラード地帯における穀物生産について
農作物の収量予測システム・装置
<オランダ語⇒英語>
産業医向け「ガンと職場復帰のガイドライン」
<スウェーデン語⇒日本語>
医薬品カタログ
<ノルウェー語⇒日本語>
水産物に関する調査報告書
魚介類の取扱いに関する注意事項
<ロシア語⇒日本語>
キルギスタン農協、食の安全
<クロアチア語⇒日本語>
クロマグロの実態調査報告書
<ギリシャ語⇒日本語>
医薬品説明書
果実と野菜に関する報告書


Column




 本コラムでは、皆様からの生命科学に関するあらゆる質問にお答えします。
 webへ掲載可能なお名前(ニックネーム)にて、ご質問お願いします。

作者名:本螺 新一郎(ほんら・しんいちろう)
作者略歴:
大阪大学大学院医学系研究科博士後期過程修了。医学博士(Ph.D.)。
理化学研究所などで研究員を務め、現在は民間の研究開発職。
専門は医学・生物学(生理学、病理学、栄養学、神経科学、医用工学、幹細胞工学など)。

第65回 ワクチンの話
<質問>
先日の「がんと老化」のコラム(第62回、第63回)で、子宮頸がんがワクチンで予防できることにビックリしました。ワクチンって、インフルエンザや新型コロナみたいな風邪っぽい病気を予防するだけじゃないのですね。

というのも、私の親友が子宮頸がんに罹ったのですが、幸い、治療から5年が過ぎて「再発や転移も見つからないから、まずは安心だね」とお医者さんに言ってもらえたそうです。ただ、彼女は子宮を摘出したので、妊娠できないことが、心の重荷になっているようです。

私も不安になって、一度だけ乳がんと子宮頸がんの検診を受けましたが、何も見つかりませんでした。定期的に検診する方が良いのでしょうけど、お金と時間を無駄にしている気もして、つい足が遠のいています。

そんなタイミングで、コラムのHPVワクチンの話を知ったのですが、私はキャッチアップ接種の対象年齢から外れているのです。自費で任意接種となると、何万円もかかるのは……ちょっと躊躇してしまいます。

母親や叔母に、この話をしたら、ワクチンなんて怖いし、必要ないよと言われました。でも、HPVワクチンで、世界中の子宮頸がん患者は減っているんですよね。日本の女性だけ、なぜ……という思いです。

本羅先生、なぜ、こういう”打つべきだけど打たれていないワクチン”が、あるのでしょうか? そもそも国や偉いお医者さんたちが、もっと、しっかりワクチンのことを私たちに教えてくれたらいいのに、と思うのですけど。(東京都 K.M.)
(2024年10月)
<回答>
HPVワクチンとキャッチアップ接種の現状
K.M.さん、ご質問、ありがとうございます。お友達の治療が功を奏したようで、何よりでしたね。とはいえ、メンタル面は、ご家族やK.M.さんが、暖かく無理のない範囲でサポートしてあげてください。そして、ご自身も、がん検診を一度は受けられたとのこと。結果、何も無くて良かったです。無駄というより「安心を買った」と思ってください。そして「継続は力」。機会があれば再診もご検討ください。

一点、情報を追加いたしますね。本コラム第63回では、HPVワクチンについて「3回の接種が必要で、終えるまでに6ヶ月かかる」と説明したのですが、「ガーダシル」と「シルガード9」というワクチンについては、最短4か月で接種を完了できるそうです。今回のキャッチアップの期限は2025年3月末までですから、ギリギリで11月から始めれば無料の期間に間に合います。周囲に打ちそびれている対象者(注1)がおられたら、教えてあげてくださいね。

(注1) 平成9年(1997年)4月2日から平成19年(2008年)4月1日が誕生日の女性(16~27歳)が該当。元々の定期接種対象者は、小学校6年から高校1年相当の女性。

参考) 参考)「HPVワクチンのキャッチアップ接種 “初回接種を11月末までに”」https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241012/k10014607781000.html

ヒトパピローマウイルスと社会への影響
ただ、K.M.さんを含め、対象者以外の任意接種は、なかなかの出費ですよね(ガーダシルで5~6万円、シルガード9で約10万円)。実は、男性も含めて、より広範に接種を進めると、確実に社会からヒトパピローマウイルスを排除・撲滅できます。そもそもヒトパピローマウイルスは、男性に対しても発がん性がありますし(中咽頭がん、肛門がんなど)、多くの男女が接種すれば、感染の連鎖が止まり、悲劇は終幕へと加速するはずです。

一部地域では男性の接種に公的な補助があるようなので、関心ある方は、お住まいの地方自治体で調べてみてください。私も費用の心配が軽減されたら接種に踏み切りたいのですが、残念ながら私の住む神奈川県に補助はないようです。「未病の改善(注2)」に積極的な神奈川県こそ、全国に先駆けて大々的に取り組んでほしいものですが。

(注2) 未病:
「健康」と「病気」を連続的に変化する状態の二極と考え、「病気」に至る過程や途中経過の状態を表す(図1)。病気とまでは言えないが、心身の調子が思わしくないことを意味する。高齢化社会における健康寿命の観点から、QOL(Quality of Life / 生活の質)を高く維持するために提唱されたが、老若男女を問わず、日々の暮らしの健やかさや病気の予防に役立つだろう。神奈川県は2017年に「かながわ未病改善宣言」を発表し、同年、国の「健康・医療戦略」にも、未病の定義が位置づけられた。公的機関による「未病の改善」では「食/運動/社会参加」の3点が重視されるが、筆者は「公衆衛生」の視点を加味すると、より効果的と考える。
   
図1.未病のイメージ
参考)  https://www.pref.kanagawa.jp/docs/cz6/me-byokaizen/healthylifeexpectancy.html


さて、日本はHPVワクチンについて世界的に顕著かつ不名誉な例となりましたが、ワクチンを毛嫌いされる方は、世界中におられるようです。歴史を振り返ると、ことの最初から、ワクチン開発は、非科学的な迷信や偏見と闘ってきたとも言えます。

ワクチンの歴史と天然痘撲滅の快挙
ワクチンの歴史に触れるとなると、やはり、天然痘(smallpox)は欠かせません。2024年現在、唯一撲滅されたヒトのウイルス感染症が天然痘であり、史上初の快挙であることは、本コラム第35回で触れました。ヒトに限らなければ、偶蹄類の牛疫(cattle plague)が第2例目ですが(本コラム第59回参照)、今のところ、人類が完勝したウイルス感染症は、これだけです。

単なる偶然ですが、”牛”つながりの、この2つ。そもそも、ワクチン(vaccine)の語源がラテン語のVacca(ワッカ/雌牛)で、天然痘のワクチンである種痘(Smallpox vaccine)が、乳牛を世話する女性から分離された牛痘(cowpox)に由来することや、牛痘がヒトにとって弱毒な天然痘類似の疾病であることを、ご存じの読者も多いでしょう。しかし、本コラム第40回の注3で触れたように、後年、牛痘ウイルスと天然痘ウイルスの間に交差免疫(注3)が無いので、種痘と牛痘ウイルスは別種と分かりました(注4)

(注3) 交差免疫:
ある抗原に対する獲得免疫が、別の抗原にも反応すること。例えば、高病原性ウイルスAの弱毒変異株A’あるいはAに類似する低病原性ウイルスBの感染による獲得免疫が、ウイルスAに対しても働くとき、「AとA’ないしAとBには交差免疫がある」と言える。これは「低病原性の病原体に感染すると、比較的安全に、高病原性の同種病原体に対する獲得免疫が得られること」を意味する。つまり、交差免疫は、ワクチンの原理と言える。

(注4) 種痘ウイルスの起源:
ウイルス管理が不十分で、種痘ウイルスの野生株(当時の原種)は失われた。かつて「牛痘」と呼ばれた感染症は、種痘ウイルスと牛痘ウイルスを病因とするものが混在したらしい。後にワクチニア(ワクシニア)ウイルス(Vaccinia virus)と命名された、現存する種痘ウイルスは、牛痘ウイルスの変異株と考えられてきた。しかし、近年、馬痘ウイルス(horse pox virus, 馬の踵にできる脂肪腫のウイルス)とゲノム(≒全遺伝情報)の相同性が99.7%と確認された。つまり、種痘(ワクチニアウイルス)の起源は、牛に感染していた馬痘ウイルスの可能性が高い。ちなみに、種痘を開発したジェンナー (後述・注5)は、牛痘を「馬の踵の病気が牛にうつった」と考えており、ワクチンの効果が得られない”偽牛痘”との見分け方など、正しい種痘法を著書に詳述している。ウイルスや免疫に無知だった18世紀当時でも、ジェンナーは詳細な観察を基にして、現代に通じる正確な再現性を得ていたことが伺える。


種痘と牛痘法の原理
そもそも、古代より人類を苦しめていた天然痘は「回復すると二度と罹らない」ことが知られていました。そして経験的に、軽症な患者の膿を乾かしたものや瘡蓋を使って人為的に感染させる「人痘法」での予防が行われていました(今でいう「生ワクチン」)。ただし、元が”高病原性”ですから、重症化し、死亡する者も多かったようです(数十人に1人)。

危険性の高い「人痘法」に代わる、より安全な天然痘の予防法を目指して、注意深い観察と綿密な試行錯誤を18年も繰り返したのが、エドワード・ジェンナー (注5)でした。しかしながら、当時の噂話~雌牛から牛痘をうつされた酪農家は天然痘にかからない~を真に受けて、カンや何となくで取り組んだわけではありません。

生まれ故郷の田園都市で、開業医として、つぶさに住民の健康を見守っていたジェンナーは、地域の酪農家が罹患する牛痘や、牛痘にかかった者が天然痘の感染を免れていることを良く知っていました。それを科学的に検証したのです。実は、ジェンナーは、臨床医であると同時に、当代一流の科学者でした。

(注5) エドワード・ジェンナー (Edward Jenner, 1749-1823):
「牛痘法(種痘)」を開発した英国人医師。本コラム第26回で触れたジョン・ハンター(注6)の一番弟子。師匠ハンターの影響で博物学(Natural history, 自然物の収集および分類の学問 / 広義の自然科学)への造詣も深く、キャプテン・クック(注7)が帆船エンデバー号で持ち帰った新種の動物や蒐集品の目録作成に派遣されて協力した。特に、鳥の生態に詳しく、カッコウの托卵(別種の仮親の巣に排卵して世話を代行させること)を発見して、雛鳥が他種と解剖学的に異なることを報告し、晩年は、野鳥の渡り(Migration)を報告している。控え目で穏やかな性格は、師匠の影響を受けなかった様子。

(注6) ジョン・ハンター(John Hunter, 1728-1793):
医学の近代化に貢献した「実験医学の父」かつ「近代外科学の開祖」と評される英国の名医にして、様々な標本の蒐集家としても著名な博物学者。学術的な好奇心を満たすためには犯罪も厭わぬ、過激な奇人変人と名高い。彼の残した「考えるんじゃなく、試すのだ。忍耐強く、精密にね(Don’t think, try; be patient, be accurate…”)」という言葉が、彼の本質を表している。

(注7) ジェームズ・クック(James Cook, 1728-1779):
通称キャプテン・クック(Captain Cook)。英国人の海洋探検家。石炭運搬の船員から英国海軍の水兵に志願入隊し、短期間で海軍士官、最終的に勅任艦長(Post-captain)まで昇進した。卓越した航海術と測量技術で作成された、正確かつ緻密な海図と優れた調査報告の数々が、当時の国益に貢献するとともに、科学界からも後押しされたことによる。特に、3度に渡った帆船による大航海が有名。2度目の航海までで南太平洋から南極圏(南極は未発見/手前まで)を広く探検したが、北太平洋を調査する3度目の航海途中、ハワイの現地人とトラブルになり、殺害された。


ちなみに、ジェンナーは、自身の息子も開発中のワクチンで試験しました。ただし、その時に使った豚痘(swinepox)では成績が不安定だったので不採用でした。もし、これで成功していたら、今頃、予防接種はワクチンでなく、ポルクチン((ラテン語)雌豚:porca)だったかもしれませんね。冗談はさておき、種痘の成功例、第1号は、ジェンナー家の庭師の息子、8歳の少年ジェームズ・フィップス(James Phipps)でした。ジェンナーは、まず牛痘の女性サラ・ネルムス(Sarah Nelmes)の膿をフィップスに植えました。フィップスの軽快を確認してから、天然痘の膿を植えたところ、発症しなかったのです。ここに牛痘法が完成しました(1796年)。

牛痘法の効果は目覚ましく、ヨーロッパ中の評判は相当なものでした。当時のフランスで最高権力者だったナポレオン1世(ナポレオン・ボナパルト:(仏)Napoléon Bonaparte,1769-1821)は、英国と戦争中だったにもかかわらず、敵国人のジェンナーを絶賛して、勲章を授けたほどです。余談ですが、当時のフランスで、学術調査中の英国人学者2名がスパイ容疑で捕らわれました。彼らの釈放嘆願書がナポレオンに届くも、一瞥して無視。ところが、差出人の名を確認して、絶句。こう叫んで、2人を放免したそうです。

「ジェンナーか!あの男の頼みなら、何一つ断れない!」

ジェンナーは種痘で自身の利益を求めず、研究結果や方法を余すところなく公開しました。それは「人痘法」で儲けていた一部の医師達からの反感を買いました。また、ジェンナーの死後、英国では人痘法の禁止や種痘の義務化が始まり、違反者への締め付けが厳しくなると、ワクチン反対運動が増えたようです。科学的にはジェンナーが圧勝ですが、彼の功績に対する反感は増しました。一方で、世間は迷信や偏見にまみれていました。曰く「体を傷つけ牛の汁を体内に入れるなど、角や尾が生え、声が牛になるに違いない」と言った具合です。それに対しては「神様の乗った牛から与えられた聖水だから、安心だよ」と、信仰に沿って諭したと伝えられています。

ワクチン反対運動の始まりと社会の偏見
こうした迷信や偏見は、遠く離れた日本にもありました。当時は、緒方洪庵をはじめとする蘭学者たちが牛痘の普及に努めましたが、新興勢力に怯える本草学者や漢方医達の反感、そして民衆に広がる迷信や偏見には、ジェンナーたちと同じく苦労したようです。そして、それを打ち破る方策も、また同じでした。ワクチンを「白神(はくしん)」と音訳し、錦絵「牛痘児の図」を配ったのです(図2)。「天満大自在天神(注8)」にあやかり、白牛に跨る童子「牛痘児」が鬼の姿をした天然痘「疱瘡神」を退治する図柄に、民衆は喝采しました。牛痘児の構えた槍の先が、種痘を接種する二股の針になっているところなど、子供たちを怖がらせず、奮い立たせるよう、細かいところまで配慮されています。

図2.牛痘種痘奨励錦絵(嘉永3年(1850))
●緒方洪庵の私設種痘所である大坂・除痘館で頒布された引札(チラシ広告)。
●現在、除痘館跡地の緒方ビルに掲示されている(中村教材資料文庫所蔵)。
参考)「牛痘種痘法奨励の版画について」日本医史学雑誌 第30巻 第1号 通巻 第1433号
http://jshm.or.jp/journal/30-1/index.html


(注8) 天満大自在天神:
学問の神様・菅原道真公が薨去(こうきょ:皇族・三位(さんみ)以上の死亡)された後の神号。大自在天は、仏教に取り込まれた「バラモン教(後のヒンドゥー教)における最高神・シヴァ神」の意。三目八臂で白牛に乗る姿で描かれ、日本各地における白牛信仰(神の使いとして白い牛を祀る)の下地となった。


ジェンナーは、種痘という科学の力で天然痘を撲滅できると著書で予言しました。実際、およそ200年かけてジェンナーの予言は成就しましたが、ご本人の控え目な性格が災いしたのか、祖国イギリスを含め、そこまで英雄扱いはされていないようです。確かに、ジェンナーの開発した「ワクチン」は、当初から「牛痘法」を意味するのみで、現代における「予防接種」、つまり「人工的に病原体の免疫をつける疾病の予防法」には少し届きません。もちろん偉大な一歩です。ただ、偉大過ぎて、次に踏み出すのは、90年以上の歳月と科学の進歩、そして天才2人の登場~コッホ(注9)とパスツール(注10)~を待たねばなりませんでした。

(注 9) ハインリヒ・ヘルマン・ロベルト・コッホ((独)Heinrich Hermann Robert Koch,1843-1910):
ドイツ人の医師で、細菌学の第一人者。パスツールと並び称される「近代細菌学の父」。「感染症研究の開祖」として近代医学の発展に貢献した。細菌培養法の基礎を確立し、現在でも使われる染色法や培養試薬、実験器具を改良・開発・発明した。ドイツ留学時代の北里柴三郎(1853-1981,近代日本医学の父)は弟子である(本コラム第36回)。

(注10) ルイ・パスツール((仏)Louis Pasteur,1822-1895):
フランス人の生化学者で、コッホとともに「近代細菌学の父」と呼ばれる。実際の研究歴は、化学から生物学/医学と多岐に渡る。中でも「生命の自然発生説の完全否定」「低温殺菌法の開発」「外科手術における消毒法の開発」「予防接種(ワクチン)の開発」などが重要。


パスツールの研究歴を辿ると、その天才性に驚きます。有名な「白鳥の首フラスコ」の実験では「生命の自然発生説」を完全否定し、空気中の微生物が食物を腐らせたことを見抜きました。そして、微生物の混在が食品を腐敗させることから、ワインや牛乳の「低温殺菌法」を開発します。そこから「病原体としての微生物」という概念に至り、外科手術における清潔さの重要性と消毒法の開発を補佐します。さらに、弱毒化した病原体(偶然、培養に失敗した細菌)を取り込むことによる獲得免疫の発見、つまり現代的な意味での予防接種、ワクチンの開発へと展開するのです。

一方で、コッホは、疾病と病原体の因果関係を証明する条件として「コッホの原則(注11)」を提唱、本コラム第41回で触れた結核菌を始め、様々な病原体となる細菌を発見して純粋培養を行い、その病原性を証明しました。


(注11) コッホの原則:
ある微生物が疾病の病因である場合、下記の4つを満たす。
1.ある疾病から特定の微生物が見つかる。
2.その微生物を分離(≒純粋培養)できる。
3.分離した微生物を実験動物に感染させて、同じ疾病を惹起できる。
4.感染/発病した実験動物の患部から、同じ微生物を分離できる。

ただし、幾つかの限界もある。
1.ヒトの病原体が、実験動物の病因にならないことがある。
  ⇒病原体が、特定の動物にしか感染しない場合など。
2.疾病の発症後、病原体が患部から見えなくなることがある。
  ⇒病原体が起こした現象を引き金として、発症までに多段階の変異を経る場合など。
3.病原体が存在しても、発症しないことがある。
  ⇒感染先の免疫低下などを契機に発症する場合(=日和見感染)など。


こうして、人類は、ワクチンによる疾病の予防という強力な盾を手にしたわけですが、ここからワクチンに反対する人々についても見ていきます。

先に触れた「人痘法で儲けていた医者」や「蘭学を恐れる本草学者や漢方医」のように、自分の既得権益に抵触するため、新しい方法を拒絶する人々。これは、ある意味、とても分かりやすいですよね。しかし、どうも社会の中には、突拍子もない発想で恐怖を感じる人たちが、迷信や偏見に惑う民衆だけでなく、一般に「教養がある」と呼ばれるような人々の中にも(時には医師ですら)いるようです。
例えば、種痘が開発された当事国である英国では、当初から、強烈な反対運動がありました(図3図4)。

 図3.モズリー医師の予言
●著名な外科医モズリーの主張を絵にしたもの。
●妊婦に種痘すると、ミノタウロス(神話上の怪物/牛頭人身)が産まれると主張した。
●他にも「長期的な悪影響について何も分かっていないではないか」と安全性の未確認を非難した。

 図4.風刺画家ジェイムズ・ギルレイによる「新しい予防接種法の素晴らしい効果」
●中央:強面医師が怯える女性に種痘を打っている。
●周囲:顔や腕から牛の生えた人々、角が生えた者もいる。
●当然ながら、非科学的な誹謗中傷を面白おかしく戯画化している。


MMRワクチンと水銀に関する誤解
時代は進んで、現代社会では、もう少し科学的(?)に、ワクチンに反対しているようですが、控え目に言って、ほぼデマです。ワクチンに関するデマには幾つかパターンがありますが、特に社会的なインパクトが大きかったものとして「ワクチンには水銀が含まれていて、自閉症の原因になる」というものがあります。これまで、殺菌を目的としてワクチンに微量の水銀が含まれていたことは事実です。しかし本コラム第24回を始め、何度か触れていますが、そもそも、あらゆる物質は毒で、それは量で決まります。

余談ですが、「妊婦が控える食材」の中に幾つかの海産物があって、その理由が「水銀」です。海には、濃度の物凄く薄い水銀が含まれていて、微生物を餌とする小魚、それを餌とする成魚やイルカ/クジラと、いわゆる生物濃縮(Bioconcentration)によって、体が大きくなるほど体内の濃度が上がります。ですが、それでも微々たるものですし、通常、私たちが食するに栄養価のメリットこそあれ、何の問題もありません。しかしながら万一のため、神経系の発達に対する影響、つまり「胎児」に配慮する目的で、妊婦に注意するよう呼び掛けているのです。それ以外の、乳幼児を含む子供から大人までは、美味しく召し上がってください。

ワクチンに話を戻すと、含まれる水銀は、マグロの握りずし一貫で、なんとワクチン12回分と同じ量です。しかも、ここで問題とされる、ワクチン殺菌用のエチル水銀(化学式:CH3CH2HgCl/ CH3CH2HgOH)は、海産物に含まれるメチル水銀(化学式:CH3HgCl / CH3HgOH)の数百倍も弱毒性です。ワクチンの水銀ごときを問題にするなら、私たちは、寿司屋さんや海鮮居酒屋に行けません。個人的には、クジラやイルカたちが、水銀中毒で問題になっていない時点で、心配しすぎだろうと判断しています。

ウェイクフィールド事件とワクチンデマの広がり
そして、水銀と自閉症にも、何ら関係はありません。すでに科学的な論争も決着し、結論は「デマ、かつ悪質な詐欺」でした。論争の元になったのは、アンドリュー・ジェレミー・ウェイクフィールド(Andrew Jeremy Wakefield / 1956- )による1998年の論文です。当時ロンドン大学に在籍していた医師ウェイクフィールドの、有名な医学誌ランセット(Lancet)に掲載された論文の内容は、「健康で正常発達の子供たちが、MMRワクチン(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹混合ワクチン)の接種後、慢性腸炎と自閉症になった可能性がある」という報告でした。背景から説明すると膨大な量になるので、ここでは以下、問題点を簡単に列挙します。

●研究に関して倫理委員会の審査を得ていない(別の研究の審査を流用した)。
●病院の紹介(患者の自主的な参加)ではなく、著者が集めた患者のデータだった。
●その患者は反ワクチン団体の薬害訴訟目的で登録されていた。
●論文の公表前に弁護士がデータを訴訟の正当化に使った。
●同団体から研究資金を得ていた上、MMRワクチンに代わる別のワクチンの特許を取ろうとしていた。
●そもそも患者の子供たちはMMRワクチン接種前から自閉症傾向だった。
●さらに検査結果のデータも捏造・改竄されていた。

ウェイクフィールドの主張は、他の研究者で再現性が取れず、彼自身も要求された再試を拒絶し、退職して渡米しました。調査を進める内に上記の問題が明らかになるにつれ、掲載誌のランセットは論文を虚偽と判断(2004年)、あまりに悪質な不正に、最終的には論文を完全撤回しました(2010年)。調査結果を受けて、同年、英国の医事委員会(General Medical Council / 開業医登録と管理機関)は、ウェイクフィールドから医師免許を剥奪しています。最近では、アメリカの反ワクチン団体に参加して、自身の経験を「医学と政府に逆らい、人道的な活動を封じられた殉教者」として英雄視させているようで、2016年には、MMRワクチンと自閉症の関連を印象操作する映画を製作しました。映画の公開された地域では、ワクチンの接種率が下がっているといいます。幸い日本では一般公開を避けられましたが、一部で上映されたようです。

ワクチンの意義と誤解の払拭
ワクチンは、具合の悪い時に処方される医薬品と異なり、健康な時に予防効果を期待するものです。そういう意味では効果が分かりにくく、人類史の中でも特に現代的で、かなり理性的な処方と言えるのかもしれません。それだけに、人によっては感情的な反発も大きいのでしょうし、分からないことに不安を覚えても仕方ないと思います。しかしながら、そうした反発や不安を煽ることで、金儲けを企む悪しき輩のいることは、これもまた、極めて現代的な現象なのかもしれません。
将来的に、理性を促すクスリが開発されるまで待っても良いですが、そのときには「反・理性団体」からの反発が起きるのでしょうか。