翻訳会社 ジェスコーポレーション

技術翻訳 特許翻訳 法務・法律翻訳 生命科学翻訳 マンガ翻訳 多言語翻訳   
翻訳会社JES HOME > 生命科学翻訳

生命科学翻訳


生命科学の各分野で経験豊富な翻訳者が多数在籍しています

ジェスコーポレーションの「生命科学翻訳」は、バイオテクノロジー、医薬、医療機器、農学、保健学、栄養学、森林科学、海洋学等、それぞれの分野に経験豊富な翻訳者が担当いたします。
また言語に関しても、英語のみならず、中国語、韓国語、ベトナム語、インドネシア語等、多様な言語の経験があります。
生命科学に関する翻訳は、ジェスコーポレーションの翻訳スペシャリストにおまかせください。

<生命科学翻訳の取扱分野>
農業資材技術(育種、肥料、農薬)、農業関連技術(土木、機械、情報)、栽培、農業バイテク製品、遺伝子組み換え農産物、人口呼吸器、麻酔器、内視鏡、血圧計、ゲノム創薬、抗体医薬、アンチセンス医薬品、分子標的薬、分子生物学、腫瘍学、臨床試験、生物学、畜産学、植物、作物生産管理システム、生化学、生態学、水、加工食品、漢方薬など



生命科学の翻訳実績


 過去の翻訳実績の一部を下記にご紹介させていただきます。
<日本語⇒英語>
精密農業への取り組みとその実際例
接ぎ木の技法と応用例
タンザニア研修資料
解説書 -生物多様性編-
超高速ゲノム解読装置の開発
生命プログラム再現科学技術推進に関して
イネゲノム解析
ジャポニカアレイ設計
ヒトゲノムDNAアレイ
医療用電子機器および医療用電子機器の制御方法
欧米業界手術器具レーザー刻印の概要
大学院医学研究論文
蛍光顕微鏡システム比較表
体外循環症例データベース
無線伝送式pHメーター
MEDICA報告書
健康関連ディスカッション
コホート説明書/コホート同意書
MRI 説明書/MRI 同意書
インフルエンザの流行に備え
歯科と健康管理
公衆衛生リーフ
塩試験方法
安全衛生監査規程
安全衛生管理資料
吸汗速乾
<中国語⇒日本語>
医薬包装規程一覧
禁止されている食品添加物について
化学肥料と農作物に関する報告書
農業関連技術向上へ向けて
農薬と遺伝子組換え技術について
精密農業の実態調査
土壌環境制御技術
遺伝子組み換え農産物、水産物の安全性に関する論文集
果実栽培における農薬の使用に関する各種規則及び通達等
遺伝子組み換えベクターとしての大腸菌及びレトロウイルスの可能性
農薬の製造方法
遺伝子組み換え作物の安全性に関する各種規定及び通達等
動物用医薬品のGMP
各種農薬等に関する国家標準
人獣共通感染症に関する論文
脱毛予防効果試験規定
<日本語⇒韓国語>
医療器具(歯科・医科製品)カタログ
カプセル内視鏡カタログ
工業用内視鏡・X線カタログ
外国人結核患者の看護と外国語対応
結核への外国語対応に関するアンケート
 日本語⇒ベトナム語>
外国人結核患者の看護と外国語対応
結核への外国語対応に関するアンケート
衛生管理マニュアル
<日本語⇒フランス語>
日本の医療保険制度について
保湿した皮膚の摩擦特性評価
<日本語⇒スペイン語>
バイオの研究開発と予算について
精密農業の作業サイクル
可変農作業機等の開発と農作業機械の自動化
農地利用集積の進行と経営規模の拡大
有機農法、自然農法、減農薬農産物
<日本語⇒ポルトガル語>
形態に合わせた農業技術のパッケージ化の必要性について
農業経営規模の拡大と労働時間の短縮
地下水位の設定と農作物
精密農業によるコスト低減効果
稲作復興研修コース資料
生長管理のためのITの活用
<日本語⇒ドイツ語>
バイオテクノロジーフレームワーク
農薬と遺伝子組み換え食品に対する意識調査
<デンマーク語⇒日本語>
医薬品カタログ
食肉の安全管理について
<ウクライナ語⇒日本語>
 ウクライナの穀物生産調査報告書
<日本語⇒ブルガリア語>
健康診断書
<ハンガリー語⇒日本語>
食肉の衛生管理について
ブタペストにおける食の嗜好調査
<英語⇒日本語>
農業用フィルム資料
種子カウンター操作マニュアル
圃場内のばらつきと収穫との相関関係
ハイブリッドコーン
初乳後に最適な子豚用ミルク
給餌システム
農業施設用ヒーター 取扱説明書
ヨーロッパにおける三圃式農法の歴史と日本への影響
米国農務省牛海綿状脳症(BSE)関連文書
遺伝子組み換え作物の普及率詳細
DNA マーカー育種の工程
バイオマス燃料報告書
医療用ソフトウェアのご紹介
食品の国際規格
新型インフルエンザ
ライフサイエンス産業向けソリューション
ライフサイエンス関連Webサイト
<英文校閲>
〝塩”に関連する研究論文・・・多数
<日本語⇒中国語>
15分でわかるセルフケア
PED商品一覧
結核への外国語対応に関するアンケート
ピロリ菌に対する検査結果
プロポリス 最新研究資料
ヘルペスについて
リュウマチに対する効果例
安全衛生規定
遺伝子診断によるゲ ノム創薬
医科大学付属病院文書
医療機器保守マニュアル
外国人結核患者の看護と外国語対応
看護師経験に関するアンケート
間質性肺炎に対する効果例
歯科用機器カタログ
重要遺伝子の特許化
体外循環症例データベース
中国のベビースキンケア市場
中国向け処方表 & 概要
内視鏡カタログ
日本のバイオテクノロジーにおける課題
入浴剤、育毛剤説明書
農業における無人可変作業ロボットの将来性
発酵技術と品種改良
美容関連機器説明書
末期ガン患者の症例
目のしくみと目の病気について
鑑別マーカー遺伝子セット
<英語⇒中国語>
医学的診断書
環境、健康、安全に関する宣言
<韓国語⇒日本語>
健康診断書
<日本語⇒インドネシア語>
外国人結核患者の看護と外国語対応
結核への外国語対応に関するアンケート
メンタルヘルスに関するアンケート
 <インドネシア語⇒日本語>
 メンタルヘルスに関するアンケート
<フランス語⇒日本語>
フランスにおける就農数の推移と今後の課題
フランス農業と穀物市場
ブルキナファソ農業・農村地域開発プロジェクト
<スペイン語⇒日本語>
農作物品質向上のための日々の取り組み
土木技術の改良による干拓事業の推進
バイオテクノロジーの農業への拡大
スペイン農業の競争力と就農者の所得について
植物工場への取り組みとその課題
<ポルトガル語⇒日本語>
マテ茶の効用
アサイーに関する報告書
有機肥料と化学肥料の実態調査
セラード地帯における穀物生産について
農作物の収量予測システム・装置
<オランダ語⇒英語>
産業医向け「ガンと職場復帰のガイドライン」
<スウェーデン語⇒日本語>
医薬品カタログ
<ノルウェー語⇒日本語>
水産物に関する調査報告書
魚介類の取扱いに関する注意事項
<ロシア語⇒日本語>
キルギスタン農協、食の安全
<クロアチア語⇒日本語>
クロマグロの実態調査報告書
<ギリシャ語⇒日本語>
医薬品説明書
果実と野菜に関する報告書


Column




 本コラムでは、皆様からの生命科学に関するあらゆる質問にお答えします。
 webへ掲載可能なお名前(ニックネーム)にて、ご質問お願いします。

作者名:本螺 新一郎(ほんら・しんいちろう)
作者略歴:
大阪大学大学院医学系研究科博士後期過程修了。医学博士(Ph.D.)。
理化学研究所などで研究員を務め、現在は民間の研究開発職。
専門は医学・生物学(生理学、病理学、栄養学、神経科学、医用工学、幹細胞工学など)。

第74回 新型コロナウイルス(11) ~ 百日咳 ~
<質問>
蒸し暑い日々が続きますね。実は、少し前から風邪気味なんですが、なかなか治りません。親からは「夏風邪は馬鹿がひく」と言われて恥ずかしいです。咳は出るのですが、熱は上がりませんし、喉が多少ヒリヒリするくらいなので、病院に行くまでもないかと、市販薬でごまかしています。

内勤ですが接客ではないので、普通にマスクをつけて通勤 / 勤務しているのですが、あまりにも長引いているせいか、何だか周囲の目も気になりはじめました。新型コロナは、すっかりニュースで見かけなくなりましたが、今度は、百日咳が大人にも流行していると聞きました。

もしかして、私もそうなのかなぁと思ったり。嫌だなぁ。あまり仕事を休みたくないのですけど、やっぱり時間を作って、お医者さんに診てもらった方が良いでしょうか? (東京都 M.N.)
(2025年7月)
<回答>
呼吸器感染症と夏風邪
M.N.さん、ご質問ありがとうございます。そう重くない症状とはいえ、なかなか復調しないのはストレスですね。ちなみに、ご両親から夏風邪を茶化されたようですが、もしかすると、本来の意味を取り違えておられるかもしれません。ご両親の本意としては「暑いからって、寝るときにエアコンの温度を下げすぎたんでしょ?」くらいのニュアンス(nuance)かと思いますが、元々「夏風邪は馬鹿がひく」とは「半年前の冬に罹った風邪に、夏の今頃に気が付いた」、つまり「とんでもない鈍感だ」と嘲笑する言葉なのです。

なかなかに辛口なフレーズですよね。もちろん、M.N.さん親子の仲が良いからこその冗談とは思いますが、わりと人を選ぶ言い回しです。最近は、年中、何がしかの呼吸器感染症が流行っていますし、親しい方にも、あまり使われない方が無難かもしれません。

実際、新型コロナ禍のパンデミック(pandemic / 世界規模の流行)に対して、公的な規制が緩和された2023年5月8日以降、それまでの感染対策で抑えられていた様々な呼吸器感染症が、子供たちの間で一気に噴出したのは記憶に新しいところです(本コラム第50回)。

さらに、ワクチン全般の接種率が低下したことから、世界中で増加していて、たびたび日本国内にも持ち込まれる「麻疹」も心配されますし(本コラム第59回)、昨秋には「歩く肺炎」という物騒な異名を持つ「マイコプラズマ肺炎」が、8年ぶりに大流行しました(本コラム第66回)。

そして、今年の百日咳(whooping cough, Pertussis)です。おそらく国内では、これまでにない勢いで流行しています(図1)。元々、百日咳は、主に小児の病気と扱われていましたが、近年は年長児から青年、大人にまで感染者が増えたため、2018年に感染症予防法上の「5類感染症小児科定点把握対象疾患」から「5類全数把握対象疾患」へと変更されました。

図1.百日咳の流行状況(東京都 2025/7/17現在)
●Aは、2018年以降の年別報告者数
●Bは、2018年と2025年における週毎の報告人数で、全医療機関から報告される各週の感染者数合計。 

他の呼吸器感染症と同じく、百日咳も、新型コロナ禍の感染対策に伴って抑えられていたのでしょう。2020年から感染者が一気に減りました。しかし、今年(2025年)に入って急増し、全数報告に変更された初年度(2018年)と並び、追い越しました(図1A)。ただし、まだ年度の半分を超えたところですから、さらに増えるでしょう。実際、感染者増の勢いは、2018年度の6~7倍に達します(図1B)。百日咳の詳細は、後ほど解説しますが、今後の感染拡大には不安が募りますね。

ところで、M.N.さんも含め、世間の空気は「新型コロナウイルス感染症は鎮静化した」かのようですが、滅相もありません。寄せては返すがごとく、次の波が押し寄せます。数えるのも億劫になってきましたが(苦笑)、今は第13波です(図2B,C)。改めて、日本における新型コロナ禍を振り返りましょう(図2A)。

図2.新型コロナウイルス感染者数推移
●Aは全国の新規感染者数公表値(2020年1月16日から2023年5月8日まで)。
●Bは全国、Cは東京の推計値(2023年5月8日から2025年7月27日まで)
●推計値は、「エムスリー株式会社 (M3, Inc.)」が独自に構築するデータベース「日本臨床実態調査(Japan Medical Data Survey, JAMDAS)」による。
●各グラフで、縦軸の単位と数が異なることに注意
 参考) https://covid19.mhlw.go.jp/
https://moderna-epi-report.jp/

まずは2020年。世界中で感染者数が爆増する中、第3波までを基本的な感染対策(三密回避 / マスク / 手洗い / うがい)だけで抑え込めたのは、さすが日本!といったところでしょう。続く第4波のアルファ株も、世界中で危険視されていましたが、日本では第3波程度に乗り切ることができました。

しかし、悪性度の高まった、デルタ株の第5波は別格で、我が国でも一気に感染者数が増えています。とはいえ、世界各国と比べれば被害は少なく、新たに開発されたワクチンを凄い勢いで接種して乗り切りました。ただし、ここで一旦は落ち着いたかに見えたせいで、若者や子供たちのワクチン接種が進ななかったことは、非常に悔やまれます。なぜなら、桁違いに感染力を悪化させたオミクロン株が現れたからです。

素人考えでは、世界中に広まれば、流行は収束するだろうと思います。しかし、実のところ「新型コロナウイルスの変異の速さ」や「獲得免疫の感染予防効果が維持されにくいこと」は、世界の優れた研究者/開発者にも想定外でした。

2022年、オミクロン株の第6波からは、ワクチン接種者へのブレイクスルー感染(Breakthrough infection)や、既に罹患したことのある方への再感染(reinfection)が増加しました。ただし、感染者の重症化率が、予想より低かったことは幸いでした。一方で、結果的に、この病気を甘く見る傾向を醸成したことは、今に至るまで悪い影響を及ぼしています。

以前にも述べましたが、感染しても重症化しないのは、完璧ではないにせよ、ワクチンによる獲得免疫の効果で、未接種の方には悪性度の高い疾病であることには変わりないのです。実際、第6波以降の感染者数は、グラフの縦軸が一桁増えていますし、波間も底を打たず、第3~4波のピークと変わらない人数が毎日々々感染し続ける中で、次の流行につながっています。

2022年の夏に「マスクが熱中症の原因」というデマが流れたこともあって、以降、感染者数は一気に増えていますし、毎日、全国で、最低でも数千人が罹患するのが現状です。どこが鎮静化しているのでしょう。そして、2025年5月に、約5千7百人の感染者を底にして、新たな増加に転じています。

ちなみに7月27日の感染者数は全国で2万8千人を超え、東京だけで3千人台の後半です。たった1日の感染者数ですよ? 個人的にはニュースにならないのが不思議です……。

新型コロナの変異株と推移
下記のデータは、以前から本コラムで取り上げている、都内で検出される変異系統です(図3)。新型コロナウイルス系統名を表すPANGOリニエージについては本コラム第27回と第64回を参照してください。

図3.東京都保健医療局都内感染者の新型コロナウイルス系統('25/7/17)
参考)
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/genomu_20250703_1 

前回、都内の変異系統データを解説した10か月前(本コラム第64回)は、96.6%と、ほぼ全てがPANGOリニエージ”BA.2.86”の通称「ピロラ(本コラム第52回初出)」に連なる変異系統(JN.1 / KP.1~3 )でした。

ピロラの感染力は凄まじいだけでなく、その2か月後(本コラム第66回)には、”XEC”という、遺伝子組み換えを起こした変異系統が現れました(”X”は、遺伝子組換えで発生した変異系統名の接頭辞/ 本コラム第42回参照)。遺伝子組み換えを起こしたということは、1人の感染者に、複数の異なる系統のウイルスが、同時に感染したことを意味します。

特に今回は、それぞれがピロラから変異を重ねた、異なる系統のウイルスです。XECは瞬く間に世界中を席巻しましたが、図3を見ると、さらなる変異系統が続々と現れています。まずは”LP.8.1(注1)”です。これは、ピロラから9段階の変異を経ていますが、実質、ピロラと見做してよいでしょう。


(注1) PANGOリニエージ: LP.8.1:
    


しかし、続く”NB.1.8.1(注2)”と”XFG(注3)”が大問題です。
この2つの系統は、恐ろしいほどに、変異を重ねています。


(注2) PANGOリニエージ:NB.1.8.1
    

(注3) PANGOリニエージ:XFG
    


遺伝子組換えを繰り返した、あまりに複雑な変異であり、今まで以上に感染力が悪化していることから、この2つの変異系統には、ピロラを最後に途絶えていた通称が、久しぶりに付けられました。これまでは神話や天体をモチーフ((仏)motif / 着想)にしていましたが、今回は気象用語(雲の形)だそうで、”NB.1.8.1”には「ニンバス(Nimbus / 大きな暗い雨雲)」、”XFG”には「ストラタス(Stratus / 最下層を覆う雲 / 層雲)」と呼ぶことになりました。ちなみに、ニンバスは、PANGOリニエージの”N”と”B”が入っていることから採用されたのだとか。

既に、2つの変異系統は、東京のみならず世界中に拡散しており、喉の痛みが増しているとの臨床報告はありますが、重症化率は従来と同程度、つまりワクチン未接種者には、十分に危険ということです。ただし、ワクチンが効かなくなる(重症化防止を妨げる)ほどの変異では無いようです。とはいえ、これほど感染力が悪化したウイルスともなれば、ワクチン接種者のブレイクスルー感染や感染経験者の再感染について、これまで以上に心配するべきと思います。専門家たちは、日本でも秋口には収束して長期化することはないだろうと見込んでいますが、さて、どうなることやら。

ちなみに、現時点(2025年7月30日)において、登録されている最新の変異系統PANGOリニエージは、”QJ.1(注4)”と”XFV(注5)”に達しました。A~Z, AA~AZ, BA~BZ,……, PA~PZ, QA, QB,……に続いて”QJ”は354種類目、XA~XZ, XAA~XAZ, XBA~XBZ……,XEA~XEZ,XFAB,……ときて”XFV”は158種類目になります(それぞれ”I, O, X”は欠番)。”QJ.1”はピロラから7回変異した系統で、”XFV”は先に説明したストラタス(XFG)と”LP8.1”が遺伝子組換えした系統です。

とうとう、2字表記の最後”ZZ”から、3文字表記”AAA”の使用も視野に入ってくるのでしょうか。いい加減にしてほしいところですが、今のように感染者が増え続ける限り、変異系統の出現に抗う術(すべ)は、見当たりません。


(注4) PANGOリニエージ:QJ.1
    

(注5) PANGOリニエージ:XFV
    


以前から述べていますが、オミクロン株の発生以降、新型コロナウイルスは様変わりしています。改めて、5年を超えた新型コロナウイルスの変遷をPANGOリニエージ系統樹で概観しましょう。いつもとは少し趣を変えて、変異系統の出現と時系列、相互関係を強調してみます(図4)。

図4.PANGOリニエージ系統樹('25/7/22)
参考)https://gisaid.org/phylodynamics/global/fiocruz/
※”Color By”で”Variant”を選択し、”Tree Options”の”Layout”で”SCATTER”、”X”に”Date”、”Y”に”Variant”を選択してください。


(注6) オルトロス((ラテン語)Orthrus):
   ケンタウロス(BA.2.75 / 本コラム第42回)から派生した系統で、ギリシャ神話におけるタイフォン(BQ.1 = BE.1.1.1.1 = BA.5.3.1.1.1.1.1) / 本コラム第42回)の息子にして、ケルベロス(BQ.1.1 / 本コラム第42回)やヒュドラー(BN.1 = BA.2.75.5.1 = B.1.1.529.2.75.5.1) / 本コラム第44回)の兄弟。姿は双頭の犬で、ゲーリュオーン(Geryon)が放牧する牛の番犬。ちなみに、ゲーリュオーンは、見た者を恐怖で石にするメドゥーサ(Medusa)の孫。


当初、WHOがギリシャ文字で名付けた主要な変異株は、2021年末のオミクロン株の出現を機に途絶え、以降は全てがオミクロン株の変異系統です。さらに、オミクロン株から枝分かれした変異系統が、別の変異系統と遺伝子組換えを繰り返し、より感染性を悪化させながら現在に至ります。

今後、新たな変異株が分岐してこないとは限りませんが、希望的観測を述べれば、さすがに変異系統もネタ切れを起こさないか?とは思います。

以前から説明しているように、新型コロナウイルスの感染は、私たちの上気道粘膜細胞に対する、スパイク(S)タンパク質の結合で成立します。そして、私たちの獲得免疫は、Sタンパク質を標的(target)にしています。変異系統は、Sタンパク質の形を変えることで獲得免疫を逃れます。

しかし、あまりに変わりすぎると感染性が失われますし、さほど変わらなければ、抗体が見逃しません。それに、変異を重ねて感染力が悪化し、中和反応(抗原であるSタンパク質に対する抗体の結合)からは逃れても、重症化率が変わっていないということは、まだワクチン接種による獲得免疫が有効であることを意味します。

無限のイタチごっことは思いたくないのですが、まだ何か不穏な性質を隠し持っていたとしても、落ち着けば対応できるはずです。まずは変わらず地道に、呼吸器感染症の対策(三密回避 / 手洗い / マスク)を環境に応じて適切に続け、可能ならばワクチンを接種することが、個々人および社会にとって、被害を最小限にする手立て、です。

百日咳とはどんな病気か
ここからは、冒頭に触れた、百日咳に話を移しましょう。こちらはウイルスではなく、百日咳菌(Bordetella pertussis)が感染して発症します。英名の”whooping cough”が表すように、痙咳(けいがい / 連続する激しく短い咳)の後、必死に吸い込む息が、喉で「ヒュー(whoop)」と笛のように長く鳴ることが特徴で、これを吸気性笛声(whooping)と言います。

また”Pertussis”「激しい咳」を表すラテン語に由来します。日本では、19世紀初頭の江戸時代文政年間から「百日咳」と呼ばれるようになりました。これは、回復までに3カ月ほどかかることが理由です。

日本の統計で確認できる最初の記録は1947年(昭和22年)で、感染者数が約15万2千人/年と記録されています。大半(85%)が1~9歳で死亡率が約11.2%と、日本では毎年10万人以上の子供たちを襲う怖い病気でした。今でも感染者の6割が5歳未満で、特に2歳未満は重症化率が高く、さらに6カ月未満では死亡率が跳ね上がります。

かつては世界的にも、人口10万人あたり罹患率が157~230と多かったのですが、優れたワクチンが開発されてからは、0.3~2.3に激減しました。日本でも、1950年から乳幼児にワクチンの接種が始まり、子供たちの被害は改善しています。

ワクチンと免疫の低下による課題
ところが近年、奇妙なことに、感染者の年齢層が変化しました。10歳以上の高学年児童から成人にまで感染者が増えたのです(理由は後述します)。

先の図1で説明した、2018年に行われた「5類感染症小児科定点把握対象疾患」から「5類全数把握対象疾患」への変更は、子供に加えて大人の感染者を把握するため、というわけです。

ちなみに、百日咳菌の主な感染経路は飛沫感染と接触感染ですから、マスクが有効です。ただし、感染力の目安となる R0(注7)は16~21と非常に強いです。これは感染力最強と言われる麻疹(R0 = 12~18)を超えていて、免疫を持たない同居家族に感染する確率は、80~90%と言われています。


(注7) R0
基本再生産数の記号。免疫を持たない集団の中で、一人の感染者が広める感染者の人数。詳細は、本コラム第46回と第59回。


子供たちの典型的な病状ですが、感染後の潜伏期間は通常5~10日間で、まず風邪のような症状の「カタル期(本コラム第59回参照)」が2週間ほど、その後、2~3週間の「痙咳期」が続きます。ここで、先に説明した「痙咳」と「吸気性笛声」が現れます。痙咳期では体力の消耗が激しく、息苦しさから嘔吐を伴うこともあります。

乳児の早い時期では、痙咳は見られませんが、無呼吸発作からのチアノーゼ(cyanosis, 動脈における血中酸素濃度の低下 / 皮膚や粘膜が青紫色に)痙攣(convulsion)、呼吸停止へと進行するので、注意が必要です。痙咳期を過ぎると、発作は徐々に和らぎ、2~3週間かけて回復に向かいます(回復期)。


一方で、大人は軽症が多く、子供のように重症化しませんし、痙咳や吸気性笛声のない感染者も珍しくありません。ただし、回復までに時間がかかることは、子供と同じです。また、高齢者は重症化することがあります。

最も感染性の高い(人に、うつしやすい)時期はカタル期から痙咳期の前半で、痙咳期後半には感染性が低下します。目安として、発症から3週間を超えると、感染性は問題ないようです。

実のところ、カタル期は、一見して普通の風邪と変わらないため、百日咳の確定診断が難しく、感染力の強さを後押ししています。さらに、大人は症状の軽さもあって、知らずに百日咳菌を撒き散らしていることが多く、流行の拡大に拍車をかけます。

特に、気づかずとはいえ、ワクチン接種前の乳児に感染させてしまうと、死亡率も高く、悲惨です。百日咳であるかに関わらず、咳が出るときにはマスクをするのが適切です。

百日咳の治療薬としては、マクロライド系抗菌薬(注8)が効果的ですが、生後6か月未満には使えません。そのこともあってか、予防接種は生後2か月から行われるようになっています。


(注8) マクロライド系抗菌薬(macrolide antibiotic):
比較的副作用が少なく、広範な菌種に作用する抗菌薬。代表的な薬品としては、国際一般名(International Nonproprietary Name, INN)のエリスロマイシン(erythromycin)クラリスロマイシン(clarithromycin)挙げられる。


いつも言うように、どのような病気も、罹らないに越したことはありません。そして、ワクチンの開発は、感染症の被害から社会を開放します。この原則は、百日咳でも同じです。ただ、ワクチンが有効な感染症の中にあって、百日咳だけは、現在も感染者が増えている例外的な疾病です。

先に触れた「感染者の年齢層が上がっていること」にも関係しますが、実は、百日咳菌ワクチンによる獲得免疫は、5年~12年で低下するのです。そのため、水痘(本コラム第55回)や麻疹(本コラム第59回)と同じく、次のようなことが起きています。

 1)  ワクチン接種の普及による、感染者の激減
 2)  日常における感染者との接触経験の減少
 3)  ブースター効果(注9)の機能不全
 4)  百日咳菌に対する獲得免疫の不活化


(注9) ブースター効果(booster effect):
「追加免疫効果」とも言う。抗原と、時間をおいて複数回接触することで、免疫機能が強化される現象。免疫の親和性成熟(affinity maturation)による(本コラム第40回)。


個人差はあるのですが、乳幼児期のワクチン接種で得られた百日咳の獲得免疫は、高学年児童の年齢で低下し、成人にも顕著となっているのです。実際、2024年の感染者は10~19歳が半分を占め、今年(2025年)3月半ばの時点では6割に達したと報告されています。

冒頭でも見たように、今年(2025年)は1月後半から感染者が急増、それに伴って生後2カ月未満児での重症化が相次いでいます。あまつさえ、ワクチン接種前の乳児が亡くなりました。

事態を重く見た、日本小児科学会の予防接種・感染症対策委員会は、3月と6月の2回も、注意喚起を発しています。これ程の感染拡大は、免役の低下した人々が増えたことに加えて、もう一つ明確な理由があります。


マクロライド耐性菌の出現と対策の難しさ
それは、マクロライド耐性百日咳菌(Macrolide-Resistant Bordetella pertussis, 略称:MRBP)の蔓延です。先ほど説明した百日咳の治療薬、マクロライド系抗菌薬が、MRBPには効かないのです。

MRBPは、1994年に米国アリゾナ州で生後2ヶ月の男児から初めて検出されたのですが、当時は散発的に見つかる珍しい菌でした。ところが、中国で急速に感染拡大し、今では日本にも広まっています。今年(2025年)の感染者については、全例ではないものの、重症患者や先ほどの亡くなった乳児から検出されています。

代わりに使う抗菌薬については、まだ処方が確立しているとは言い難く、被害の拡大を抑えきれていません。抗菌薬や薬剤耐性菌については、また回を改めて解説できればと思いますが、簡単に言うと、私たち患者の「不適切な服薬」が、薬剤耐性菌を蔓延させるのです。

まずは、次の点に注意してください。

大前提 ) 医師や薬剤師の指示に従い、処方された通りに服薬する。

〇自分の判断でむやみに服薬したり、勝手に止めたりしない。
〇症状が楽になっても、処方された日数分を全て服薬する。
〇服薬し忘れた場合、後からまとめて服薬しない。
〇自覚症状が同じでも、以前に飲み残した薬や、他の人に処方された薬を服薬しない。

ようするに、乱用は論外として、困ったときや迷ったときは、病院や薬局に連絡して、医師や薬剤師に相談してほしいのです。

咳が続くときは迷わず受診を
さて最後に、咳の長引くM.N.さんの体調不良ですが、ご相談の内容だけでは、何とも判断できません。脅すわけではないのですが、どんな疾病が隠れているやもしれません。

ご無理なさらぬよう、できることなら呼吸器内科の専門医に診ていただければ、と思います。もちろん、多忙やストレスによるホルモンバランスの乱れが原因で、休憩/睡眠(Rest)寛ぎ/安らぎ(Relaxation)気晴らし/気分転換(Recreation)の、いわゆる”3R”で回復すれば、杞憂でした、で済みます。

私がよく使うフレーズ(phrase)ですが、「安心を買う」「健康に投資する」と意識していただければ、何よりです。