第80回 新型コロナウイルス(12)~急性呼吸器感染症~
|
<質問>
本羅先生、こんにちは。今年の冬は、いつにも増して寒さが厳しくないですか?息子が大学受験ということもあって、いつも以上に家内がピリピリしています。私も、通勤の時間帯、満員電車内でクシャミを平気でしている人を見かけるたびに「子供たちに風邪うつさないでくれよ?」と、気が滅入ります。この冬の風邪、特にインフルエンザや新型コロナは、どんな感じでしょうか。(東京都 K.M.)
|
<回答>
K.M.さん、ご質問ありがとうございます。確かに、この冬は寒さが厳しい気がします。気象庁によれば、今シーズンの寒さは平年並みとの予報でしたが、昨年は秋まで温かく(夏が長く?)、11月に一転して寒くなり、12月には真冬並み、と気温の落差が凄まじかったので、余計に寒く感じたのでしょうね。年を跨(また)いで、「最強」を繰り返す寒波と、3月4月並みの最高気温が交互にやってきましたし、1月の寒暖差も大きかったです。さぞかし、K.M.さんの周囲に体調を崩された方が多いのでは?
しかも、息子さんが受験とあっては、奥様ともども、ご心配なさるのは無理のないことですね。お話伺って、自分の大学受験シーズンの記憶が蘇ります(もう、ウン十年前!)。私は「大学共通第1次学力試験」から変わったばかりの「大学入試センター試験」を受けました。雪の寒さと緊張で震えながら、試験会場に向かったものです。2020年からは「大学入学共通テスト」に変わったそうですが、いつの時代も、形式の変更に振り回される子供たちは、大変ですよね。何とも理不尽。思い返すだけで、うんざりします(苦笑)。
体調管理が大切なことは、今も昔も、たぶん変わりません。ここ一番で、全力を尽くせない後悔は、後々まで響きますからね。そういえば、朝夕、私も満員電車に揺られますが、いますねぇ、不機嫌な顔で咳を連発する、いい年した大人たち。私は、彼らに眉(まゆ)を顰(ひそ)めつつ、一方で、懸命に参考書やノートを読み込む学生たちに、ひっそりとエール(yell)を送っています。
と、ふと調べてみたら、応援するとき気軽に使う「エール」って、和製英語なんですね! 正式には、アメリカやカナダで盛んな、学生スポーツに使うみたいです。「大勢で揃(そろ)って選手に掛ける、大きな声援」だそう。「学生」はまだしも、「スポーツ」でない上に「一人で、ひっそり」は、まるで違いましたね(苦笑)。
閑話休題。本コラム執筆、2026年1月末時点のお話ですが、インフルエンザ、新型コロナ禍ともに流行の兆し有りです。加えて、気になる感染症も幾つかあるのですが、実は、昨年から、いわゆる「定点サーベイランス(surveillance, 感染症の調査・監視)」の仕組み/制度設計(※)が変わっていますので、今回は、そちらの解説から始めます。
※ 「定点」は、サーベイランス報告義務のある医療機関のこと。
本コラム第49回参照。
|
定点サーベイランスの設計変更
厚労省の審議を経て、新たに「感染症法(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律)」が改正され、昨年(2025年4月7日)から、「急性呼吸器感染症(Acute Respiratory Infection /略称:ARI)」が、5類感染症に位置づけられました。感染症法上の類型については、以前、新型コロナ禍の位置づけ変更に関連して触れたことがあります(本コラム第45回)。改めて、5類感染症を説明すると、「公衆衛生上で医療体制を脅かす危険は(直近あくまで相対的に)低いものの、発生動向/流行状況を(万一に備えて)国が調査する必要のある感染症」という意味なのです。で、そもそも「急性呼吸器感染症」ですが、ざっくり「風邪っぽい症状の疾患」の全部、です。
以前、新型コロナ禍が5類に変更されたとき、「毎日の報告が週毎に減るなんて、万一、激しく重症化する変異株が現れたとき、後手に回って大変な事態になるのでは?」と、心配したものです。幸い、今までのところ、そこまでには至らず……。ですが、変異の止まらぬウイルス、感染力は増すばかりとあって、新型コロナ禍のパンデミックは7年目に突入、一向に収束する気配を見せません。5類に変更後、インフルエンザや百日咳、その他の感染症が、多くの子供たちを襲ったこともあり(本コラム第50回)、現体制(週毎の定点サーベイランス)における最善のアップデート(update, (最新への)改定/更新)が、今回の改正なのでしょう。つまり、もし新たな「何か」が現れたとしても ~ それが新型コロナ禍の変異株であれ、未知の呼吸器感染症であれ
~ 発生の気配は察知したい、ということ。そのために、まずは「風邪っぽいもの全部」の感染者数を調べて(患者サーベイランス)、その一部で病原体を特定し(病原体サーベイランス)、もし怪しい挙動(「患者」や「何か」の増加)が見られたら、すぐに(1~2週間で)本腰入れて対策できるよう、最低限は構えておく、と。充てられるリソース(resource,
資源/財産/要員/方策/やりくり)にも限りがありますからね。
2種類のサーベイランス
具体的には、全数報告の「患者サーベイランス」では、各定点の外来で、以下の4症状に注目します。
1)咳嗽(がいそう):くしゃみ/せき
2)咽頭痛:ノドの痛み/腫れ
3)呼吸困難:「ぜぃぜぃ/ひゅーひゅー」する息の音
4)鼻汁(びじゅう)/鼻閉(びへい):鼻みず/鼻づまり
上記の、どれか1つでも、急性(発症から10日以内)に表れた症例の内、(医師が)感染症を疑った来院患者の人数を毎営業週末に報告します。また、「病原体サーベイランス」では、各定点が、毎週の第2営業日開始から数えて、対象者5人分の検体(※)を提出し、各病原体を検査します。
| ※病原体を含むと思われる、患者の排出(はいしゅつ)物/分泌物。今回の場合、「鼻咽頭拭(ぬぐ)い液」を推奨(図1)。ただし、「鼻腔拭い液/鼻汁/鼻腔吸引液(希釈せず、吸引したものをスワブ(注1)で採取)」も可。 |
|
| (注1) |
スワブ(Swab):
医療機関で使う、綿棒状の滅菌済「検体採取キット」のこと。長さや太さが最適/取扱いが容易/輸送する検査機関までの状態保存/患者の取り違え防止など工夫が一杯。ちなみに日常品の「綿棒」は、「コットン・スワブ(cotton swab)」ですが、米語では商品名「Qチップ(Q-tip)」、イギリス俗語では「コットン・バッド(cotton bud)」を使うことも多いとのこと。バッド(bud)は「木の芽/蕾(つぼみ)」の意。 |
検体は、管区内の地方衛生研究所(注2)で検査されます。今のところ、これまで5類感染症で定点サーベイランスの対象とされた疾病の病原体(インフルエンザ/新型コロナウイルスや、ヘルパンギーナ/RSウイルス/A群溶血性レンサ球菌咽頭炎/手足口病/咽頭結膜熱(本コラム第50回)/その他の風邪症候群ウイルス(本コラム第7回)など)の検出に留まっているようです。
|
| (注2) |
地方衛生研究所:
昭和23年(1948年)、厚生省(当時)による各都道府県での設置に始まる、地域保健の科学的/技術的な中核機関。特別区や中核市では「衛生試験所」と称す。2025年11月現在、全国86カ所に設置。主な業務は、地域保健に関する総合的な調査研究/試験検査/関係者に対する研修指導/公共への情報発信など。平成9年(1997年)、公衆衛生における情報収集/解析/提供の機能強化を目的に全面改編され、令和4年(2022年)、業務を自治体の義務とし、その実施機関として法的に規定された(=法定化)。 |
今回の感染症法改正で、個人的には、定点総数の減少が気になっています。「急性呼吸器感染症」では、小児科定点と内科定点からデータを集積しますが、実は、小児科が1231点(2918→1687)、内科が446点(1735→1289)も削減されています。ただ、正確なことを言えば、対象となる地域数(保健所管区の数)は変わらず、管区内人口に沿った、各管区の定点数を再編したことによります。過去のインフルエンザ流行のデータを用いた、定点数再編前後の比較シミュレーション(simulation)では、流行の発生動向/水準について、同等の評価が得られるとのことですから、杞憂かもしれませんが、いずれ、注意深く見守ることにします。それでは、ここからは、現在の動向/状況が心配な感染症を幾つか解説します。
現在、気になる感染症の流行状況(1) ~ 百日咳 ~
まずは、本コラム第74回で解説した百日咳です。かつては小児科の疾患で、優れたワクチンで感染者数が激減しましたが、近年は、周囲の感染者不在から「ブースター効果(booster effect, ※)」が得られずに、ワクチン接種者の獲得免疫が不活化。軽症ではあるものの、年長児/青年/大人にまで感染者が増え、2018年に感染症法の「5類全数把握対象疾患」に変更されました。
※ 本コラム第40回/第55回参照。
類似の疾病は「水痘/帯状疱疹(第55回)」「麻疹(第59回)」
|
その後、医療機関や保健所からの注意喚起に新型コロナ禍が重なったこともあって、感染者数は激減していたのですが、一般的な感染対策が緩んだ影響か、昨年(2025年)から感染者が激増しました。東京都での最終的な年総計では、2018年の3倍近い感染者数です(図2B, 約2400人 → 約7200人)。
|
|
図2.東京都全数報告疾病 百日咳届出患者数 推移グラフ
●Aは、週毎の報告人数で、全医療機関から報告される各週の感染者数合計。
2026年のデータは第3週まで。
●Bは、年毎の報告人数で、全医療機関から報告される各週の感染者数合計。
●下記、参考URLで「感染症名:百日咳」を選択。
|
年が明けたばかりで何とも言えないのですが、2026年初頭から、昨年の同時期より感染者数の多いことが気になります(図2A)。もし、この勢いで増え続け、昨年以上の流行となると、これから生まれる赤ちゃんたちへの感染が心配です。というのも、昨年に流行した8割が、治療薬の効かない耐性菌(本コラム前号参照)である、「マクロライド耐性百日咳菌(Macrolide-Resistant Bordetella pertussis, 略称:MRBP)」だったのです。ワクチン接種は生後2か月以降になりますし、市中における感染者の増加次第ですが、生後2か月未満の新生児で死亡者数が著しくなるかもしれません。感染は、基本的な対策(手洗い/マスク)で防げますから、何としても抑え込みたいところです。
現在、気になる感染症の流行状況(2) ~ インフルエンザ ~
続いて、インフルエンザです。これまでにも本コラムで取り上げているように、まずはモデルナ日本法人のデータに注目です(図3)。2026年度('25/9/1~)の特徴は、例年より早く始まり、長く続く流行ピークです。さらに、年末に収束したかと思いきや、年明けから再び増加に転じました。再流行の始まりは、社会活動の盛んな大人(20~60歳未満)がきっかけで(図3D赤矢印)、彼らの増加は横ばいするも、続く子供たち(20歳未満)の間で増え続けている様子。お年寄り(60歳以上)では感染者そのものが少なく、これからの流行を左右するのは、20歳未満の子供たち次第となりそうです。残念ながら、K.M.さんのご心配(大人から子供に感染して広がる)を裏付ける傾向に見えますね。ちなみに、年末にかけて流行したウイルスは「H3N2亜型」、いわゆる「香港A型」が変異を重ねた、ちょっと厄介な代物だそう。一方で、年明けからの流行はB型で、過去と大きく変わらない亜型のようですね。ただし、年度内2度目の流行で、ここまでの増加は、東京都では1999年の統計開始来初、とのこと。いずれにせよ、ワクチンには、H3N2亜型やB型も含まれていますので、重症化予防には効果ありです。インフルエンザウイルスの亜型やワクチンのお話は、本コラム第49回を参照ください。
|
|
図3.年齢層別インフルエンザ患者数推移
●患者数は、「エムスリー株式会社 (M3, Inc.)」が独自に構築するデータベース
「日本臨床実態調査(Japan Medical Data Survey, JAMDAS)」による推計値。
●下記、参考URLの「季節性インフルエンザ」タブを選択。
|
現在、気になる感染症の流行状況(3) ~ 新型コロナ禍 ~
冒頭で触れましたが、改めて、新型コロナ禍は、まだ終わりません。2023年5月8日、感染法上の5類に変更されて以降のグラフを見たところ(図4)、 2026年度のデータは、インフルエンザに少し遅れて年明けに減少するも、底を打たずに増加に転じたようです(次の流行は第14波)。2024年から年2回の波が続きますが、ピークの高さ(感染者数)こそ下がりつつも、裾(すそ,
流行期間)は広がり、谷は底を打ちません(収束しない)。ただし、以前からの繰り返しですが、軽症/不顕性感染者の人数は、データに含まれません。市中の感染者は、グラフの数字以上にいるはずと考えて、基本的な感染対策は、抜かりなく注意するべきかと思います。現在流行中の変異系統については、後述します。
|
|
図4.新型コロナ禍患者数推移
●患者数は、「エムスリー株式会社 (M3, Inc.)」が独自に構築するデータベース
「日本臨床実態調査(Japan Medical Data Survey, JAMDAS)」による推計値。
●縦軸の単位/スケールなどの違いに注意。
●下記、参考URLの「新型コロナ」タブを選択。
各地のデータは、地図上のエリアをクリック。
|
現在、気になる感染症の流行状況(4) ~ その他の感染症 ~
データは図示しませんが、他にも、本コラム第50回で解説した、小児科定点から報告される、RSウイルス/A群溶血性レンサ球菌咽頭炎/手足口病/が増加しています。これらは「手洗いとマスク」の基本的な対策で十分に避けられるはずなのですが、皆さん、大丈夫でしょうか。また、「呼吸器感染症」ではありませんが、様々なウイルスや細菌を原因とする「感染性胃腸炎(Infectious gastroenteritis)」の増加が気になります。図5は東京都の例ですが、昨年(2025年)の、少し遅れて大きく増加したパターンとは異なり、増加のタイミングは例年通りとはいえ、勢いが凄いのです。
|
|
図5.感染性胃腸炎週報告推移(東京都)
●下記、URLの「感染症名」で「感染性胃腸炎」を選択し、
「5年比較」で「更新」をクリック。
|
感染性胃腸炎の原因となる病原体は、細菌類 (注3)の他、ノーウォークウイルス(Norwalk virus, ノロウイルス属のウイルス。本コラム第10回を参照。)やロタウイルス(rotavirus)(注4)などです。治療薬はありませんが、大抵は、補水など適切な対症療法で回復しますし、予後は悪くありません。ただし、乳幼児/小児では、脱水症から重症化の死亡まで報告されますから、注意が必要です。いずれの病原体にせよ、患者の吐しゃ物/糞便に汚染された物に触れた手指から、口を通じて感染します(糞口感染)。したがって、汚染物の処理には、撥水(はっすい)素材の家庭用手袋(※)とマスクを併用するなど、衛生管理が大切です。大事な注意事項ですが、汚れたところの拭き取り洗浄には、アルコールではなく、次亜塩素酸を使ってくださいね。感染者の家族は、ドアノブ/引き戸/手すりなどを介して、感染が広がることもあります。少し丁寧な拭き掃除が良いと思います。
※ 「素材別に以下の分類がある。使い捨てでない場合は、使用後によく洗うこと。使用者にアレルギー性接触性皮膚炎が発症するときは、素材変更/下履き手袋の使用など検討すること。
|
●天然ゴム(natural rubber /略語:NR):「ラテックス(latex, ※)」とも表示。
●合成ゴム(synthetic rubber /略語:SR):「 ニトリルゴム(nitrile rubber /略語:NBR)」が多い。
●ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride, PVC)
●ポリエチレン(米語:polyethylene /英語:polyethene /略語:PE)
●熱可塑性エラストマー(Thermo Plastic Elastomer /略語:TPE, ※):プラスチックとゴムの性質を合わせ持つ素材。
| ※「エラストマー」は、弾力性高分子(elastic polymer)の総称で、ほぼ「ゴム」と同意。 |
|
| (注3) |
感染性胃腸炎の病原体となる主な細菌:
以下に代表的な菌種を概説する。
●腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus):世界的な食中毒菌。1980年代前半まで、日本国内で食中毒の半数を占めたが、現在は年間数十件程度。
●サルモネラ(Salmonella):毒素ではなく、腸管細胞に直接侵入して炎症を起こす、サルモネラ属の腸内細菌。
●カンピロバクタ(Campylobacter):家畜/家禽/野鳥の腸内細菌で、エンテロトキシン(enterotoxin, ※)により食中毒を起こす菌種。鶏卵/鶏肉の生食による感染が多い。
※腸管に作用する毒素の総称
●ウェルシュ菌(Clostridium perfringens):嫌気性(酸素が嫌い/低酸素で増殖)で、熱に強い芽胞を作り、45℃付近で増殖するため、調理翌日に摂取したカレーなどから、エンテロトキシンによる食中毒を起こすことで有名。調理後の室温保存を避け、速やかに4度以下に冷却すると増殖を抑制できる。
●セレウス菌(Bacillus cereus):ウェルシュ菌と同様。
●黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus):通性嫌気性で(酸素の有無に関係なく増殖)、食品中に分泌したエンテロトキシンで食中毒を起こす。健康なヒトの皮膚/鼻腔/咽頭に存在する常在菌でもある。
●病原性大腸菌(Pathogenic Escherichia coli):他の菌種から毒性/病原性遺伝子を獲得した大腸菌(Escherichia coli /略称:E. coli)株の総称。感染先(大腸/小腸/腸管外)や毒素の有無(無いものは「腸管細胞への侵入」)、毒素を持つ株は、その種類(ベロ毒素(verotoxin, ※)/コレラ毒素(cholera toxin)/エンテロトキシン)で、多様に分類される。
※別名「志賀毒素」。志賀潔(本コラム第79回)の発見した赤痢菌(Shigella)の毒素。
|
|
完璧じゃなくても大丈夫。でも、油断しないで!
ざっと、挙げてみましたが、少なくとも、新型コロナ禍がパンデミックとなった2019年以降の数年は、密閉/密集/密接(三密)の回避とマスク/手洗いの徹底もあって、(新型コロナ禍以外の)どれもが社会から鳴りを潜めました。つまり、本来、基本的な感染対策(手洗い/うがい/マスク)で、ある程度は避けられる感染症ばかりです。さらにワクチンのある疾病はワクチンを打ち、部屋の換気を良くして湿度/気温を適切に保ち、しっかり栄養と睡眠を取ること。どれも、ごく普通の養生法ですが、実は、それを徹底できる人は、意外に少なかったりしますよね。現代人は、仕事や趣味に、忙しいでしょうし、社会的に感染症対策が緩んでしまった今となっては、「どれも毎日、完璧に」と考えても、抜け落ちてしまいます。ご自身の生活環境は、公共の医療機関ではないのです。満点でなくても良い!と開き直りましょう。ざっくり数日を平均して、7~8割できていれば良いです。完全主義は疲れます。ただし、週1くらいで、寝る前にでも、足りなかったこと/見過ごしたことを思い返す習慣は、意識しても良いかもしれません。自分が感染するのも嫌ですし、大切な誰かに感染させるのは、もっと嫌ですよね。神経質では疲れますが、気楽に過ぎる油断は大敵です。
改めて、新型コロナウイルスの変異系統 ~ 登録総数が、6000を超えた!?~
そうは言っても、まだまだ、新型コロナ禍は厄介です。TVを賑(にぎ)わせた「自称・専門家」たちが楽観的に述べていたような、感染拡大からウイルスの社会的な蔓延(まんえん)でパンデミックも収束する、なんて都合の良い展開は無さそうです。本コラム第36回で触れた「スペイン風邪(新型インフルエンザ)」の収束は、そうだったのかもしれません。しかし新型コロナ禍は、同回コラムで懸念(けねん)したように、ヒト-ヒト感染が続いた挙句(あげく)、7年経っても新たに感染力を増した変異系統が生まれ続けていますし、ワクチン接種者へのブレイクスルー感染(Breakthrough infection)や、これまでに罹患(りかん)した方への再感染(reinfection)の増加が、今の流行の波であることからも明らかでしょう。とはいえ、安心材料としては、ワクチン接種の重症化予防効果の報告も、我が国を始め、世界中から届いています。
では、現状、流行している変異系統は、どのようなものなのでしょうか。
前回、2025年7月に本コラム第74回で紹介した、PANGOリニエージ(新型コロナウイルス系統名/本コラム第27回と第64回を参照)の最新は、2文字表記の系統名が「QJ(354種類目)」で、Xで始まる系統名(異なる変異株の同時感染による遺伝子組換え系統)は「XFV(158種類目)」でした。それから約半年。2026年2月初頭、リストに登録されている変異系統の総数は6000を超え、その2文字表記の系統は「RV.1(388種類目)」、遺伝子組換えの系統は「XGT(179種類目)」に達しています(注5)。
|
| (注5) |
2026年2月初頭における最新の変異系統:
2文字表記の変異系統も、実際は、遺伝子組換え系統が混ざり合って(さらに遺伝子組換えして)、複雑な変異を重ねている。

※ 「XFG」は「ストラタス(Stratus, 最下層を覆う雲 / 層雲)」。
本コラム第74回参照。 |
※「BA.2.86」は「ピロラ(Pirola, 小惑星帯(火星と木星の公転軌道の間)にある小惑星の一つ)」。本コラム第52回参照。
|

※ 「NB.1.8.1」は「ニンバス(Nimbus, 大きな暗い雨雲)」。
本コラム 第74回を参照。 |
※※以下は、本コラム第42回、第48回を参照。
「XBB」は「グリフォン(フランス語:griffon, gryphon /ラテン語:gryps /英語:griffin)」。ライオンの下半身に鷹ないし鷲の頭と翼に鉤爪の前足を備える幻獣。
「XBB.1」は「ヒッポグリフ(hippogriff)」。グリフォンと雌馬の仔で、下半身は馬。
「XBB.1.19.1」は「ヒぺリオン(Hyperion)」。土星の第7衛星。ギリシア神話の古代神ティターン(Titans)。
「BJ.1」は「アーガス(ラテン語:Argus /英語:Argus)」。ギリシア神話で、100の目を持つ巨人。
「BM.1.1.1」は「ミマス(ラテン語:Mimās /英語:Mimas)」。ギリシア神話で、巨人族の1人。
「BA.2.75」は「ケンタウルス(ラテン語:Centaurus /英語:Centaur)」。ギリシア神話で、馬の首から上に人間の上半身が付いた、半人半獣の種族。 |
|
第13波で昨年の後半を席巻した「ストラタス/ニンバス」は、第9波の中に生まれて第12波を覆い尽くした「ピロラ(BA.2.86, 2023年)」以降、久しぶりに通称が付けられた変異系統です。2022年を境に、いわゆる「オミクロン株(BA.1~5)」が優勢になって以降、様々な変異系統が出現しましたが、それこそ収束どころか、まだまだ変異する余力を感じさせる不気味さがあります。
新型コロナウイルスの変遷を樹形図で
ここで折に触れて紹介している、PANGOリニエージ系統樹で、新型コロナウイルスの変遷を概観しておきます。今回は、円形に展開しました。先ほど触れたように、変異系統の登録総数は6000を超えていますが、その内、世界中の2274系統の関係を可視化したものが図6になります。さすがに系統数が増えすぎたのか、データを公開している「GISAID(Global Initiative on Sharing Avian Influenza Data, 本コラム第27回参照)」では、色分けが難しくなったようです。そこで、「現在、監視中の変異系統(Variants under Monitoring /略語:VUM)」にだけ、色を付けました。
|
|
図6.PANGOリニエージ系統樹(世界, '26/1/26)
●同心円状に時間軸を配置
●同一円上には、同じ時間の変異系統が並ぶ
●中心が武漢オリジナル株で、外縁に遠ざかるほど時間が経過
●下記、参考URLの「Dataset」で「hCoV-19/Global」、「Color By」で
「VUM」、「Tree/Layout」で「RADIAL」を選択。
|
アルファ~デルタ株などからオミクロン株、オミクロン株からピロラ、そしてニンバスにストラタス。こうして、延々と連なる変異系統を眺めると、改めて、人知を嘲笑(あざわら)う新型コロナウイルスの脅威に、ゾっとしますね。世界的には、ストラタスの増加が目立つようですが、図6で少し気になったのが、2022年オミクロン株の枝から、いきなり2026年に伸びてきた、赤丸で囲った1群です。
本コラムで「オミクロン株(B.1.1.529)」を解説したのは、第34回(2022年2月)のことでした。2021年末に、猛毒のデルタ株(B.1.617.2.1&2
= AY.1&2)を一瞬で押しのけて、爆発的に広まったオミクロン株は、変異系統を5つに分岐させ(B.1.1.529.1~5 = BA.1~5)、それらが変異を重ねて、遺伝子組換えを繰り返してきました。中でも、特に凶悪だったのが、BA.2に連なる変異系統です。上記した「ストラタス/ニンバス」、それらを生み出した「ピロラ(BA.2.86)」や「グリフォン(XBB)」、さらにグリフォンは「アーガス(BJ.1 = BA.2.10.1.1)」と「ミマス(BM.1.1.1= BA.2.75.3.1.1.1)」の遺伝子組換えですから、結局、これら全てが、BA.2から始まるのです。
ところが図6赤丸の1群は、同じオミクロンでもBA.3の変異系統でした。系統樹上での一番端には、「RE.2.2.3(= BA.3.2.2.2.2.3)」とあります。リストを当たってみると、この1群に該当するPANGOリニエージは、2文字表記4種類の変異系統(RE.1~3
/ RS.1/ RT.1 / RU.1)で28種です。振り返ると、「ギリシア神話系」の遺伝子組換え変異系統(XBB)が流行を占める中で突如、BA.2ではあっても微妙に異なる系統のピロラ(BA.2.86)が現れ、一気に広がりました。そして、ピロラ同士の遺伝子組換えにギリシア神話系も混ざり、混沌に混沌を重ねたストラタス/ニンバスが登場。そこに、ひょっこり現れたのが、またもや微妙に系統の異なるBA.3です。ちょっと心配になります。
ところで、同じ系統樹のデータをアジアに限定してみたら、どうでしょうか(図7)。
|
|
図7.PANGOリニエージ系統樹(アジア, '26/1/27)
●同心円状に時間軸を配置
●同一円上には、同じ時間の変異系統が並ぶ
●中心が武漢オリジナル株で、外縁に遠ざかるほど時間が経過
●下記、参考URLの「Dataset」で「hCoV-19/Asia」、「Color By」で
「Variant」、「Tree/Layout」で「RADIAL」を選択。
|
アジアでの流行は?
データの限定で表示が軽くなったのか、図7は上手く配色できました。基本的な樹形は、ほぼ図6と同じですが、配色のおかげで、変遷が分かりやすいです。ピロラの分布は、世界と少し異なるようで、アジアだと、ストラタスよりニンバスの方が、強勢に見えますね。もしかすると今後、世界の動向を追って、ストラタスが増えてくるのかもしれませんが、日本では、少なくとも、昨年末(2025年12月28日)に東京で検出されている変異系統は、ニンバス一色のようです。また、神奈川県の相模川で調査されている、下水中の新型コロナウイルス変異株でも、2025年12月16日時点のデータは、ほぼニンバスですね。図6での赤丸は、図7では青丸に変えていますが、系統樹上の一番端は、「RE.2.2.4(=
BA.3.2.2.2.2.4)」で、やはりBA.3の系統です。
ちなみに、図7における「XEC」と「PQ」は、それぞれ下記のPANGOリニエージから「ピロラ」と「ニンバス」に分類されています。
諦めず、過信せず、今後の対策を!
今後の情報更新で、変異系統の動向が、どう変わるのか。あるいは変わらないのか。先に見た、インフルエンザを始めとする感染症の流行状況も心配です。新型コロナ禍2024年の第11波でインフルエンザの流行とピークが重なった時のように、第14波で他の感染症と重なると、被害の大きさは想像もつきません。さらに、不気味な、BA.3変異系統の出現です。今の新型コロナウイルスワクチンの元は、BA.2変異系統ばかりなので、効果が下がらなければ良いのですが。
とはいえ、無暗に怖がるのも意味がありません。原則として、どんな感染症も、基本的な対策で軽減/回避できます。ここまで頑張ってきたのです。ご自身と周囲を病魔から守るためにも、今一度、適切なTPO(Time(時)/Place(場所)/Occasion(場合))での、手洗い/うがい/マスクの徹底、三密(密閉/密集/密接)の回避、適度に換気しつつの暖房/加湿を意識しましょう。
|
|