Column
第9回 新型コロナウイルス | ||
<質問> 本螺先生、今回初めて投稿させていただきます。職場の同僚が中国に出張することになったのですが、最近、新型ウイルスによる重症肺炎がニュースになっていますよね。やみくもに怖がることはないと思いますが、大丈夫でしょうか。解説をいただけましたら幸いです。(東京都 Y.H.)
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<回答> Y.H.さん、ご質問ありがとうございます。グローバルな仕事で世界を飛び回るのは大変ですね。確かに、各国での感染症の流行に敏感になるのも無理のないことだと思います。 新型コロナウイルス さて、中国からは、既に新型ウイルスによる肺炎での死亡が伝えられ、つい先日(2020/1/16)には中国から帰国した方に感染が認められたと報道されたところです。 その新型ウイルスは、コロナウイルス(Coronavirus)の仲間だとされています。コロナウイルスの仲間は、インフルエンザウイルスなど一部のウイルスと同様に、エンベロープ(envelope:ウイルス粒子の外殻)を持っています。 コロナウイルスのエンベロープは比較的大きな突起で覆われており、ウイルス粒子の電子顕微鏡写真が、まるでコロナに覆われた太陽のように見えることから名づけられました。余談ですが、コロナ(corona)はギリシャ語の王冠(英:crown)を意味します。 新型ウィルスの感染予防方は? 実は前々回に、風邪とインフルエンザの解説をしたのですが、コロナウイルスの仲間も、風邪の原因になるウイルスの一種です。およそ風邪の原因全体で10~15%を占めると推測されています。したがって、新型ウイルスも、基本的には風邪の予防に努めていれば、感染の機会を減らせると思います。 少し歯切れの悪い言い回しになってしまうのですが、新型に関しては、情報が少なすぎるため、確定的なことは言えません。ただし、一般的な風邪やウイルス感染の予防という観点からは、手洗いやマスク、特に、洗っていない手で目鼻口を触らないようにするということが基本で、ドアノブや手すり、スイッチなど、人の手で触れるところの消毒が感染の拡大を防ぎます。 消毒には特別な薬品は必要なく、一般に使用されるエタノールや次亜塩素酸ナトリウムを適切に使用すれば十分なはずです。 国立感染症研究所のホームページに詳しく解説があるのですが、これまでにコロナウイルスを原因とする風邪は4種類ほどが分離されており、一般に軽症で済むことが多いようです。 ところが、近年になって、動物とヒトの間で共通感染するコロナウイルスが見つかりました。それが、今回の話題にもなっている、「新型」と呼ばれるコロナウイルスの仲間なのです。 SARS(サーズ)とMERS(マーズ) これまでに知られていた新型コロナウイルスの疾患には二種類あります。一つは、Severe Acute Respiratory Syndrome(重症急性呼吸器症候群)で、もう一つはMiddle East Respiratory Syndrome(中東呼吸器症候群)といい、それぞれの頭文字をとってSARS (サーズ)およびMERS(マーズ)と呼ばれています。 SARSウイルスは、2002年に中国の広東省で初めて報告されました。半年ほどで30以上の国や地域に拡散し、8000人以上に感染して、およそ10人に1人が亡くなっているようです。 元は、コウモリのコロナウイルスであったものが、ヒトに対する感染性を獲得して重症肺炎を引き起こすようになったと考えられています。発見当初は、野生動物の中でもハクビシンが宿主であることが疑われていましたが、調査が進んだ今ではキクガシラコウモリから類似したウイルスの感染が確認されています。 一方で、MERSウイルスは、ヒトコブラクダに風邪様の症状を引き起こすウイルスであったものが、ヒトに対する感染性を獲得して重症肺炎を引き起こすようになったと考えられています。名前に「中東」とあり、ラクダに感染していたことからでも推測できるかもしれませんが、MERSは、2012年にサウジアラビアで発見されました。WHOの報告では2019年11月までに27か国の2494人が感染し、その内の858人が死亡したそうです。致死率35%弱ですから、3人に1人が亡くなるわけで、なかなか怖いですね。 新型コロナウイルス対策は、通常の風邪対策で! 少し脅し気味な解説でしたが、安心材料も紹介しておきましょう。他のウイルス性疾患とは異なり、どうやら新型コロナウイルスは、子供達には、ほとんど感染せず、感染しても軽症なのだそうです。 主に中高年以降で、特に、糖尿病など慢性の基礎疾患や体力のない老齢の方が重症化する傾向にあるようです。つまり、通常の風邪対策を万全にしていれば、健康な人の感染ないし重症化リスクは低いのではないでしょうか。 もちろん、今回の新型コロナウイルスは上記した2種類とは異なりますから、油断はできませんが、亡くなった中国の方は61歳だそうですし、日本で感染の確認された方は30代で、既に快復したとの報道です。 今回のお話でもお分かりのように、新しいウイルスが猛威を振るう恐れは、今後も付きまとうことでしょう。おそらく、ほとんどの動物種に対応するコロナウイルスがあるはずです。 実際に、私たちの身の周りにいる家畜やペットにも固有のコロナウイルスがいます。基本的に、コロナウイルスの種特異性は高いのですが、新型に突然変異するウイルスが現れない保証がないことも、また事実なのです。コロナウイルスに限らず、ウイルス達とは、油断せずに付き合っていかなくてはなりませんね。 |