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第23回 ワクチンの副反応
<質問>
本羅先生、こんにちは。新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでいますね。一方で、ワクチンの副作用(注:正確には「副反応」)の報道もあって、私の周囲では「新型コロナウイルスは怖いけど、ワクチンを打つのは嫌だ。できれば打ちたくない。」という人も少なくないです。

私は、自分の順番が来たら打ちたいと思っていますが、正直に言うと、副作用は心配です。その辺り、もう少し詳しく教えていただけませんでしょうか。(神奈川県 H.A.)
(2021年3月)
<回答>
H.A.さん、ご質問ありがとうございます。緊急事態宣言は、予定通り3月22日から解除されることに決まりました。感染者数(正確には、PCR検査陽性者数)や死亡者数は下がりきっていませんし、ワクチン接種が十分に行き渡ったとも言えない現状では、不安を募らせるのも仕方ないことです。

ましてやH.A.さんの周囲の方々のように、ワクチン接種そのものが不安な人々は、すぐに以前のような生活に戻ることなど、とても覚束無いことでしょう。ただ、ワクチンを忌避する人には、投薬の効果効能が常に副作用とのトレードオフであることを理解してもらいたいです。そもそも、あまねく全ての薬に副作用はあるものですから。

「副作用」と「副反応」
一般の薬における「副作用」は、ワクチンでは「副反応」と言います。ワクチン接種に対する人体の反応は、個人の体質や生活環境など多種多様な影響を受けますから、想定外の起こる可能性はゼロではありません。

したがって、ワクチン接種後の反応には、本来の意味における「副作用」の他に「薬とは無関係あるいは関係が薄い影響」も含まれますが、原理的に両者を区別できません。

そこで、「ワクチン接種後に現れた悪い反応」を「副反応」と呼び分けて、全てを分析しているのです。全てのワクチンの副反応には、一定の基準に沿って全て報告義務があります。

余談ですが、こうした呼び分けは英語には無く、「副作用」と「副反応」のいずれも“side effects”と訳されますが、意味としては2種類を使い分けています。

話を戻します。必ず現れるわけではありませんが、一般的なワクチンに共通する副反応としては「接種部位の痛み・腫れ・しこり」「軽度の発熱」「倦怠感」「悪寒」「頭痛」「下痢」「関節痛」などがあります。

もちろん安静にしていれば、数日で治まる軽い症状です。実のところ、こうした副反応は、ワクチンによって免疫系が活性化している証拠でもあります。

アナフィラキシー
本当の意味で心配しなければいけない副反応は他の形で現れます。それは、アナフィラキシーanaphylaxis)です。

アナフィラキシーは、第16回で説明したアレルギーの中でもⅠ型(即時型)に分類される、全身性で劇症なものです。15~20分で発症による反応が最大になり、適切に処置しなければ、呼吸困難やショック状態から命を失うこともあります。逆に言えば、適切に処置すれば、問題なく回復します。

したがって、ワクチン接種後は安静に待機して、アナフィラキシーの兆候が表れたときに、即応してアドレナリン(商品名エピペン)を筋肉注射すれば全く問題ありません。実際、日本国内の新型コロナウイルスワクチン接種によるアナフィラキシー事例で亡くなった方は、今の所おられません。

 
アナフィラキシー!・・・でも大丈夫 

ワクチンに含まれる添加物
このように適切に処置すれば、問題はないのですが、ワクチン接種の何がアナフィラキシーを引き起こすアレルゲンなのかは気になりますね。実は、多くのワクチンには保存剤などの添加物が含まれていますから、その中のどれかに反応する体質の人がおられるのでしょう。

ちなみにワクチンの添加物には、特別なものがあります。一般的に、ワクチンが安全のために無毒化されていることもあって、本当に病原体に感染して回復する過程で得られた免疫に比べ、ワクチンによる免疫は弱い傾向があります。

そこで、ワクチンの効果を増強させるために加えられているものがアジュバント(Adjuvant)という薬品です。ラテン語で「助ける」という意味の ”adjuvare”からの造語で、まさしくワクチンの効き目を助けます。簡単に言うと、アジュバント単体では免疫系に作用しませんが、ワクチンが抗原として免疫系に認識されるときに働きます。

しかし、今回の新型コロナウイルスワクチンによるアナフィラキシーは、これまでのワクチンとは少々事情が異なるようです。

新世代の遺伝子ワクチン
現在、日本では、米ファイザー社と独ビオンテック社の開発したメッセンジャーRNAワクチン(製品名:コミナティ)が接種されていますが、実は、コミナティには通常のワクチンのようなアジュバントや保存剤は含まれていません。

理由は、コミナティが新世代の遺伝子ワクチンだからで、薬剤としての原理が、これまでのワクチンと異なるために用いられる薬品も違うわけです。

まだ、コミナティに含まれるアレルゲンは特定されていませんが、候補となる物質はあるようです。それはポリエチレングリコールpolyethylene glycol, PEG, 別名マクロゴール)とソルビタン脂肪酸エステル(別名ポリソルベート)です。

基本的にPEGは無毒で、様々な産業(繊維、材料、医薬、化粧品、食品添加物など)で利用されていますが、一部の人にはアレルゲンとなることが知られています。

化粧品が反応?
興味深いことに、コミナティ接種後にアナフィラキシーを発症したのは、ほとんどが女性です。アメリカでの報告では94%が女性、日本でも3月11日までの報告で男性はたった1人だけでした。

まだ証明されたわけではありませんが、おそらくPEGやポリソルベートが化粧品等に含まれるため(主に乳化剤界面活性剤としての使用)、女性は経皮感作する確率が男性より高いのでしょう。


 
女性に多いのはお化粧するから? 

経皮感作とは、皮膚から吸収した物質でアレルギー体質になることですが、もちろん化粧品以外の形でPEGやポリソルベートと接触頻度が高ければ、男女問わずアレルギーになる人はいるはずです。

ただ、これは仮説の域を出ませんから、今後の調査や研究を待ちましょう。いずれにせよ、副反応としてのアナフィラキシーは、ほとんどの人達にとって心配ありません。

具合の悪い時に処方される薬剤と異なり、健康な時に予防効果を期待して接種するワクチンは、病院に行くことや薬を飲むことの嫌いな人々にとって、積極的な気持ちになれないことは仕方がないと思います。

接種をするもしないも、最終的に本人の意志で決めるべきです。しかし判断を誤ると、自分だけでなく周囲の健康をも害することになりかねないのが、感染症流行の怖いところです。せめて非科学的なデマや妄言に振り回されないよう、気を付けましょう。