Column
第15回 新型コロナウイルスに関するウソとホント(その2) |
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<質問> 本螺先生、こんにちは。新型コロナウイルスについて、質問です。 ようやく自粛解除にこぎ着けたと思いきや、東京は、1日の感染者数が200人超えに逆戻りです。実際、4月から5月ほど酷くはないものの、色んな噂が回ってきます。若者は感染しない/しても重症化しないから自粛しないでもいいとか、血液型のA型は感染しやすいとか、緑茶を多く飲めば感染しないとか、紫外線を浴びたらウイルスが死ぬから日光浴が良いとか、次亜塩素酸水を加湿器に入れて空間除菌ができるとか。何がなんだかよく分かりません。早く、治療薬を開発して、安心させてほしいです。(東京都 D.S.)
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<回答> D.S.さん、ご質問ありがとうございます。長丁場を覚悟していたとはいえ、感染者数増加の報道には、陰鬱な気分になりますね。 しかしながら、第12回で解説したように、重要な指標は死亡者数です。事実、東京は7月13日付で、19日連続で死者ゼロ人です。かつて心配されたような医療崩壊には、ほど遠い状況にあることも間違いありません。治療薬やワクチンの治験も進んでいますし、過剰に心配せず、冷静に日々を生活したいものです。 さて、このコロナ禍の当初に比べて、あまりにもバカバカしいデマは無くなったとはいえ、それでも、自称「専門家」がTVの情報番組やSNSで間違った情報を発信しています。D.S.さんの耳にした噂話についても、虚々実々ですね。それぞれ、解説してみたいと思います。 空間除菌 「コロナに効く」と謳った「空間除菌」という商品や情報ですが、相変わらず出回っていますね。ほとんどが正しい情報を混ぜたデマです。 例を挙げると、次亜塩素酸水(HClO)や次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)は、確かにウイルスの不活化や殺菌に効果があります。 前者は、塩酸や食塩水を電気分解して作られ、後者は、次亜塩素酸水を安定化させたもので、いわゆる漂白剤です。どちらも有効成分は塩素で、常温常圧では腐食性のある毒ガスですから、気軽に撒き散らしてはいけません。 次亜塩素酸水は、食品添加物なので安全と思われているようですが、誤解です。まず、次亜塩素酸水は不安定なので、作り置きは推奨されません。そもそも、食品添加物として認められているのは、その不安定性から食品に残留しにくいためで、口にして良いわけではないのです。ましてや、人のいる空間に霧状で散布するなど、とんでもありません。 中には、さらに危険な次亜塩素酸ナトリウムを噴霧してしまう事例もあったようです。空間除菌どころか、塩素濃度によっては確実に呼吸障害を起こします。 以前から似たような事例で、首に下げて周囲のウイルスを不活化するといった製品がありましたが、案の定、行政指導を受けています(https://www.caa.go.jp/notice/entry/019867/)。塩素系の除菌剤は、拭き掃除に使用してください。
紫外線 特定の空間を殺菌するには、紫外線を照射する殺菌灯(germicidal lamp)を使います。紫外線がウイルスを不活化できるのは本当です。ただし、当前ながら過度の紫外線は、人間にとっても有害です。実際、太陽の光に含まれる紫外線は、短時間でウイルスを不活化するほど強くありません。日差しの強烈な諸外国でも、新型コロナウイルスの感染が拡大していますし、まず期待できないでしょう。 緑 茶 緑茶がコロナウイルスの感染防御に効果があるらしいというのも、今のところデマです。緑茶に含まれるエピガロカテキンガレート(Epigallocatechin gallate、EGCG)という化合物がコロナウイルス感染に効果有り、という論文の話が出回ったのですが、元をたどると査読前の論文(出版前の草稿)でした。そもそも、臨床研究でもありませんし、今後の研究によっては「デマでなくなる」可能性もありますが、まだ証明されていません。
血液型 血液型と新型コロナウイルス感染の関係ですが、一見ウソっぽいですよね。実は、これには若干の信憑性があります。元をたどると、今年の1月、医学系の論文誌では最高峰の一つである “New England Journal of Medicine” に掲載された、“Genomewide Association Study of Severe Covid-19 With Respiratory Failure” という論文に行きつきます。 ざっくり説明すると、新型コロナウイルスに感染した約4千人のイタリア人とスペイン人について、重症化リスクと遺伝的背景の関係を調べた研究です(もちろん血液型以外も調べています)。 この論文によると、A型の人は、他に比べて45%も重症化が多く、O型の人は、逆に35%も少なかったそうです。 他にも、中国の国内研究や米国ニューヨークの病院内におけるデータ解析でも、似たような傾向が見られました。 2003年のSARSコロナウイルスでも、O型の感染リスクが有意に低いという報告がありましたから、これは病原性の強まった新型コロナウイルスに共通する性質かもしれません。 ただし数千人規模の調査で決めつけるのは早計ですし、臨床的な意味では、他の重症化リスク(慢性疾患の既往症、高齢者など)の方が大きいでしょう。 過去には、真面目に「血液型と罹患しやすい感染症」を調べた研究もあるので、病態や感染メカニズムの研究には役立つかもしれませんが、研究者以外には、茶飲み話くらいの価値ですね。 年 齢 年齢に関しては、高齢者ほど感染リスクや重症化リスクが高まることが確実です。 研究レベルでも、新型コロナウイルスが感染の標的にする受容体タンパク質(レセプター、receptor)が、子供に少なくて高齢者で多い、というデータがあります。 とはいえ、若者や子供に感染しないわけではないですし、頻度は少ないながらも重症化します。さらに厄介なことは、症状の出ない感染者が、別の人に感染させてしまうことです。自覚のない感染者による感染拡大は抑えるべきなので、適度な自粛に意味はあります。 冒頭でも触れましたが、医療体制がひっ迫している状況ではありません。油断なく、三密(密閉・密集・密接)の回避と、手洗い・うがいの徹底を日々の生活に取り入れて、もうしばらく頑張っていきましょう。 |