翻訳会社 ジェスコーポレーション

技術翻訳 特許翻訳 法務・法律翻訳 生命科学翻訳 マンガ翻訳 多言語翻訳   
翻訳会社JES HOMEColumn > archive

Column


第7回 インフルエンザについて
<質問>
本螺先生、こんにちは。さすがに最近は寒くなってきましたね。
この時期、心配になるといえば、インフルエンザです。今年は、近年にない流行だとニュースで耳にしました。幸い、これまで私はインフルエンザに罹ったことはないのですが、毎年、必ず風邪をひいてしまいます。

素朴な疑問なのですが、インフルエンザにはワクチンがあるのに、普通の風邪にはありませんよね。またインフルエンザはタミフルといった薬を病院から処方してもらわないといけませんが、風邪薬は一般の薬局で市販されています。いったい、インフルエンザと普通の風邪は、何が違うのでしょうか?(東京都 H.K.)
(2019年11月)

<回答>

H.K.さん、ご質問ありがとうございます。
実は、ご指摘のように、今年(2019年)のインフルエンザの流行パターンは、平年とは異なっています。2000年以降で最も激しく流行したのは、新型インフルエンザによるパンデミック(pandemic:世界的な感染症の流行)で、2009年のことでした。もちろん、すぐにワクチンが開発されたため、翌年からは、平年並みに抑えられています。

今年は、2009年ほどではないものの、平年より2ヶ月以上も早く流行りだしています。夏休み明けから全国の小中学校でインフルエンザによる学級閉鎖のあったことも、ニュースになりました。どうやら沖縄での流行が端緒のようで、九州、関西、関東と広がっています。まずは、外から帰ったときの「手洗い」と「うがい」の励行、早めの予防接種が肝心かと思います。

インフルエンザと風邪の一番の違いは?
さて、インフルエンザ(流行性感冒)も風邪(普通感冒、かぜ症候群)も、呼吸器を通じたウイルス感染症で、同じ「急性上気道炎」に分類されます。症状としては、咳、のどの痛み、くしゃみ、鼻水、鼻づまり、頭痛、発熱、嗄声(させい:声が嗄れること)などで、一般的には、風邪よりもインフルエンザの方が症状は重く、悪寒や高熱、倦怠感(だるさ)、筋肉痛など全身症状を訴えることが多く見られます。


この2つ、一番の違いは、ウイルス(virus)の種類です。インフルエンザは「インフルエンザウイルス」、風邪は「ライノウイルス」や「アデノウイルス」による感染症です。ちなみにインフルエンザ(influenza)はイタリア語で、本来の意味としては「影響(英:influence)」になります。なんでも、16世紀にイタリアの占星術師たちが、インフルエンザ流行の周期性に注目して、星の巡りが”影響”していると考えたのが語源なのだとか。

そのインフルエンザウイルスですが、A型、B型、C型と大きく3つに分類されます。疾病としてインフルエンザと呼ばれるのは、A型とB型が主です。実際、C型のワクチンは作られていません。A型は、人間と豚、豚と水鳥の間で共通に感染します。元々は水鳥の間を行き来する弱毒性のウイルスだったものが、突然変異で、人間への感染性と猛毒化を獲得したと考えられています。

A型ウイルスは、突然変異の速さが最大の特徴です。人間と水鳥の異なる二種類のウイルスが、重なって感染した豚の中で遺伝子組換えを起こし、突然変異を加速していると推定されています。変異が早すぎて免疫が追い付かないことが、A型インフルエンザの克服を困難にしています。

とはいえ、ワクチンの予防接種が無意味なわけではありません。少なくとも重症化を防ぐ効果は認められていますので、積極的な投与をお薦めします。一方、B型は、人間にしか感染しません。また、比較的、遺伝子が安定で、獲得した免疫は長く維持されます。

風邪にワクチンがないワケ
インフルエンザに比べて、風邪は、ありふれた病気です。成人では平均して年に2~3回、小児では年に5~8回は罹患しているという報告があります。ほとんどの風邪の原因はウイルスで、たとえば「ライノウイルス」や「コロナウイルス」「アデノウイルス」などが挙げられます。ただし一部の風邪については、「肺炎マイコプラズマ」や「肺炎クラミドフィラ」といった特別な細菌なども原因になります。風邪の症状は、インフルエンザと異なり、局所的な症状に留まる(多くは、のどから気管支)ことが多いです。ただし、風邪の症状には個人差が大きく、健康状態によっても症状は多様です。

インフルエンザと違って、風邪にはワクチンがありません。より正確に言うと、原因となるウイルスが多く、遺伝子型が百種類を超えるものもあり、実質的にワクチンが開発不能なのです。とはいえ、解熱や咳止めといった対症療法は可能で、それが風邪薬として市販されています。しかし、そもそもインフルエンザにしても風邪にしても、「安静」と「睡眠」、「体温のコントロール」、「水分と栄養の補給」などが適切であれば、自然と回復に向かいます。「風邪に特効薬はないが、自然に治る病気」ということは意識しておいてよいでしょう。もちろん、症状の重さに応じた、対症療法としての投薬は必要です。しかし、あまり薬に頼らず様子を見るという選択肢もあることは、少し強調しておきたいと思います。


タミフルとリレンザ
「風邪に特効薬はない」のですが、一方で、インフルエンザには、タミフルリレンザといった抗ウイルス薬の開発が進んでおり、適切なタイミングで服用すると、回復までの期間は確実に短くなります。ただ、因果関係がはっきりしていないものの、幼児を中心に急性インフルエンザ脳症との関連が取りざたされています。これも慎重な投与および投与後の観察で、対処することが肝要です。急性インフルエンザ脳症との関連としては、抗ウイルス薬よりも、解熱・鎮痛剤の非ステロイド性抗炎症薬 (NSAIDs:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drug)である「アスピリン」「イブプロフェン」「メフェナム酸」「ジクロフェナクナトリウム」などとの関連が重要視されています。現在のところ、インフルエンザを発症した小児に処方される解熱剤は「アセトアミノフェン」のみとなっています。

繰り返しになりますが、風邪もインフルエンザも「手洗い」と「うがい」の励行が、何よりの予防です。特にインフルエンザに関しては、早めの予防接種(ワクチン)が有効です。最後に、ワクチンについて面白い話題を一つ。注射が嫌いな皆さまに、朗報です。実は、パッチ材(経皮吸収型製剤)によるワクチン接種が可能になるかもしれません。詳しいメカニズムを説明するスペースがないのですが、ヌードマウスを使った実験では、副作用もなく良好な結果が得られたようです。近い将来、シップを貼るようにして、予防接種ができるようになるかもしれませんよ。